第22話 お礼のお菓子【1】



「うーむ?」


 バイトは十六歳から。

 だから誕生日を過ぎないと、ここのスーパーでバイトは出来ない。

 でもせりなちゃんにお礼をする。

 でもなにを作ればいいか分からない。

 スーパーで歩き回りながら考える。

 やはりどうしたらいいか分からない。

 さっきからこれをぐるぐる繰り返しているのだ。


「せりなちゃんはなにが好きなんだろう?」


 ふと呟いた言葉。


「……甘いもの……」


 制服を買いに行った時、せりなちゃんが見つけてはしゃいだのはどれも甘いもののお店だったのを思い出す。

 じゃあなにか甘いお菓子でも作ればいいのでは?

 うん、そうだ、それだ!

 俺でも簡単にお菓子が作れるキット的なやつがあったはず!

 えーと、確か……あれ?


「長谷部さん……?」

「あれ、幸介くんも買い物?」


 思わぬところで思わぬ人に……。

 いや、普通に考えてアパートから最寄りのこのスーパーを利用しているのはむしろ当たり前か。


「…………なんかいっぱい買ってますね……?」

「ああうん、明日の夜、高校の時の同級生に会いに行くからなにか差し入れを作って行こうと思って」

「へえ、彼女さんですか?」


 …………。

 あれ? 俺なにしれっと聞いちゃってんの?

 これ肯定されたらやばくない?

 そういえば姉は結局、あのバレンタインチョコを渡さなかった。

 市販のチョコを渡すと……実に賢明な判断だと思う。

 その市販のチョコを受け取ったか受け取らなかったかは聞いていないけど……ここで長谷部さんに肯定されたら姉、終わりじゃね?


「いや、全員男だよ? 独り者が集まってたまに飲むんだ。……幸介くんはこうなってはいけないよ。年々物悲しさが増していくからね」

「……え、あ……は、はあ……。あれ、じゃあ長谷部さんは彼女いないんですか?」

「今はいないなぁ。いても長続きしないんだよね。……俺はどうやら一人の人を大切に出来ない性質たちらしくて……」

「…………」


 目を丸くした、と思う。

 でも同時にとても納得もした。

 だろうな、と喉まで出かかっていた。

 言葉通りに受け取るわけではないけれど、この人は『みんなに優しい』人だから、この人の『特別』になる事がそれだけ大変で難しいって感じなんだろう。

 うちの姉も大概面食いだなぁ、と思いはしたが、こう言われるととても難易度爆上がりした気がする。

 外側での競争率よりも、中身の方が大変そうだからだ。

 一応姉の好きな人なので、姉には上手くいって欲しいとは思うよ?

 でもやはり相手が悪いような気がするのだ。

 この人と話をすればするほどに、うちの姉では無理なのではと思う。


「まあ、幸介くんは大丈夫だと思うけど」

「へ?」

「冬紋の……せりなちゃんと幼馴染だったんだって?」

「っ」


 う……い、一体どこからどこまで知ってるんだ……!


「あ……もしかしてお菓子作ってお返ししようとか?」

「!」


 なぜそれを!

 ……と、思ったけど、めちゃくちゃお菓子作りキット売り場にいるのだ、そりゃバレるよな。


「は、はい。でも俺、お菓子は作った事なくて……」

「ホットケーキとかクッキーは簡単だと思うな。……あ、良ければ一緒に作る? ちょっと難易度上がるけど、シュークリーム作っていくつもりなんだよね」

「シュ、シュークリーム!?」

「あとマカロン」

「マカロン!?」


 ……え? こ、この人まじ?

 マジで言ってる?

 シュークリームと、マカロン作るって言った?


「……家で作れるものなんですか?」

「大丈夫、意外と難しくないよ」


 ほ、ほんとかよ……?


「……」


 で、なぜか頭を撫でられる。

 え? 頭撫でられてる? 俺? なんで?

 驚いて見上げると「あっ」という顔をされた。


「ご、ごめん……俺、弟がいるからつい……」

「は、はぁ……」


 いや、別に嫌ではないんだけど……。

 そうなのか、長谷部さんも弟がいるのか。

 妙に納得してしまう。

 なんか、いかにも「お兄さん」な感じだし。


「で、どうする? 作るの手伝ってくれるのなら、材料費は俺が持つけれど?」

「……え、え、で、でも」

「男ばかりだし、甘いもの好きがいるから量が欲しい。幸介くんが手伝ってくれるのなら、俺も助かるな」

「…………。じゃ、じゃあ……」


 俺も甘いものは好きだ。

 来月のホワイトデーの練習にもなるし、それなら教わっておいてもいいかもしれない。

 なにより材料費、長谷部さん持ち……!

 金欠の学生にはありがたい。


「じゃあ、帰ったらたっぷり手伝ってもらうね。……割とマジで大量に作るから覚悟して欲しい」

「ぇえ……」


 なにこれこわい。



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