お嬢様のお弁当は……!!!


 翌日。俺は見事にクラスの腫物になっていた。


 というのも昨日先輩方をボコボコにしてしまったのをクラスメイトが目撃していたらしく、あっという間に俺が入っていないクラスラインにて拡散されてしまったらしい。


 曰く、野原純はヤクザの跡取りらしい。

 曰く、野原純は暗殺一家の一員であるらしい。

 曰く、野原純は逆異世界転生してきたなろう系主人公らしい。


 などどまあ根も葉もない噂話が先行してしまって、今となっては誰一人として俺と喋ろうとする奴はおろか目を合わそうとする奴すらいない。昼休みになったというのに今だに誰とも目が合わないとかあるんだな……。


 「純、随分と憂鬱そうね。そんな顔じゃ純のかっこいい顔が台無しよ」


 ただ一人、ノアお嬢様をのぞいて。


 「お、お嬢さまそれは……」


 「? あら純、口をパクパクさせて何をしているの?」


 ニヤニヤとした表情でお嬢様は聞こえていないふりをなさる。昨日のあれは今日も続いていたのか……なんてことだ…………で、でもこれだけお嬢様が近くにいるのに喋れないなんて生き地獄もいいところだ。


 「……の、ノア……じ、実は……」


 「うんうん何かしら」


 よし会話ができる。今にも体がオーバーヒートしてしまいそうだがここは堪えるところだぞ俺……。


 「そ、それが……俺、クラスメイトから避けられてる気がして」


 「あらそう? 私はこうして喋っているじゃない」


 「いやそれだとお屋敷にいるときと何も変わらないというか……」


 「純にとってのクラスメイトは、私かそれ以外よ。つまり私がいれば問題ないの」


 「そ、そう言われてしまうと……」


 実際そうではある。なにせ他のクラスメイトの誰よりも俺がお嬢様のことを見ていることは間違いないだろうし、未だに全くクラスメイトの名前は覚えていない。……多分、こういうところでも俺がクラスで腫物になっている原因があるのかもしれない。


 でも仕方がないじゃないか! お嬢様めっちゃ可愛いんだもん!


 「というわけで純、昼休みは仲良く一緒にお弁当を食べるわよ」


 「……はい?」


 おおおお嬢様と二人っきりでお弁当を食べる……だと? お屋敷にいた時は俺が料理をお出しする側だったから一緒に食べる機会は一切なかったというのに……!?


 「純には私の手作り料理を堪能してもらいたいもの。というわけで善は急げというわ、行きましょう純」


 「え、ちょちょちょまだ心の準備があ!!!!!!」


 またもやお嬢様に引っ張られる形で俺は半ば強制的にどこかに連れて行かれた。ああ、なんかこういう時だけクラスメイトの男子から殺意の目線を送られるんだよなあ……。


 「さてと、ここなら二人っきりで誰にも邪魔されずに食べられるわ」


 そして連れてこられたのは文芸部の部室。相変わらず人気は一切なく誰にも邪魔されることはない空間だ。だからこそ余計に俺の心拍数は上昇してしまう。


 「さあ純、私のお弁当を見て!」


 お嬢様はウキウキとした表情でカバンから豪華な弁当箱を取り出して蓋をあける。するとその中にはなんと……。


 (ひ、人が食べられるものなのかこれ……!?)


 食べ物、とは言い難いどす黒い物体がたくさん詰められていた。おそらく食べれば待っているのは三途の川。すなわち生き残りたくば食べるべきではないんだろう。だが……。


 「初めて自分で作ったから最初に純に食べて欲しいのよ。ほら純、アーン」


 お嬢様の手作り、なおかつ黒い物体をお箸でつかんで俺の口にアーンをお嬢様が、お嬢様が! してくださっている!!! これはもう食べるしかない。そうだ、お嬢様の料理で死ねるなら本望じゃないか! 


 「い、いただきます!」


 そして俺はパクリと黒い物体を食した。すると……


 「お、美味しい!」


 一体どう言った魔法がかけられていたのだろうか。めちゃくちゃ美味しかった。多分これはお肉なんだろうけど、しっかりとした味付けをされていてなおかつ肉汁が口の中で広がっていく。や、やばいまた食べたくなってきた……!


 「あら純、とっても美味しそうに食べてくれて私も嬉しいわ。それじゃ純、今度は純のお弁当を食べさせて欲しいのだけど、いいかしら?」


 「……え、い、いやそれはちょっと……」


 確かに俺は今日お弁当を作ってきた。一人暮らしをしている身だし、むやみやたらと食費に費やすのも良くないと思っているからだ。だけどお嬢様の高貴なお口に合うようなものは一切作っていない! 


 「あら、とっても美味しそうなお弁当じゃない」


 「い、いつの間に!?」


 だがお嬢様はそんな俺の考えなど御構い無しにいつの間にか俺の弁当を開けては中身を見ていた。


 「それじゃ純、私この卵焼きが食べたいわ。アーンして食べさせてくれないかしら?」


 「え、いやそれはちょっと……」


 「あら? 私はしたのに純はしてくれないの? そんなの不公平だと思わない?」


 「う……」


 ぐうの音もでない正論だ。で、でも俺なんかがお嬢様にあ、アーンなんてしてもいいのか? い、いやしたい欲がないわけではないけど……でも……。


 「はーやーくー純」


 「!!!」


 お嬢様が可愛らしい顔をして俺が卵焼きを食べさせてくれるのを待っている。そのお姿はまるで天使さながら……。こ、こんなのもう抗うことができるわけないだろ!!!


 「そ、それじゃあ……あ、アーン」


 というわけで俺はお嬢様に卵焼きを食べさせた。


 「……美味しいわ! さすが純、料理の腕もピカイチね」


 「そ、それほどでは……」


 と口では言うものの、めちゃくちゃ嬉しい。嬉しすぎて今にもぴょんぴょん飛び跳ねてかつアクロバティックなバク転を決めたくなるぐらいだ。無論、そんなことしたらお嬢様に引かれてしまうので堪えたが。


 「じゃあ純、今度は私の番。ほら口を開けて、アーン」


 「そ、そんな二度目は……お、美味しい」


 「ふふっ。純が満足そうで何よりだわ。それじゃ次は純の番よ」


 「ま、またしないといけな……いの?」


 敬語をいうのを必死に堪えて俺は問いかける。するとお嬢様はむしろしてくれないの? と言った表情で俺を見てくるので……せざるを得なかった。そんなわけで俺はまたお嬢様にアーンをして……。


 結局、こんなやり取りを何度も繰り返していると食べ終わったのは昼休みが終わる直前だった。


   ――――――――――――

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