第23話 デート【withあーちゃん】④
注文した料理がテーブルに運ばれてきた。
俺とあーちゃんはそれぞれ注文した料理を自分の前に移動させると、さっそく「いただきます」を言ってから料理に手をつける。
カストに来てもう四十分近くになる。
ただでさえ、ラウンドツーにいるときですら、お腹が空いていたのに、あれからさらに時間が経てばもう言うまでもない。
俺とあーちゃんは会話は時々するも食べる方に夢中になっていた。
それくらいお腹が空いているという証なのだが……
「ごちそうさまでした」
「早いな。もう食べ終わったのか?」
「うん、だって私のミートスパゲティだったでしょ? スパゲティなんて私からすればただの飲み物よ」
「の、飲み物……」
初めて聞いたぞ?! スパゲティって飲み物だったの?
と、一瞬思ったが……いやいや、そんなわけあるかっ!
まぁ、ネタだとは思うけど……というか、むしろそうであってほしいが、あーちゃんはまだ物足りないのか、不満げな表情を見せる。
「まだ何か頼むか?」
俺は気を遣い、そう訊く。
「う、ううん、私はもうお腹いっぱいだから……」
顔を少し赤らめて恥ずかしそうにそう言うものの、あーちゃんの目線は俺のハンバーグにロックオン。
––––スパゲティは飲み物とか言った時は驚いたけど、あーちゃんも女子だしな。異性がいる前では注文しづらいというのもあるのかもしれない。
俺はそう思い、食べかけの部位をナイフで切り落としたハンバーグを先ほどまでスパゲティがあった皿に移す。
「試食、してみるか?」
さり気なく俺はそう訊くと、あーちゃんは声には出さなかったものの、目線を下にズラし、こくんと小さく首を縦に振る。
一応、ご飯もいるかどうかは訊いたが、それについては首を横に振った。
☆
全て食べ終えた後、俺とあーちゃんはドリンクを飲みながら一息ついていた。
あーちゃんはメニュー表を見て、デザートを注文しようか、しないかをどうやら自分の中で葛藤しているらしく、先ほどからメニュー表と睨めっこをしている。
「食べたいなら食べてもいいんじゃないか?」
「できるんだったら、そうしたいよ。でも……」
あーちゃんの言いたいことがなんとなくわかった。
女子は何かと体型を気にする。
俺ら男子から見れば、さほど変わっているようには見えなくても、少し体重が増えただけで女子は悲観的な感情になってしまう。
別に痩せすぎもよくないと思うし、あーちゃんは見た目が細い。もう少し太っていてもいいんじゃないかと俺的には思うのだが……。
「や、やっぱりやめとく。食べすぎはよくないから」
そう自分に言い聞かせるように言うと、あーちゃんは名残惜しそうな目でメニュー表をパタンと閉じ、元の場所へと戻す。
本人がそう言っているのであれば、俺は何も言うことはない。
が、本当によかったのだろうか?
「本当にもういいんだな?」
「うん……って」
あーちゃんがいきなりクスクスと笑い出した。
俺はわけが分からずに首を傾げる。
「りょーくん、口元にご飯粒がついてるよ?」
「え、うそ?!」
俺は口元辺りを弄るが、全然取れない。
それを見かねたあーちゃんが腰を浮かせ、テーブル越しから近づいてくる。
「ちょっと動かないで」
「うん……」
そう言って、俺の口元からご飯粒を取り出すと、「ほら」と言って、見せた後、自分の口にそのご飯粒を運んだ。
「なっ?!」
それを普通食べるか?!
そんな光景アニメの世界でしか見たことねーぞ?
あまりの衝撃に思わずぽかーんとしてしまう。
「じゃあ、そろそろ出よっか」
ニコッと微笑んだあーちゃんは何事もなかったかのように俺より先に席を立った。
☆
「何をやってんのよ!」
りょーすけと早坂がカストで食事をしている間、あたしは満席ということもあって中に入ることができなかった。
だから、近くのコンビニで買ったあんパンと牛乳を片手に二人を監視できる電柱の影からじっと張り詰めているのだけど……なんでだろう? さっきから視線をどことなく感じる。
あたしは一旦サングラスを外して、周りを確認。
すると、通りかかる人ほぼ全員があたしを見ていた。
––––こ、これじゃ、逆に目立つじゃない!
「そ、そうよ。そもそもこの格好がいけないのよ」
今の時代に帽子とサングラス、マスクとかどう見ても不審者じゃない。
そりゃ通り過ぎる人も気になって見てしまうのも納得ができる。
誰かが通報する前にあたしはサングラスとマスクを外し、ポケットの中に突っ込む。
「それにしても遅くない?」
二人が中に入って、もう一時間は経つよ?
それなのに二人はまだテーブルに座って、何かをペチャクチャ喋ったかと思えば、料理を食べ始める。
いくらなんでも遅すぎ! 私の時なんかマッグで三十分くらいでお昼ご飯は終わったっていうのに!
「このままいるのもなぁ……」
一時間も電柱裏で監視はさすがにキツい。
––––もうそろそろ帰ろっかな……?
これ以上監視を続けたって、イライラが募るだけだし。
というか、なんであたしがこんなことをしなくちゃならないわけ?!
あたしは電柱裏から久方ぶりに足を動かし、二人の元から離れることにした。
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