第9話 新生活準備中【4】


「いらっしゃいませ」

「あの、東雲学院と北雲女学院の制服を買いにきたんですけど……」

「はい、新入生ね。こちらへどうぞ」


 店員さんはなんと着物。

 奥へと案内され、俺とせりなちゃんはまず、試着を進められる。

 人によってはズボンのサイズや上着のサイズが上下で異なる場合もあるらしい。

 それに、男子は高校に入って一気に成長するので大きめのサイズを買っておくべき、とか。

 でも、ズボンは多分買い換える事になるだろう、とか。

 そんなに伸びるだろうか? 背。

 伸びたらいいな、と思わないでもないけど。


「足が大きいから、きっと卒業までに十センチくらい余裕で伸びるんじゃないかしら?」

「え、そんなに?」

「男の子って自分や周りが思うより大きくなるの。買い替えが大変だと思うし、二サイズくらい大きい方がいいかもしれませんね。どうなさいますか?」

「え、え……」


 そう言われてもな。

 今は165センチ。

 十センチっていったら、175くらい?

 あれ、もっと伸びてもいいんじゃないか俺の身長。

 でも、そうなると確かに二サイズくらいは……上の方がいいのかな?


「女の子はそうでもないんですけど……どうですか? 制服、入りましたか?」

「は、はい」


 店員さんが隣の試着室へ声をかける。


「…………」


 あれ? 待てよ?

 隣の試着室って、今……せりなちゃんが──……。


「わっ、わっ……コウくん、それが東雲学院の制服?」

「…………」

「コウくん?」

「…………、……あ! うん!」


 か わ い い !


 試着室から出てきたせりなちゃんは、少しだけ大きめのセーラーのワンピース。

 これがお嬢様学校の北雲女学院の制服!

 かわいい、かわいすぎる!

 体のラインが分かるし、意外とスカートが短い。

 結構直視出来ないぞ、かわいいけど! な、なんかえっちだ!


「か……かっこいい、よ……」

「…………。……え? な、なにか、言った?」

「! な、なんでもない! あ、いやあの、わ、わたし……も、制服着てみたんだけど、あの、ど、どうかな? 変じゃない? スカート、ちょっと短すぎる気がするんでけど……」

「そっ! そ、そうだね、なんか、お嬢様学校っていうから、もっと長いの想像してたけど……! いや、あの! か、か、かわいいと思うよ……う、うん、に、似合ってる……よ!」

「! ほ、ほ、ほんと? …………っ!」


 思わず目を背けてしまった。

 だって、だって……膝上丈のワンピースで、前の裾を引っ張るせりなちゃんは……少し前屈みになるから……今度は襟元からむ、胸が!

 ダメだと分かっていても見てしまう!

 くそぅ、どうして俺はこんなに最低なんだ!


「こちらは冬服ですね。スカート丈はすぐ慣れますよ」

「あ、あの、本当にこのスカート丈が基準なんですか?」

「長いとスケバンみたいになるんですよ、その制服」

「すけばん……?」

「あ、通じない世代でしたね。すみません。長いと変になってしまうんです。大丈夫ですよ、その下にホットパンツ履くと可愛くなるんです」

「ホットパンツ!?」


 ホットパンツ!?


「ズボンもありますよ。パンツタイプと言います。上着はこちら」

「なんかカッコいい!?」

「北雲女学院、一番制服の種類が多いんです。パンツタイプを着ている女生徒は『お姉さま』と呼ばれてそれはもう、宝塚の男役みたいに人気になるんです。そういうのをお好みな方でしたら、全力でお勧めしておりますわ」

「ふ、普通でいいですぅ……」


 じょ、女子校なんかすごい。


「あとはリボンが紐、リボン、スカーフ、お色も十種類、リボンのラインも三種類、スカーフのライン三種類からお好きなものをお選び頂けます。春夏秋冬、日によって、気分によって変えたいと全種類お買い上げになられる方もおられます」

「ふえええ!?」


 ……じょ、女子校すごっ……!

 さすがお嬢様学校!


「……コ、コウくん……」

「え?」

「コウくんは、リボン、どれがいいと思う……?」

「えっ!」


 差し出されたサンプル表を勢いよくこちらに向ける店員さん。

 目がなぜかとても輝いている。

 え、こ、これの中から、俺が!? 俺が選ぶ!?


「え、えーと、そ、そう言われても……」

「コウくんの好きなやつ……教えて欲しい、な……」

「っ……」


 北雲女学院の制服は白。

「襟の柄なども選べるのでそちらから選んだ方がいいですよー」とさらに迷わせるような事をいう店員さん。

 もちろん、それを聞いたらせりなちゃんは「コウくん、選んでくれる?」ともじもじしながら聞いてくる。

 そ、それは、まあ、あ、俺だって……。

 俺だってせりなちゃんにはその色よりこっちの方が似合う、みたいな個人的主観で申し訳ない意見はあるけれど──!


「ほ、本当に俺が選んでいいの……?」

「う、うん……コウくんに選んで欲しいの……」

「…………じゃ……、じゃあ……」


 なぜか生き生きした表情の店員さんが持つサンプル表を、指差す。

 俺が選んだのは、水色のチェック柄。

 せりなちゃんの部屋は水色が多かったから、好きな色なんじゃないかなって思ったんだ。

 襟を飾るのも水色ベースのスカーフ。

 すぐに店員さんが俺が選んだ新たスカーフを持ってきて、せりなちゃんが着ている制服のをつけ替える。

 ……着脱式……だったのか。すげぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る