第33話 花火大会③
私は着付けが終わった後、すぐにりょーくんの元に行きました。
かなり遅れてしまった分、舞さんがベタベタとりょーくんに触れているに違いありません。
相当な出遅れ感がありますが、これからが挽回のチャンスです。
「浴衣……可愛いって言ってもらえるかな?」
今着ている浴衣は結構な自信があります。
なにせ、この日のために買いに行ったものです。結構自分でも可愛いと思うくらいなので、男の子のりょーくんが見たらもう私に……えへへ。
「って、いけないいけない」
つい油断してしまいました。だらしない笑みが溢れています。
こんな笑み他人に見せるわけにはいきません。恥です!
私はパンパンと両手で頰を軽く叩き、表情を引き締めます。
そして会場内をぐるぐると探索して数分後。りょーくんらしき人物を見つけました。
「りょー……」
私は駆け寄ろうとします……が、無意識に足が止まってしまいました。
目の前では、悪そうないかつい男とりょーくんが睨み合っています。
りょーくんの後ろには小刻みに震えて、怯えている舞さん。
状況的には大体の想像はつきます。舞さんは見た目が可愛いですから、りょーくんが何かで離れた隙にナンパにあったんでしょう。
それで無理やり連れて行かれそうになったところを戻ってきたりょーくんが助けに入った。
やがて悪そうな男が諦めたのでしょうか……りょーくんのそばから離れていきます。
りょーくんは男が完全にいなくなったことを確認したと同時に腰を抜かします。舞さんはそんな状態でも背中にくっついたままです。
「…………」
私は近づくことができないでいました。
駆け寄りたい気持ちはあります。二人が心配です。……でも気持ちだけが先行して、足が思うように動きません。
なぜ、足が動かないのか……本当は自分でも分かっています。
こんな状況の後でのこのこと行けるはずがない。
「今日は帰ろっかな……」
私はその場から離れることにしました。
今日は舞さんに譲ろう。
会場内は家族連れやカップル、友人同士でいっぱいです。
そんな中で私は一人、来た道をひき返します。
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