第16話 デート【with舞】②

 移動すること数十分。

 俺と舞は近くの大型ショッピングモールへとやってきた。

 店内は新型感染症が蔓延しているというのに対し、それすらを忘れさせるほどに意外と人の数が多い。

 先ほどは顔が赤かった舞も今となっては、いつも通り。

 ……ということは、舞の言った通りだったということか?

 そんなことを思いながら、舞の後ろをついて歩いている最中、いきなり舞が立ち止まって、こちらに振り返る。


「ちょ、ちょっと……あたしの横を歩きなさいよ」


「え?」


「え、じゃない! ほら」


 舞はそう言うと、俺の腕を掴み、強引に横につける。

 そして、なぜかそのまま自分の腕を絡めてきた。

 歩くたびに舞の小さな胸の感触が腕に伝わり、脳やいろんなところを刺激されるが……無心になるんだ俺。


「あ、あのー……舞さん?」


「……なに?」


「なんで腕を絡めていらっしゃるのかなと思いまして……」


「そ、それは、その……こうでもしないとあんたが不審者みたいに見られるからよ」


「俺のどこが不審者なんだよ!」


 俺ってそんなに怪しく見えるのか?

 自分的には普通の男子高校生が着そうな私服だし、サングラスやマスクもしていない。

 誰がどう見たって普通の高校生としか見られないような背格好だと思うんだけど……でも、舞がそう言うのならそうなのかもしれない。

 自分では分からないことでも相手からは分かるということもある。例えば、口臭とか。

 舞の不審者発言はその類なんだと俺はそう思うことにした。


「ありがとな」


 自分の中で自己解決したことで、舞が良心的にそうしてくれていると思った俺は小さな声でそう呟く。

 すると、聞こえていたのか、舞は首を小さくこくんと縦に振る。


「ほ、ほら、着いたから中に入るよ」


「ああ」


 俺は舞に腕を引かれながら、二階の専門店街にある店舗に入った。

 中に入ると、若い女性の店員さんが「いらっしゃいませ」と声を響かせる。

 辺りを見回すと、レディース用の服が売られている限り、ファッション店ということは容易に分かったのだが、


「また服買うのか?」


 一緒には行ってないが、先週も新しく服を買ったという話を聞いていた。

 それなのにこんな短期間に再び服を買うのは、俺的にどうかと思う。

 が、舞は俺の発言が気に触ったらしく、ツンとした態度をとる。


「またってなに?」


「いや、だから、先週も買ったんだろ? そんなに服を買わなくても––––」


「なに言ってるの? これだからファッションセンスがないりょーすけはモテないのよ」


「え、いや、モテるかどうかは関係––––」


「あるよ。女子は流行に敏感なの。だから、流行に乗り遅れたりすれば、いつまでたっても時代遅れな服を着ていることになるでしょ? そうなってしまえば、モテない」


「……そういうものなのか?」


「そういうものなの! じゃあ、あたし試着してくるから」


 そう言うと、舞は事前にでも選んでいたのか、すぐにある一着を手に取ると、試着室の方へと行ってしまった。

 舞は流行の服装でモテる、モテないとか言っていたけど、正直な話それが正しければ、世の中の男子だって苦労はしない。

 流行というのは時と場面では、重要になってくることもあると思うが、結局世の中の男性、女性はほとんどが顔や性格で恋人、夫婦を決めている。

 ……あーあ! 彼女欲しいなあ! どこか俺の事を好きでいてくれるような可愛い女の子はいないのかなあ!

 そう心の中で嘆いていると、ふとポケットに突っ込んでいたスマホが震え出す。

 俺は何だよと思いながら、スマホを取り出し、画面を確認する。

 舞からのメールだった。


"試着室前に来て"


 なぜにと一瞬思い、メールでそれを訊こうかとしたが、試着室までは約十数メートル。わざわざメールで訊く必要もないかと判断した俺は、とりあえず試着室前に行く。

 試着室前に行くと、カーテンの隙間から顔だけを覗かせた舞の姿が見えた。


「りょーすけ、遅い」


「遅いか?」


 駆けつけて早々に遅いと言われたが、メールが届いてから三十秒くらいしか経っていない。

 これで遅いとなれば俺は一体どのくらいのスピードで駆けつければ……と、それはともかく俺は用件を訊ねる。


「それより、何だ?」


「その、あんたにか、感想を言ってもらいたいんだけど……」


「感想? 試着している服のか?」


「う、うん……」


 舞は少し躊躇った口調でそう言い、顔を赤くして下を見つめている。


「分かった……」


「じゃあ……見せるね?」


 なんか少し雰囲気がエロいように思えながらも、俺はゴクリと唾を飲む。

 なんで俺はこれ程までに緊張しているのか分からない。

 ただ、これだけ言えるとすれば、舞の試着した姿を見ることは初めてだということだ。

 これまでは買い物に付き合わされたことは何度もある。が、試着した姿を見ることはなく、俺は舞の買い物が終わるまでショッピングモール内のゲームセンターでゲームをしながら適当に時間を潰していた。

 感想を言って欲しいとか今まではなかったのに、急にどうしたんだろうか?


「に、似合う、かな……?」


 カーテンが開いた瞬間、俺は石化したみたいに固まってしまった。

 舞が俺をちらちら見ながら感想を求めている。

 なのに、俺は一言も言葉が出ないといった感じになってしまっている。

 それもそのはず。舞が今試着しているのは夏用の白ワンピースなのだが、それが異常に似合っていた。いや、似合っているという言葉では表現しきれない。天使と言えばいいのかな? とにかく一言、可愛いすぎる!


「や、やっぱり、あたしには似合わないよね……」


 俺が石化している様子に勘違いしたのか、そう捉えてしまった舞は試着室のカーテンを閉めようとする。


「ち、違う! そ、その……似合って、たぞ」


 俺は頰を掻きながら、そっぽを向いてそう小さく呟く。

 幼なじみとはいえ、女子にこの言葉を言うのはなんか照れくさい。

 舞はどんな反応をしているのだろうかと気になり、試着室の方にちらっと目を向ける。


「な、ななななななに言ってんのよ! このバカっ!」


 そう言って、舞は試着室のカーテンを思いっきり閉めてしまった。


「えー……感想言えって言ったの舞じゃん」


 俺はあまりの理不尽さに心の声が小さく溢れた。

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