第24話 デート【withあーちゃん】⑤
「今日は楽しかったなぁ~」
「そうだな」
午後も遊びまくった俺とあーちゃんは帰宅路を横に並んで歩いていた。
あーちゃんは満足そうな表情をして、俺は疲れ切った表情をしている。
ラウンドツーとはいえ、ゲーセン以外にもちょっとしたスポーツが楽しめたりできる。
それを三時間パックコースでひたすら遊びつくした。というか、いくつか種類があるけど、全ての種類を制覇したんじゃないか?
そんなこんなでもう日が傾き始め、午後五時を知らせる音楽が街中に響渡っている。
「なぁ」
「ん? どうしたの?」
「いや、大したことじゃないんだけどさ、買い物とかしなくてよかったのかなぁと思ってな」
そういえばなんだが、今日はラウンドツー以外に昼食をとりにカストに行ったきり、他の場所には行っていない。
女子は出かける=買い物と俺の中では定義されているため、あーちゃんが買い物をしたがらないのに不思議と思っていた。
と言っても、あくまで俺の定義であって、他の男子からすると、そうではないという意見もあるだろうし、女子全員がそうじゃないとは俺も思っている。
あーちゃんは首を傾げ、キョトンとした表情を見せる。
「別に欲しいものがあるわけでもないし……今日は純粋にりょーくんと遊びたかっただけだから」
「そ、そうか……」
なぜか俺は照れてしまった。
いや、幼なじみとはいえ、こんな美少女から「今日は純粋にりょーくんと遊びたかっただけ」という言葉を聞けば、嬉しい気持ちになってしまうだろ? 俺が今こうして照れてしまうのも、れっきとした生理現象の一つに違いない。
「りょーくん、なんか顔が赤いけど大丈夫?」
「え? あ、うん。大丈夫大丈夫」
「本当に?」
あーちゃんが疑っているような目で俺の顔を覗き込む。
俺はそんなあーちゃんの目を見ていられず、無意識的に目線を逸らしてしまう。
「ほ、本当に大丈夫だから……って、ちょっ?!」
いきなり顔を両手で掴まれたかと思えば、気がついた時には目の前に端正に整ったあーちゃんの顔。
そして、あーちゃんは、俺の前髪を片手で上げたと同時にもう片手で自分の前髪を上げる。
「昔を思い出すね」
あーちゃんの甘い声とともに額と額がコツンとぶつかり合う。
俺は何が起こっているのか、一瞬分からず、目の前にあるあーちゃんの顔をじっと見つめる。
それから数秒も経たずに目線が合うと、停止した思考回路が急に回復したみたいに今の状況がどんどんと脳内に入っていき……
「な、ななななななななにやってんだよ!!!」
「何って、昔みたいにお熱を計っていただけなんだけど……」
「む、昔って、俺たち今にゃん歳だと、お、おおおお思ってんだよ!!!」
「もうすぐ十七、じゃないの?」
あーちゃんは何かおかしいことでもした? みたいな顔をして首を傾げる。
今もなお、額に微かに残るあーちゃんの体温。
––––考えるだけで顔から火が吹きそうなんだが?!
「りょーくん体温高かったけど……って、ち、ちょっと待ってよ!」
俺は恥ずかしさのあまり、家まで全力疾走した。
そういえば、この光景……若干違うにしろ、どこかで見覚えがあるような……。
どこでだったかは忘れたけど、俺の中ではなぜか既視感があった。
☆
「あいつら……帰るときまでイチャイチャと!」
あたしは結局あのあと、帰ろうと決意して、自宅からカストまでの距離、半分くらいまで来ていたが、結局気になり、戻っていた。
午後は特にイチャイチャというらしい行為は見受けられず、ラウンドツーにいる時もただ遊んでいる幼なじみとしか見えなかったけど……
「な、なんで熱を計るのに額なのよ! 手でいいでしょうがっ!」
あたしは隠しきれないイラ立ちを近くにあった電柱に蹴りを飛ばして発散していた。
途中、その場面を見ていた小学生の集団がやばいものを見てしまったみたいな顔をして、通りすぎて行ったが、そこはとりあえず気にしないでおこう。
とにかく、あたしは今イラっとしている。
「りょーすけも顔を赤くして……死ねばいいのに」
あたしといる時はあんな顔見せたことなんてなかった。
やっぱり早坂がモデル並みに美人でおっぱいもあたしよりか遥かに大きいから?
胸の奥がモヤモヤとする……これが、ヤキモチっていう気持ちだと初めて知った。
「お母さん……やっぱりあたし、早坂なんかに勝てないよ……」
このまま見ていても、このモヤモヤとした気持ちが増えていくだけ。
あたしは今度こそ、二人に背を向け、遠回りにはなるけど、家に帰ることにした。
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