関わりを持たぬなどできない
「純、入学式も終わったことだし一緒に部活見学に行きましょう」
「……い、いや……そ、その……」
「どうかしたの純? 何か変なものでも見てしまったのかしら?」
「へ、変なものというか……ど、どうして体を密着させているんですか!?」
長く退屈だった入学式も終わり、何事もなく帰宅をしようとした矢先だった。たくさんの人たちに囲まれたノアお嬢様が人の波をかき分けて、俺の元に来てはぎゅっと俺の腕を恋人繋ぎしたのだ。
これも今まで一度たりとも経験がしたことがない。むしろ手すらろくに繋いだことがないのに……そ、そんな恋人同士がやるようなことを……し、しかも柔らかいお嬢様のあれが当たってしまっているし……は、鼻血が出てきてしまいそうだ。
「こうしないと純とはぐれてしまうわ」
「は、はぐれません! そ、それにこうしてる方が色々と問題が……」
「あら、別にこのぐらいいいじゃない。堂々としていれば慣れるものよ」
「そんな無茶苦茶な……」
ニヤリと笑うお嬢様は強引に俺を引っ張って部活巡りに連れて行く。俺個人としては入りたい部活があるのだが……お嬢様が入りたい部活って一体なんなんだろう? 中学の時は生徒会活動に勤しんでおられたから部活に所属していなかったし……。
「純、貴方は何の部活に入りたいの? 一緒について行くわ」
「お、俺ですか? 俺は……本が好きなので文芸部に入ろうかと思っています」
「いいわね。確かに純は休みの日や休憩時間に本をよく読んでいたし、それにとっても面白いお話も作っていたもの」
「……そ、それはなかったことにしてください」
中学の頃、何を思ったのかとても変なファンタジー小説を書いてしまった。異世界転生してその国のお姫様とイチャイチャするという、今思えばとんでもなくあっちっちな内容だ。それを佐野さん(先輩メイド)に読まれてしまい、挙句お嬢様にも読まれてしまったわけで……。
一生の黒歴史といっても過言ではない。
「私は面白いと思ったわよ。……それにどこかヒロインが私に似ている気も」
「あーそれ以上はダメです!!! は、早く文芸部の部室に行きましょう!!!」
ほんとどうして馬鹿正直にヒロインをお嬢様にしてしまったのやら。そ、そりゃ俺にとって理想的な女性はノアお嬢様だからそうしてしまったんだろうけど……はあ、許すまじ佐野。
「おーそこの彼女可愛いね!」
「俺らのマネージャーになってくんね?」
「いいことたくさんできるよ!」
そんなこんなで文芸部の部室に向かう中、禁止されているはずの勧誘を平然と行う運動部のキラキラした先輩たちがお嬢様をナンパ……もとい勧誘し始めた。中学のお金持ち学校ではなぜか恋愛禁止とされていたためこのようなことはなかったが……まあ、わかっていた未来だ。
「ごめんなさい。貴方たちには興味がないの」
だがお嬢様もお嬢様だ。もともと嘘がつけない人だからか正直に言ってしまった。これはまずいな、絶対この人たち怒ってしまうだろう。一応万が一のことがあっても何とかできるが……やりたくはないし。
「そっかごめんね!」
「気が向いたらまたきてよ!」
「大歓迎するからさ!」
……だが、予想と違って先輩たちは好意的な反応を見せた。絶対こういう人たちってキレたりして脅してくるのがセオリーかと思ったけど……どうやら違うらしい。ただ、油断はあまりできなさそうだ。何せ不気味なぐらい笑ってるから。
「早く行きましょう、純」
「は、はい!」
そんなこんなで同じようなやりとりが二、三回続いたところでようやく文芸部の教室だというところまでたどり着いた。文化系ということで部室が遠いところに設置されているのか、やけに遠い。これ絶対部員少ないんだろうなあ……。
「おや、文芸部に入部希望の人?」
「は、はいそうです!」
おそらく教員と思われる人が、ガラガラと教室のドアを開けて出てきた。もしかしてこの人が顧問なのか?
「いやーバットタイミングだねー。文芸部、今年は二、三年が部員ゼロ人だから廃部になりそうなんだよ」
「……え?」
部員が少ないどころか廃部の危機に立たされていたのか!!!
「入部希望は……二人? ならギリギリ存続できるか」
「い、いえこちらのおじょ……八条さんは違います」
「? 何を言っているの純。私も入るわよ」
「……お嬢様の方が何を仰っているのですか?」
まさかお嬢様、俺と同じ部活に入る気満々だったのか!? 一緒について行くって部室までだと思ってたけど……そういうことかあ。それはちょっと色々と問題がある。そ、そりゃお嬢様と一緒に部活動をしたいという気持ちはあるけど……でもそれだとお嬢様断ちができないし……。
「私が入っちゃダメなのかしら?」
「だ、だめというか……」
「うーん、よくわからんが一人だけなら文芸部は廃部になるぞ」
「……うう」
ああもう二人じゃないとだめなやつか。となればお嬢様と一緒に入るしかないわけで……。
「……わかりました。二人で入部します」
そんなわけで、俺とノアお嬢様は一緒に文芸部に入った。これはこれで一難なのだが……やはりお嬢様と一緒にいる以上、色々と問題は起きてしまう。
「ちょーっとお話いいかなあ?」
「ごめんねーまたまた」
「すぐ終わるからさあ」
俺たちが入部届けを出して帰宅しようとした矢先、待ち伏せをされていたのか……先ほどお嬢様に声をかけてきた先輩たちが俺たちを囲んで、体育館裏まで連れて行かれた。
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