第11話 新生活準備中【6】

【アルバイト募集中!】

 16h〜20h 高校生(16歳から可)時給900〜


「これだぁ!」

「わあ!」


 最寄りのスーパーに張り出されていた【アルバイト募集】の貼り紙に思わず飛びついた。

 年齢十六歳から!

 やった! これなら──……。


「……ダメだ……俺の誕生日五月だ……」

「! コウくん、誕生日五月だったんだ!?」

「え? あ、う、うん」

「わたし、六月八日! コウくん、五月の何日なの?」

「俺は、五月二日……」

「そうなんだ! じゃあ……五月二日は……ケーキ作るねっ!」

「え!」


 と、突然、どうしてそんな話に!?

 いや、嬉しいけど……。


「よーし! その時までにもっと料理の腕をあげるぞー! ……というわけで、コウくん、今日案内してくれたお礼に食べたいもの教えて! 作るから!」

「え! い、いやいや! 昨日と今日のお礼だから!」

「あ、えーと、じゃあ……荷物……持って?」

「え?」

「たくさん食材を買うから……」


 だめ?

 と、可愛く首を傾げられて聞かれたら、これを断れる男がこの世にいるのだろうか?


「い、いいよ……」

「ありがとう! じゃあ、あの、なに食べたい? まだ作った事がない料理だと嬉しいな……!」

「え、えぇ、そ、そう言われても……せりなちゃんがまだなにを作った事ないのか、分からないよ……?」

「あ、えーと、じゃあとりあえず、メニュー言ってみて?」


 えー?

 そんな急に言われても思いつかないな……?

 そう言いつつ、入り口にあったカゴを持つ。

 でも、せりなちゃんはカートを持ってきた。

 本当にたくさん買う気のようだ。

 ……これは俺も覚悟を決めるべきかも?


「えっと、そうだな……カレー?」

「カレーは作った事あるよ」


 まあ、だよね。

 まずスーパーに入ると、見えてきたのは野菜売り場。

 今は二月。

 まだ鍋が美味しい季節、と謳い文句で鍋具材がまとめて一箇所に並べられていた。

 鍋かぁ……でも一人で鍋はなぁ。

 姉さん呼ぶ?

 いや、今はせりなちゃんの質問に答えるべき……でも、うーん?


「あのさ、せりなちゃん……そういえばまだ言ってなかったけど……同じアパートに姉さんが住んでるんだ」

「え! コウくんのお姉さんも!?」


 あと、姉の片想い相手も……。

 ま、まあ、これはせりなちゃんに言っても仕方ないか。


「うん……あの、だから……姉さんも呼んで……鍋はどうかな? その、具材持ち寄りで?」

「え……」


 あれ? 微妙な反応……?


「そ、そ、そっそ、っそ……そそそそそんなっ、さ、再会して二日で、コウくんのお姉さんに……しょ、紹介だなんて……!?」

「えっ!」


 姉さんにせりなちゃんを、紹介!?

 あ! 確かにそういう事になりかねないのか!?

 姉さんなら勘違いする! 絶対する!

 そしてニヤニヤ笑いながら色々言ってくる! 絶対!

 だめだ! それはなんとしても避けねば! その上一緒にお鍋は、間違いなく変な誤解をされてしまう!


「ご、ごめんせりなちゃん! そそそうだよね! まだ鍋は早いよね!」

「え! あ、い、いやあの、いやー、そんな! ここここ、コウくんがいいなら、わたしはそんな全然まったくやぶさかではないというか!」

「いやいやいやいや! 本当その通りだと思う! まだ再会して二日だもん! えっと、あの、と、隣に引っ越してきたよって言うくらいはいいかな!?」

「え! あ、うううう、うん!」


 鍋はなし! だめだ!

 えーと、は、他には……。


「アスパラガスって今が旬なんだ?」


 目に留まったのは『今が旬! アスパラガス!』のPOP。

 初めて知った。

 そう思って近づくと、せりなちゃんが先にアスパラガスを手に取る。


「ねえ、コウくん。アスパラガスの肉巻きとか食べられる?」

「アスパラガスの肉巻き? なにそれ? アスパラガスを肉で巻くの?」

「うん! そう!」


 ド直球だな!?


「アスパラガスを豚肉で巻いて、甘辛くするんだけど……それを作ってもいいかな?」

「へえ、なんか美味しそうだね。うん、じゃあ……食べてみたいかな」

「へへへ! 了解しました〜! 一品目は決まりだね!」

「え? まだ他にも選ぶの?」

「当たり前だよ〜、いっぱい食材を買っておくんだから」


 マジか。

 でも、俺の部屋まだ炊飯器ないんだよな。

 あ、そうだ。

 炊飯器ないんだから、電子レンジで温めて食べられるインスタントのご飯買っておこう。

 せりなちゃんとは別会計にするから、通路途中にあるカゴを拾ってカートの下に入れる。


「コウくんはなにを買うの?」

「俺も飯の材料とか買うよ。牛乳とか卵とか……」


 思いつく食材が残念だな。

 あと鍋とかフライパンも買おう。

 鍋があれば米も炊けるよな?


「卵か〜、卵はまだあるからいいかな……。あ、そうだ。コウくん、明日の朝は卵焼きと目玉焼きどっちがいい? 卵焼きは甘い派? 出汁巻き派? 目玉焼きは半熟派? しっかり火を通す派?」

「え? えーと……」


 明日!?

 卵焼きか目玉焼きの二択!?


「た、卵焼きかな? うちは甘いやつ……だったかも……」

「分かった! 甘いやつね!」

「え? あの、せりなちゃん……?」

「まだ巻くの得意じゃないから……失敗したらごめんね……?」

「う、ううん!」


 全力で首を左右に振ったけど……これって明日もせりなちゃんの手料理が食べられる感じ?

 そ、そんなにしてもらって、本当にいいのかな?

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