第32話 花火大会②
花火大会の会場に到着すると、会場内はすでに来場者でいっぱいだった。
いろいろな露店が立ち並ぶ中で、俺と舞は人混みと言うにふさわしい中を突き進んで行く。
「結構、人いっぱいいるね」
「そうだな」
久しぶりに来たから驚いたが、こんなにいるとは……舞に訊けば、去年より多いらしい。
「舞、はぐれないためにもほら」
俺は舞に手を差し出す。
すると、それを見た舞は一瞬何かに躊躇ったものの、渋々といった感じに俺の手を握る。
「こ、子どもじゃないんだから……」
舞が目線を下に向けてそう言う。
若干、頰が赤くなっているように見えるが、子どもみたいに手を繋ぐことに対しての恥ずかしさからだろう。
「でも、この人混みだと絶対にはぐれちゃうし……これだったら安心だろ?」
「……(こくん)」
舞は耳まで真っ赤にしながら無言で頷く。
そして、俺たちはさまざまな露店巡りをした。
露店の定番と言えば、やはりかき氷。あれは早食いすると頭がキーンとなるし、あまり食い過ぎると、他が食べられなくなるので二人で一つを食べることにした。
「美味しいか?」
「うん、なんかこうするのって本当に久しぶりだよね」
「たしかにな」
小さい頃はよく舞と一緒に花火大会に行っては二人で一つのものを食べてたなぁ。
お小遣いの関係上というものもあるが、それにしてもこの感覚は懐かしさを感じさせる。
俺と舞はその後、昔話に花を咲かせ、それからというものはあっという間だった。
かき氷を食べ終えた後はたこ焼きを買ったり、フライドポテトを買ったりと、小さい頃は値段的にも手を出しづらかった食べ物を購入し、あらゆる露店グルメを制覇しまくった。
「ねぇ、あたしたち……食べ過ぎじゃない?」
「そうだな。正直もうお腹いっぱい……」
「あたしも」
逆に食べ過ぎのせいで吐き気すらする。
とりあえず近くにあったベンチに座り、俺と舞は一旦休むことにした。
総数でどれだけ食べたのだろうか……全て一個ずつ買って、それを二人で食べたとしてもかなりの量を食っているはず。
しばらく休んだ後、喉が乾いてきた。
「何か飲み物いるか?」
「うん、じゃあ……オレンジジュース」
「分かった。じゃあ、買って来るからそこで待っといて。すぐ戻るから」
俺は舞にそう言い残すと自販機がある場所まで向かった。
☆
「ち、ちょっと! 離してよ!」
自販機で飲み物を買った帰り、舞の声が聞こえた。
––––一体何があったんだ?
ただ事でないことはたしか。俺はすぐさまに舞の元へ駆け戻る。
「いいじゃねーかよぉ。ネェーちゃん一人なんだろぉ~?」
すると、そこには一人の明から様に悪そうな男が舞の腕を掴んで、引っ張って行こうとしていた。
「おい、何してんだ!」
このままだと舞が危ない。そう咄嗟に判断した俺は間に入り、舞の腕を掴んでいた手を払いのける。
「アァ? チッ……男がいたのかよ……」
男は狂気に孕んだ目を俺に向け、今にでも殴りかかって来そうだ。
一方、俺の後ろにいる舞は……
「うぅ……りょーすけ……りょーすけ」
泣きながら俺の服を掴み、背中に額を押し付けていた。
心にじわぁ~と何かが染み込むような感覚がする。
まるで小さい頃の舞を見ているような……そんな懐かしささえ感じさせる。
幼なじみとして、舞を守らなくちゃいけない。
そう思うと、自然と相手に対する恐怖がなくなり、どこからか力が湧いてくる感じがした。
「すみませんが、こいつ俺の連れなんで」
内心殴られるんじゃないか……そう覚悟決め、牽制する。
俺と男の睨み合いが続く。
どれくらい続いたのだろうか……一秒が数十秒くらい感じさせるような緊迫な状況だったから分からない。
が、やがて、男の方が折れたのか、
「チッ……」
舌打ちだけした後、俺たちの方からズカズカと離れて行った。
俺は男が完全に見えなくなったと同時に変な力が急に抜け、腰が砕ける。
一方の舞はそれでも俺の背中に額を押し付けながら、離れようとしない。
「大丈夫か?」
「……(コクン)」
ただ頷くことしかしなかった。
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