第50話 お裾分けされていたもの【2】


「ふにゃあああああっ!」

「……いいぃったーーい!?」

「「………………」」


 ……いったーい?

 今、誰かの悲鳴が聞こえなかったか?

 せりなちゃんと顔を見合わせて、声の聞こえた方を見る。

 階段の下の方に、二つの大きな塊とボスが……って、あれは──!


「あ! ね、姉さん!?」


 あと長谷部さん!

「あ、バレた」みたいな困った顔で手を振って……え? 待って、い、いつから!? いつから!?


「あーん! バレちゃったぁ! なんて事するの、ボス! ボスのせいよ! 急に手を噛んでくるから!」


 ジョリっとしたんだな。

 じゃ、なくて!


「いつから見てたんだよ!」

「え、いや、帰ってきたら長谷部さんがしゃがんでボスを撫でてたから……せりなちゃんも叫んでたし」

「きゃぁああああっ……!」


 せりなちゃんも姉の言葉で顔を覆ってしまった。

 耳まで赤くし、その場にしゃがみ込む。

 うっ……あ、あれを聞かれたと思うと確かにっていうか俺のも絶対聞かれてるじゃんんん!

 途中までで良かったと思うべきかでも普通に恥ずかしいいいいいぃっーーーー!


「ごめんね、なんか青春……じゃなくて話の途中のようだったから、絶対邪魔してはいけないなって……」

「だからって覗いてるのはどうかと思うんですけど!」

「うん、でも……これから着替えて出かけなきゃいけなくって……。ぶっちゃけ階段登ってすぐのところで始められてしまって困ってしまって」

「本当にすみませんでした!」


 確かに他の住民が入っていたらとても困ってると思う!

 でも出来れば覗かないで欲しかった!


「すぐに終わりそうな感じだったから、待ってればいいかなって思ったんだよね。俺が帰ってきた時カレーを手渡してるところだったし」

「ほぼ最初からじゃないですかぁ!」

「あと今日から幸介くんのお隣も入居してたから……大事な話はせめて部屋の中でした方がいいよ」

「!?」


 え、それってまさか……俺の隣の部屋の人にも筒抜け……?

 う、うわわわわわわわ……!


「お姉ちゃんだって邪魔したくなかったわよー! でもボスが急に足下にすり寄ってき手をて噛むからぁ」

「ぶにゃぁぁぁ……」

「お腹空いたんだろうな。ごめんなボス、今キャットフード持ってきてあげるからな」

「ぬぁぁぁぁ」


 え、長谷部さんの部屋キャットフード常備してあるの?


「……ボス、機嫌悪そうですね」

「お腹空いてるんだよ。それなのに俺たちが誰も持ってこないから、飯橋さんの手を噛んだんだろう。猫ってそういうとこあるよね」

「ふにゃー!」

「はい、すぐにお持ちします」


 長谷部さんが敬語に。

 そしてさくさく階段を登って部屋に向かってしまった。

 ……そうだな、ボスがお腹を空かせているのなら優先すべきは……ボスだろうな。

 肩を落とす。

 あれ、俺は……一体なにをガッカリしているのだろう?


「ごめんね、幸介。その気持ち、とてつもなくよく分かるわ……」

「……、……うん……」


 説得力というか、共感が重い。

 姉さんも長谷部さんに、告白失敗してるもんな。

 ああ、そうか……こういう事なのか。

 もっっっっのすごくもやもやするー!


「ところでせりなちゃん! 今日はカレーなんだねぇ〜」

「姉さん?」

「……は、はい……。え、えっと、よければ幸枝さんも……その、カレー、いかがですか?」

「いいのぉ!? うれしーい! 片手が使いづらくてご飯作るの大変だから助かるわー!」

「……姉さん……」

「あ、なんならお皿持ってくるから今日もせりなちゃんの部屋でご飯食べる? 三人で!」

「「えっ!」」


 ちらっとせりなちゃんを見る。

 まだ顔が赤い。

 多分、俺も赤いと思う。

 どうしよう……いや、俺は決められない。

 指定されたのはせりなちゃんの部屋だし……ええ、姉さんめ、なんて事を言い出すんだ……!


「えっと、えっと……」

「…………」

「あ、長谷部さんもどうですか!」


 がちゃ、と部屋から出てきた長谷部さんに、姉さんが声をかける。

 手には猫缶。

 服装はスーツから私服になってる。


「いや、このまま出かけるので」

「あ……そ、そうでしたね……」

「がんばってね」


 ぽんっと、去り際頭を優しく叩かれた。

 う……ぐっ……う、うううっ……!

 なんか、もう、色々……色々〜!


「きょ、今日は! 一人で食べる!」

「あら」

「コウくん!?」


 バタン!

 ……部屋に入ってから、鍋をコンロの上に置く。

 それからずるずるしゃがみ込んで頭を抱えた。


「うううううううぅ……」


 俺は本当にダメだ。

 今更自分の気持ちを正しく理解したんだから。

 俺はずっと、それこそ小学校の頃からせりなちゃんに憧れていた。

 再会してからもずっとその気持ちの方が強かったと思う。

 ても、今日……今さっき俺がせりなちゃんに告げそうになった言葉は──。


「…………好き……」








 お裾分けされていたのはなに?

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隣に引っ越してきた幼馴染が手料理を毎日お裾分けにくるラブコメ 古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中 @komorhi

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