初めてのゲームセンター


 昼休みから二時間の授業を終えて、ようやく放課後になった。とはいえ放課後に部室に行ったとしても部員が俺とお嬢様だけなのでやることに限りがある。


 「ねえ純、もうここにある本は読んだことのあるものばかりだわ。他にはないのかしら?」


 さらにお嬢様はあらかた有名作品を読み尽くしているため学校にあるような文豪の作品はもうすでに読破済みだ。となればやはり暇を持て余してしまう。


 「せっかくだしまた純の書いた作品が読みたいわ」


 「そ、それは……無理」


 んなことどんなにお嬢様に頼まれようができるわけがない。恥ずかしさのあまり呼吸困難で死んでしまう。もうこれ以上傷を増やしたくないんだ……。


 「あら残念。じゃあ純、今日は部活をサボってどこか遊びに行きましょう。そうね……ゲームセンターとか行ってみたいわ」


 「え……い、いやーそ、そのー」


 遊びに行きたくないわけじゃない。むしろ行きたい、お嬢様と一緒に青春を堪能したい。だが俺は……ゲームセンターに行ったことがないのだ。


 つまりお嬢様の前でカッコつけることができない。……い、いやだって好きな人の前ではカッコつけたいじゃないか!


 「安心して、私もゲームセンターに行ったことは無いわ。だからお互い初めて同士楽しく遊べるでしょう?」


 「ど、どうして俺が行ったことがないって知って……」


 「? 純のことならなんでも知ってるわよ」


 何を当たり前のことを言っているんだと言った顔をお嬢様はする。ああ、そりゃそうだよな、お嬢様昔から従業員の誕生日とか全員覚えてたし、これぐらいは知っててもおかしくは……ないよな? 


 「さてと、善は急げというわ。早速行きましょう」


 「う、うわ! そ、そんないきなり……」


 そしてまたもや俺はお嬢様に引っ張られる形であっという間にゲームセンターに到着した。多分手を繋いでいたから意識が飛んでたんだな、うん。


 「まあ、随分とたくさんゲームが置いてあるのね」


 「そ、そりゃゲームセンターだし」


 一応俺は漫画などでゲームセンターがどんなものかをみたことがある。残念ながら今まで仕事が忙しく行く機会はなかったが。でもお嬢様はそれすらもないらしく、目をキラキラさせていた。


 「純、私これをやりたいわ」


 「これは……クレーンゲーム?」


 お嬢様が指をさした機体はクレーンゲームだった。景品には可愛らしいぬいぐるみが置いてあり、お嬢様がやりたくなる気持ちもわかる。でも


 「お嬢さ……ノア。これは取るのが難しいと聞くからあまりお勧めできないかなあ」


 何かとこの手のクレーンゲームは取りづらいという話はよく聞く。しかもこのぬいぐるみ結構大きいからなおのこと難しそうだし。


 「あら、そうなの。でも私このぬいぐるみ欲しいわ。純、取ってくれないかしら?」


 「……え、俺が!?」


 お嬢様がそこまでぬいぐるみを欲しがっていたとは……。それに気づけない自分が実に情けない。でも俺が取れるのだろうか。一回もやったことがないってのに。


 「大丈夫よ、純なら取れるわ。私信じてるもの」


 「!」


 全く自信はなかったものの、お嬢様にそう言われてしまってはやるしかない。俺は財布から百円玉を取り出し、ゲームを始める。……こうして、こうすればいいのかな? あ、ちょっとずれ……あ?


 「……と、取れた」


 素人目から見ても絶対取れない角度だったはずなのに、驚異のアームの力が働いたのかぬいぐるみはいとも簡単に取ることができた。あれ、思ってたよりも簡単なゲームなのかな?


 「すごいわ純! 一発で取れるなんて!」


 「え、えへへ……」


 でもお嬢様に褒められたからいっか。自分でも顔がだらしないことになってるとわかるけど褒められた時ぐらいいいよね。


 「じゃ、じゃあこれおじょ……ノアにあげるよ」


 「本当に嬉しいわ純。今日からこのぬいぐるみを純だと思って大切にするわね」


 「……あ、あはは」


 ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて愛らしい姿をお見せになるお嬢様をみて、情けないことにぬいぐるみに嫉妬してしまった。お、俺だってお嬢様に抱きしめられたい……大切にされたい……そこ代われ!


 「あら、純もこうして欲しいの?」


 「!? な、何を言って」


 なんてことを思っていたら、どうしてかお嬢様にその考えを見透かされていて、魅惑の瞳で俺に問いかける。も、もちろんして欲しい。けれどそんな欲望に身をゆだねるような真似をしてはお嬢様に迷惑がかかる。


 「ぬいぐるみを羨ましそうな目で見ていたからそうだと思ったの。ほら、こっちにいらっしゃい。ぎゅーって抱きしめてあげるわ」


 「!」


 お嬢様は一旦ぬいぐるみを近くにあった袋の中に入れて片手でぶら下げては、両手を広げて俺に「おいで」と言った体制になる。


 こ、これは……やばい。このままだと俺はお嬢様がもつ魅力のブラックホールに吸い込まれてしまう。いや、これはなんとしてでも耐えなくてはいけない。ここで自堕落に欲望に従えば俺はもう好意を抑えきれなくなってしまー


 「来ないなら私からするわね」


 「っ!?」


 俺が頭の中で葛藤している中、お嬢様はそんなこと御構い無しにぎゅーっと俺のことを抱きしめた。お嬢様のとてもいい香り、お嬢様の……お胸が俺の体にあたり、そして何より……顔が近い! 


 やばい、顔がめちゃくちゃ熱い。溶けてしまいそうだ。


 「そんなに顔を赤くしなくていいじゃない。これぐらい私たちの関係なのだから大したことないわ」


 「え!? お、俺たちってどういう関係なんだ!?」


 こんなことするだなんて普通の関係であるわけがない。い、一体お嬢様は何を思って……。


 「それはもちろん……あら? 純、純!?」


 何かをお嬢様が言おうとした気がした。けど俺はそれを聞く前にあまりに出来事の衝撃が大きすぎて……失神した。


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