お嬢様はやはり想い人のことで頭がいっぱい
「……きゃー!!!!!」
都内高級住宅街にそびえ立つ大きなお屋敷の中のある一室に、悲鳴が響き渡る。
「ど、どうされたのですかお嬢様!?」
その声を聞いて駆けつけたのはもうすぐ定年を迎える執事長、「セバス」。長年八条家に勤めてきたが、彼がこれほど大きな悲鳴を聞いたことは一度たりともない。いったい何事かと思い、悲鳴の聞こえた部屋……ノアの部屋に駆けつける。
「あら、そんなに焦ってどうしたのセバス?」
しかし部屋にいたノアはいたって平然としており、事件が起こった様子もない。
「いえ……お嬢様の部屋から悲鳴が聞こえてきたので、駆けつけた次第なのですが……どうされたのですか?」
「ああ、迷惑をかけてごめんなさい。純に「世界で一番お美しいお嬢様に、傷なんてつけさせないからな」って言われたのを思い返してたらつい心が昂ぶっちゃったの」
「……ああ、なるほど」
セバスは何事もなかったことに安堵しつつも、ノアの奇行に心配の念も少し抱く。とはいえセバスも幼少期から純とノアが両片思いであることを知っており、なおかつ今日のことの顛末も高性能ドローンで見ている。
(……まあ、確かに今日の若造はしっかりしていたからな)
なのでノアがこうなってしまうのも多少理解できる。
「このことをヒカルにも話したいわ。セバス、ヒカルはどうしたの?」
「今日ヒカルは有給を取っております。何やら好きなアイドルのライブがあるらしいのです」
「そうなの。……じゃあセバスでいいわ」
「だ、妥協でございますか私は!」
「だってセバスは歳が離れすぎてるわ。アドバイスが参考になるかわからないじゃない」
「いえ、私の心は常に若さを保っておりますゆえ」
真顔でそういうセバスにノアは言葉を失いかけたが、従者に追い打ちをかけるような真似は良くないと思い、会話を続ける。
「……ならセバス、私はここからどうすれば良いのかしら? 連絡先も交換したけど、やっぱり純が告白してくるにはまだまだ時間がかかりそうよ」
「はて、それならお嬢様から告白すれば良いのでは?」
今日の一部始終を見ていても、ノアが純に告白するチャンスはあったはずだとセバスは思っている。しかし結局告白は一切せずに今日を終えようとしていることに、セバスは疑問を抱いていた。
「そ、それは……。た、確かに今日言おうとしたわ。でも……勇気がやっぱり出なかったの。それに……ヒカルから普通は男から告白するものだって聞いたから」
「……な、なんですと!」
それを聞いた時、セバスは動揺を隠せなかった。理由は簡単だ。
(あ、あの小娘……賭けに負けないためそんな小細工を!)
セバスも賭けに参加していたからだ。賭けたのは半年以内に二人は付き合うという条件。それもヒカルの掛け金とは桁が違う。
(こ、このままでは私のハワイで過ごす老後プランがおじゃんになってしまう……)
二人がずっと両片思いであることを知っていたため、どうせ早く付き合うだろうと思い半年以内としたが……ヒカルの言葉を鵜呑みにしてしまったこの状況では確実に負けてしまう。
(ここはなんとしてでも早く告白するよう促さなければ!)
だからセバスは決意した。
「お嬢様。それは間違っております」
「え、そうなの?」
なんとしてでも二人をすぐにカップルにすることを。
「でもヒカルに読ませてもらったらぶこめ? の漫画だとみんなそうよ」
「お嬢様、ラブコメは告白したらダメなのです。何故なら二人が恋人になってしまったらネタが尽きてダラダラと続きをかけなくなり、作者が収入を得られなくなってしまいますからな」
セバスは持ち前のラブコメ漫画の知識を語り、ノアを説得する。もちろんその側面もあるだろう。だが告白した後も続いている作品もあることを、セバスはあえて伝えない。
「しかしお嬢様。お嬢様は今すぐ純と恋人になりたいのではないでしょうか?」
「そ、それは……」
「でしたらご自身でも積極的に行くべきです。さもなければ二人は永遠に恋人となることはできずになってしまいますぞ」
「い、いや! そんなのダメよ! 私は純と恋人になるんだもの!」
「でしたらこちらをお使いください」
「こ、これは……映画のチケット?」
「そうです。感動的名作と名高い【汝の名は】のチケットでございます。我が八条家所有の映画館にて公開させますので、これを純と二人っきりでご覧ください。さすれば……自ずとそういう雰囲気となるでしょう」
「そうなのね! わかったわ、それじゃあ明日(土曜)誘ってみるわね!」
(これで我が老後も安泰……い、いや、お嬢様の恋路が安泰だ)
なんとかノアを誘導することに成功したセバスは、心の中でガッツポーズをする。
「では私はこれで失礼します」
そしてノアの部屋から出た後、年甲斐もなくスキップをしながらルンルンで自室に戻っていった。
ちなみに。
「ふぁ……まじキンプリしか勝たんわ。ライブ最高だったな〜……ってお嬢様、制服着てどこ行くんすか?」
「? 何を言っているのヒカル。学校に決まってるじゃない」
「いや、今通いになられてる高校、土曜休みっすよ」
「……え」
中学は私立に通っていたノアは、てっきり土曜日も学校があると勘違いしてしまい……映画に誘う計画は早くも雲行きが怪しくなった。
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