第2話 謎の視線

 俺、神崎亮介かんざきりょうすけは自分で言うのもなんだが、平凡な高校生として日々を生活してきた。

 部活動は特に何もしておらず、それ以前にも何かを習ったことがあるというわけでもない。交友関係は幼なじみの舞と親友の結花のみ。ぎりぎりぼっちではないにしろ、友達と呼べる存在が少ないのは確かだ。よって、休日はほとんど家でラノベを読むか、ゲームをするかのどちらか。たまに舞が遊びに来たり、結花とどこかに遊びに行ったりはしている。

 成績に関しては……上の下くらいかな? 容姿は……自称ではあるが、普通だと思っている。

 これほどまでに何の取り柄らしいものを持っていない俺ではあるが、今はクラス中——いや、全男子生徒から羨ましそうな目を向けられている。

 休み時間とはいえ、廊下には転入生を一目見ようと、生徒(男子が過半数)が群がり、教室の窓や出入り口から塞ぐ勢いで覗き込んでいる。

 今の状況を簡単に例えるのであれば、動物園の檻だ。人気の高いパンダとかは珍しさもあって、檻の前は人だかりができるだろ? 赤ちゃんが展示されれば尚更だが、今の状態はそんな感じ。廊下の方を見ると、生徒だらけで教室外に出ることすら困難だ。

 こんな状態にしてしまったのも今、隣の席に座っている転入生のせい。

 この子の名前はたしか……早坂綾乃はやさかあやのと言ってたか? 

 容姿は長い髪をストレートに下ろし、顔はモデルでもやっていたのかと思うほどに一つ一つのパーツが綺麗に整っていて、その美しさに声で言い表すことすらできない。身長は俺より少し低く、胸が大きい。

 これだけでも完璧すぎると言いたいレベルだが、担任の先生の話では、転入にあたり、試験を受けさせたみたいだが、全教科満点。おまけに運動能力もすごいらしく、前に通っていた学校では、いくつかの部活の助っ人として試合に出場したりしていたらしい。

 ここまで容姿端麗、才色兼備、文武両道、完璧超人な美少女はいるだろうか? 俺の知っている限りでは、ラノベに出てくるメインヒロインくらいしか思い当たらねーぞ?

 休み時間に入ってから約五分。

 教室の前の廊下は相変わらず他クラス、他学年の生徒で埋め尽くされ、引くことすら知らない状態。あと五分もすれば、授業が始まるというのにそのことを忘れているかのようである。

 それにしてもだ。さっきから気にはなっていたが、隣の方からちらちらと視線を感じる。

 俺が意識しすぎちゃっているのかと思い、寝たふりをしようと腕を枕代わりにして机にうつ伏せるものの、逆に視線が強くなったような気がした。

 これじゃあ、気になって寝たふりもやってられない。

 コミュ力の低い俺ではあるが、ここは意を決して、話しかけてみるか。


「あ、あの……俺に何か——」


 ぷいっ。

 話しかけた瞬間、顔を背けられたんだが!? 

 ——え……なんで? 俺マズいことでも言ったか?

 そう思ったのだが、普通に話しかけただけ。

 ……ということは、あれですか。俺、嫌われてるんスか。

 初対面の人から嫌われているんじゃないかということに少し傷つきながらも、俺は話しかけることを諦め、現実逃避でもするかのように窓から外の景色を眺める。

 今日はいい天気だ。朝の天気予報で言っていた通り、雲一つない快晴。こういう日は、よく暖かい陽光が窓から差し込み、授業中でもついつい眠くなってしまうものなんだよなぁ。


(じーっ………)


 またしても視線を隣の席から感じるのだが……。

 俺は何気なく隣を見る。

 ぷいっ。

 顔を背けられた。

 ……気のせいか?

 そう思い、再び窓の外を眺める。


(じーっ……)


 やはり視線を隣から感じる。これはもう気のせいじゃないだろ。

 俺は再び隣を見る。先ほどとは二倍くらい速いスピードで。

 ぷいっ!

 しかし、なかなか手強い。俺が見た瞬間には、顔を廊下側の方に背けていた。

 ——次こそは……!

 そして、俺はまた窓の外を眺め——ると見せかけての隣の席を見る。

 

「……っ?!」


 すると、ちょうど目が合い、早坂さんは一瞬驚いた表情をしたが、慌てて顔を背けた。

 廊下側を見ているせいで顔色は窺えないものの、耳まで真っ赤になっている。

 なんでさっきから俺を見つめていたのかがよく分からない。俺の顔に何か付いているのか? 

 スマホのカメラ機能を使って、顔を確認するも特に変なものが付いているというわけでもない。

 ——じゃあ、一体……?

 そのとき、授業開始のチャイムが鳴り響いた。

 廊下に群がっていた生徒たちはそのチャイムの音で我に返ったかのように慌てだし、急いで自分たちの教室や授業がある場所へと駆けて行く。

 隣の席の転入生はなぜ、俺を見つめていたのか……何度も見つめていたとなると、嫌われているという線は薄いのかもしれない。

 と、なると……その疑問が残ってしまうのだが、俺は気を改めて授業の準備に取りかかった。

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