第34話 ヘアサロン雅【4】
「うぐぅ……」
翌日も姉の職場にお手伝い。
しかし、その日は予約が少ないとかで俺は萩野さんに店舗二階の一室で着せ替え人形にされていた。
「うん、こんな感じかな。髪型も高校生っぽくしたし、コウちゃんは正統派爽やか系な顔立ちだから私服はこういう系統を選ぶといいと思うよぉ」
「せ、正統派……?」
とか言われて着せられたのはワイシャツと薄い青のジャケット、暗い色のジーンズ。
中をTシャツにする場合は大きめのプリントのものを選ぶといい、らしい。
全体的に青系でまとめたり、ワンポイントに柄を入れるのを心がける。
アクセサリー系は高校生になってからの方がいいけれど、モノによっては背伸びしてて痛く見えるから一度チェックさせてね、と言われてしまった。
ま、まあ、俺もその方がありがたいかも。
ジーンズの後ろポッケに財布やスマホを入れるのは、実は意外と女子ウケが悪い。
肩にかけるポシェットや、小さめのリュックなどがおすすめ。
時計はいいやつを買え。
ピアスやネックレスや指輪は校則違反になると思うのでやめておく事。
……まあ、東雲の芸能科のやつらはそういうのしてそうだけどな。
俺は一般科なので、確かに派手になる必要はない。
「あとは淡い緑系をどこかに入れるといいかもねぇ。髪をもう少し派手な色に出来たら、ワイルド系にしても面白そうだけど……コウちゃん、まだ高校入学前だもんねぇ。あんまり派手にしたら叱られちゃいそうだもんねぇ」
「はい」
これ以上はほんとダメだと思う。
髪は茶髪にされた。
いや、もちろんうすーく……焦げ茶色? みたいな色。
でも、一目で黒とは思わないはずだ。
「本当はシルバーのシャギーとか入れたかったんだけど高校生だもんねぇ。まだ卒業式も終わってないし……でも髪の後ろの方とかにもう少しゴールド入れてみたかったような気がしないでもないし、なんなら毛先だけもっと明るいアッシュにするのもありなのではと……」
「なしです! 絶対なしです!」
半分くらいなに言ってるか分からなかったけど、多分ろくでもない事言ってた気がする。
「えー! 見違えたじゃーん、幸介ぇ〜! めっちゃかっこよくなってるよぉ!」
「あ、ありがと……」
そこへ入ってきたのは大きなカゴを抱えた姉だ。
カゴの中身は洗濯済みのタオルの山。
これを、今からここに干す。干しまくる……。
「飯橋ちゃん、それ干し終わったら病院行っておいでよねぇ」
「うっ、は、はい〜」
「女の子なんだから、火傷の跡とか残ったらイヤーでしょー? そういえばバレンタイン、好きな人に告白するって言ってたのアレどーなったのぉー? まだ結果報告聞いてないんだけどぉ」
「…………」
そういえば……。
姉さん、長谷部さんに告白するって雑なチョコ作ってたけど渡された形跡はなかった。
長谷部さんもものすごくいつも通りだったし。
いや、正直あの手作りチョコは渡さなくて正解だと思うけど!
渡したら嫌われてた……は、長谷部さんなら嫌いにはならないかもしれないけど、少なくとも間違いなくドン引きされてたと思う!
「……い、言わなきゃダメですか」
「無理に聞きたいとは思わないけど、バレンタインに美味しいチョコレート贈りたいって言ってお勧めのお店手当たり次第に買い漁らせた報いは受けて欲しいから結果報告は必須」
姉よ、なにしてんの。
仮にも上司だろうこの人。
そんな人にそんな事させてたの?
なにしてんの。
「爽やかな笑顔で『甘いもの苦手なんです』って受け取り拒否されました!」
うーーーーーん、とても思い浮かぶーーーー!
「え、待って待って? 事前にその辺り調査してたんじゃないのぉ?」
「しませんでした」
「完全なるドジっ子〜。フォローのしようがな〜い」
まさに。
「チョコは断られたにしても、告白は? した?」
「出来ませんでした!」
「行事の力では如何ともし難い結果〜」
ま、まさに……。
「バレンタインという絶好の機会を逃したとなると、もう絶望的だねー。しばらくまた様子見がいいかもね。それとも勢いのまま今日にでも告っちゃう?」
「挫かれた心はまだ元には戻りません」
「えぇ〜。いや、でもぉ、手を火傷してる今がチャンスかもよー? 彼が来たところを狙って『すみません、手のひら火傷してて家事がうまく出来ないんですぅ! お手伝いしてもらえませんかぁ?』みたいな誘い方して部屋に連れ込んじゃいなよ」
萩野さん、姉は両手が健在でも家事が出来ません。
……危うく口からもろに出そうになった言葉である。
黙々とタオルを干そう。仕事をしよう、俺は。
「なるほど! それ、いいですね! 今夜試してみます!」
「ちゃんとお酒買っておくんだゾ!」
「はい!」
「いや、なんて事指南してるんですか!」
酔わせて襲う気か!?
最低だよ!
人の姉になんつー入れ知恵してんだよこの人!
二重三重に最低だろ!
「テヘペロ!」
出会って二日目だけど、鳩尾殴った。
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