第23話 お礼のお菓子【2】
アパートに帰り、長谷部さんの部屋にお邪魔する。
なんつーか、姉より先にこの人の部屋に入ってしまった事に微妙な罪悪感……。
部屋の中の作りは俺の部屋と同じだ。
簡易なキッチンとバストイレが一緒。
部屋の中は紺色と木目柄で統一、物も少なく整理整頓がきっちりなされている。
壁にかかっているのはジャージとスーツ。
靴もラックが玄関に設置してあり、整理されてる……姉よ、見習うべきだ。
「じゃあやろうか。まずはきちんと手を洗って」
「は、はい。よろしくお願いします」
いかんいかん、人様の部屋を観察してしまった。
けれど、なんだろう……なんか、こう……生活感があまりない部屋だな。
「長谷部さんは趣味とかないんですか?」
「趣味? うーん、ランニングは好きだけど最近は自転車かなぁ」
「自転車?」
「弟の家が近くにあるんだけど、そっちにはマウンテンバイクがあるんだ。最近はそれで遠出とかするのが楽しいかな。本当はキャンプとかもしたいんだよ。ゆるキャン? 流行ってるみたいで面白そう」
「……ア、アウトドア派なんですね」
「俺南雲出身だから」
「えっ!?」
南雲?
南雲って、南雲学園!?
あの体育会系で全寮制で規律が鬼厳しいという、あの!?
「長谷部さんもこの町の人だったんですか!」
「そうそう、俺は生まれも育ちもこの町。高等部在学中は生徒会長と寮長もやってたよ」
ガチのエリート……。
「うちもお金がなくてね〜、全寮制で朝昼晩食堂で食べられる南雲に入るのに苦労したよ。幸い体を動かすのはそんなに嫌いじゃなかったから助かったけど。はい、じゃあ先にシュークリームを作ります。これにホットケーキミックスを入れて」
「へ?」
手渡されたのはボウル。
そこにホットケーキミックスを手渡されて困惑した。
な、なぜホットケーキミックス?
小麦粉とかじゃないの?
「ホットケーキミックスで作るのも美味しいし、簡単なんだ。これに水と卵を加えて、混ぜる。はい、これ使って」
「は、はい」
手渡されたのはホットケーキミックスと水、卵の入ったボウルとハンドミキサー。
それでひたすら混ぜる。
だまになってるやつもしっかりと……。
普通にホットケーキ作ってるみたいだ……。
「今日一日はこれに費やすから、そのつもりで」
「え?」
聞き間違い?
今なんて言った?
待って、長谷部さん目が遠い……!
「混ぜ終わったら絞り袋に入れて、クッキングシートを敷いた鉄板に三センチほどの間隔を空けて出す。大体180度で三十分。これをひたすら繰り返して欲しい」
「え、あ……く、繰り返し……?」
「そう。俺はカスタードクリームを死ぬほど作るから、とにかく混ぜて焼き続けて」
「へ、あ、は、はい」
そう言われて、とにかく言われた通りホットケーキミックスを混ぜまくった。
三十分後、最初に焼き上がったシューは本当にシュークリームのシューの形をしている。
なにこれすごい。
ホットケーキミックスってこんな事出来んの?
ホットケーキミックスなのにホットケーキ以外が出来るとか驚き以外のなんでもないんですけどすごくね?
「こうして側面に穴を開けて、作ったカスタードを注入していけば完成。カスタードもホットケーキミックスに砂糖と牛乳、卵黄を入れれば出来る。卵白はマカロンで使うから取っておいて」
「へあ……は、はい」
「じゃあ焼き上がったシューにクリーム入れていこう」
「は、はい」
もうなんか流れ作業感。
二回目のを焼いている間にシューにクリームを入れていく。
完成したシュークリームは、ペーパーの敷かれた缶箱の中へと放り込むのだが缶箱のサイズがなんかおかしい。
俺の片腕の長さくらいあるのだ。
「……な、何人くらいで食べるんですか……?」
「男四人だよ。でも一人ちょっと甘いもの狂いの化け物がいてね……」
目が! 遠い!
甘い物狂いの化け物ってもう絶対ヤバイ人じゃん……!
「俺以外の二人は料理がマジで上手いから、なんとなく負けたくなくて!」
「…………」
事情が一切分からないけど長谷部さんの負けず嫌いが発動しているのだけはなんとなく分かる!
「質で敵わないなら量で勝負しようと思って!」
「な、な、な……なる、ほど?」
あれ? これ「なるほど」で合ってんの?
でもさすがに何個も何個作っていくと手慣れてくる。
自分でも次になにをするのか分かってくるのだ。
結局合計何個作ったのかは分からないが、その日の夕方になるまで作って作って作り続け、デカめの冷蔵庫に入れてシュークリーム作りは完了。
「では、明日の朝からマカロン作りの手伝いもよろしく」
「は、はい」
「これが本日の報酬です」
「あ、ありがとうございます……」
めちゃくちゃシュークリームもらった。
……いや、あれだけ作れば本当に微々たる量だけど……。
普通に一人で食い切れないので姉さんにもあげよう……。
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