第48話 コウくんへ【5】


 そうして待ちに待った三月十四日。

 卒業式はつつがなく穏やかに終わり、ああでもないこうでもないと前日から悩み抜いた服で出かける準備を済ます。

 まあ、この日のためにお兄ちゃんとその幼馴染みのお兄さんたちにも協力してもらって、服を選んだわけですが!

 でも、結局お兄ちゃんたちの事務所の先輩のモデルさんが選んでくれた服にした。

 やっぱりモデルさんだなぁ、安くてもいい服、合わせ方によっての見せ方とかとても勉強になった。

 ……いや、別にモデルさんが「お前らに服が選べるのか?」とお兄ちゃんたちのファッションセンスをこれでもかと全否定したとか……そういうわけでは、ない……と、思う。多分。


「…………だ、大丈夫。今日こそ……言うんだ……よしっ!」


 頭の上から爪先まで大丈夫!

 今日こそ、コウくんに告白しよう。

 やっぱりデートの最後がいいのかなって……あああっ、デートって言っちゃった! まだデートかどうかも分からないのに! わたしったらぁ!

 でもでも、女の子と男の子が二人だけで出かけるってつまりデートだよね?

 デートって事でいいんだよね!?

 ヤダ、もうわたしったらはしゃぎすぎて受かれすぎじゃない!?

 確かに昨日、色々、それはもう色々考えて眠れなかったし、ほぼ徹夜みたいな感じだけど!


「すーっ、はーっ」


 深呼吸!

 いざ! 出陣!


「「あ」」


 え、すごい。

 同時に出てきた。すごい。

 やだ、運命?

 これはもう今日の告白は上手くいくも同然なのでは……って!

 ああもう、わたしったらダメよダメ!

 そんな簡単に上手くいくわけがないでしょう!

 気を引き締めなきゃ!

 失敗、出来ないよ!

 ……うっ、一気に緊張感が……!


「お、おはよう!」

「お、おはよう……」


 ほ、ほああぁぁ、コウくんかっこいいよー!

 今まではシンプルなシャツやスウェット姿ばっかりだったけど今日はわたしでも分かるくらい出かける用の格好だぁー!


「コ、コウくん……なんか、今日はいつもより……か、かっこいいね……」

「ふぐっ……!」


 はっ! ……やばい、テンション上がりすぎてておかしな子だと思われるかもしれない。

 一度落ち着こう。

 くっ、ああ……!

 でもそうなると逆に緊張が増してしまう……!


「ぷぁっ」

「え?」

「な、なんでもな、ななないよ……え、えっと、い、い、行く?」

「う、うん!」


 まずい、まずいよ。

 わたしの心臓の音、漏れてない? 大丈夫?

 階段を降りる間も「これってデートみたいだね」と言いそうになってなんとか抑えた。

 コウくんにそのつもりがなかったら、どうするの!

 そもそも日付を指定してのはわたし!

 二人で出かける事に一人ではしゃいでるのもわたしだけだと思うし!

 そんな中でコウくんに「デートみたいだね」なんて言ったら引かれない!?

 引かれるよね!?

 こいつなに勘違いしてるの、とか思われるんじゃないかな!?

 コウくんはそんな事言わないと思うけど!

 そう思われるかもしれないよね……!

 そ、それとも言って様子を見てみた方がいいのかな?

 あ、あれぇ、なんか自分がなにを考えているのかよく分からないよ!

 緊張もそうだけど、なに話したらいいのかな!?


「さ、寒いね」

「そ、そうだね……」


 言うに事欠いて「寒いね」ってなにそれわたしーぃ!

 そりゃコウくんも「そうだね」としか言いようがないよ今日の気温では!

 ああぁ、だめ、わたしポンコツ! とてもポンコツ!


「雑貨屋さん、寄る?」

「え?」

「いや、手袋、買うなら……」

「え、えーと……」


 ほ、ほらぁー!

 とても気を遣われてしまった!

 確かに寒いけど、手袋は持ってるし今日は耐えられないほど寒くない!

 わたしは大丈夫だよ、ありがとう。

 ただそれだけがどうして言えないのよ、わたしー!


「!」


 ああ、バスが来た。

 どうしよう、今日はわたし、ダメダメだよ……。

 LINKなら普通に話せるのにな。


「…………」


 LINK……スマホ……。

 そうだ、バスの中で昨日見つけた食べ放題のお店のURLをコウくんに提案してみよう。

 うっかりデートの事を調べたら『行く場所を決めておく男性は少ない』って書いてあったから!

 それに、今日のわたしはおかしい。


『ごめんね、今日、緊張してうまく話せない。心配してくれてありがとう』


 そうメッセージを入れる。

 するとすぐに『俺も』と返事が来た。

 本当? コウくんも?

 これって、期待しても……いいのかなぁ?


「!」


 こっそり窓ガラスで前の席に座るコウくんの方を見る。

 そしたらなんと目が合った。

 ガラス越しだけどコウくんもこっちを見て……ええぇっ!

 すぐに逸らしたけど、心臓が壊れてしまいそうだよぅ。

 ああ、もう……目が、合っただけなのに……。

 同じタイミングだなんて、ずるいよ。


『アーケード前、アーケード前〜』


 あ、もう着いちゃった。

 二駅だもんね……。

 メッセージのやり取りだけだけど、結構緊張も解れてきた気がする。

 よ、よしっ! 気を取り直して頑張るぞ!


「行こうか」

「うん」


 わたし、冬紋せりなは……本日必ず、飯橋幸介くんに思いを告白するんです!



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