第1話 転入生
「じゃあ、行ってくる」
朝、制服に着替えた俺は、いつも通り母さんにそう伝え、家を出る。
玄関ドアを出たところで、門前に誰かが立っているのに気がつく。
「遅い! いつまで待たせる気?」
「そう言うなら、先に行ってていいっていつも言ってるだろ」
「そ、それは……と、とにかくダメなのっ!」
何がダメなのか分からないが、毎日俺より先に来ては、遅いだの文句を言い、先に行ってていいと言ったら、行こうとしない。一体何がしたいのやら……。
とにかく、このいかにもギャルゲーで出てきそうなツンツンとした少女こそが俺の幼なじみである
舞とは、小学校一年からの付き合いで、それから中学校、高校と同じ学校に進学していった、腐れ縁のような関係だ。
見た目こそは男子に人気があるだけあって、端正な顔立ちをしていて、テニス部のエースということもあり、運動神経も抜群。
成績は下から数えた方が早く、テストの点数も壊滅的。いわばアホだ。
俺はそんな幼なじみをまじまじと見つめていると、
「な、なによ……そんなに、あたしのこと——」
舞の声がだんだん小さくなるにつれ、顔が赤くなっていくのが分かった。
……こいつ照れてんのか?
「いや、これであと勉強さえ出来ていればなぁって思ってね」
「うっさい! 残念そうに言うな!」
舞はプンスカと怒りだし、俺をぽこぽこと両手で殴る。
が、正直言って、まったくと言っていいほど、痛くない。むしろマッサージでもされているのかと疑いたくなるほど、気持ちいい。
学校に到着するまでの間、舞が落ち着くまで俺はぽこぽこと殴られ続けるのであった。
☆
学校に到着すると、俺と舞はクラスが別々のため、二階の廊下で別れた。
そして、そのままクラスの教室へといつものように何気なく入る。
「今日も仲がいいね~」
自分の席に着いて、すぐに親友の
結花は中学一年の時からの付き合いで、同じクラスになったことを皮切りによく話すようになり、今では唯一の友達であり親友である。
容姿は、整った顔にショートボブと名前だけでも女子みたいなのに、見た目まで女子。故に、よく女子と間違われることが多く、友達も男子よりは女子の方が多いみたい。
おまけに学業も優秀で性格もよく、男子女子限らず誰にでも優しいため、嫌われるという概念を知らない。
こんないいやつが俺の親友だから、幸せと思うべきか、それとも見た目が女子なだけに戸籍上では男子であることに不幸と思うべきか……。
「どこをどう見たら、そう見えるんだよ」
「どうって、普通に見たらそう見えるんだけどなぁ」
「普通って……」
普通がなんなのか俺にはまったく理解できないでいた。
というか、普通が何を基準なのかすらも分からない。
俺はそんな中で一時間目の準備を進めるべく、カバンから教科書類を引き出しにしまう。
その様子を見ていた結花がふと、忘れていたことを思い出したかのように隣の方をちらと見る。
「そう言えばなんだけど、今日転入生がこのクラスに来るってこと知ってる?」
「……え? 転入生来んの?」
「その反応だと知らないみたいだけど、隣の席気にならなかったの?」
そう言われ、俺は隣を見る。
……隣に席なんてあったか?
と、思ったが、なんかあった。昨日まではなかったのに。
その様子を見ていた結花ははぁ……っと、呆れたような深いため息をつく。
「亮介って、本当に周りには無関心だよね」
「無関心っていうわけではないんだが……」
「じゃあ、誰と誰が付き合っているとか興味ある?」
「いや、ない」
そんなことを知って、メリットでもあるのか?
恋バナが好き=恋愛脳どもはみんなそのような話を聞きたがる。
いや、興味本位で訊いているということは分かっている。
だけど、誰と誰が付き合っているという話を聞いたところで俺からしてみれば、それがどうしたとなる。
そんなことを思っていると結花の視線が気になり、そちらを向くと、ジト目で俺を見つめていた。
「舞ちゃんが可哀想」
マジのトーンで言われた。
「は? ど、どういう意味だよ!」
俺が舞に何かしたとでも言うのか?
てか、なんでこの話の流れでいきなり舞が出てくんだよ。
それも含めた感じで結花に訊いたのだが……
「それは……自分で考えた方が身のためかもね」
そう言って、意味あり気な笑みを見せると、結花は自分の席へと戻って行った。
「だから、どういう……」
俺はその意味を深く考えた。
だが、考えても考えてもまったく分からない。
考えているうちにやがて、チャイムが鳴り、担任の先生が引き戸をガラガラと開け、教室に入る。
いつも通りの流れ作業みたいな感じで出欠確認と連絡事項を伝え終えると最後に、
「今日は、このクラスに転入生が来ている。それじゃあ、入って来なさい」
先生が黒板側の出入り口に向かってそう言うと、ガラガラと音を立て、引き戸が開けられる。
クラスのみんなはどんな子が来るのか、男子か女子か、イケメンか美少女かという興味や期待を込めた目線を教室前方に向けている。
……転入生もこんな目線を浴びせられちゃ、困るよなぁ。
そんなことを思いながら、俺も一応気になり、横目でちらっと見る。
そして、みんなの興味や期待を知ってか知らずか、教室に入って来た子は…………みんなが声を詰まらせるほどの超絶美少女だった。
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