第8話 新生活準備中【3】
バスは二駅ほどで町中に着く。
利用者が降りるとプシュ、という空気音とともに扉が閉じる。
学校から送られてきた住所とスマホの地図アプリを見比べて、方向を確認。
今更だが、この町……『峰山市』は町の西の方に峰山という、ど直球に前の山がある。
と言っても全然高くない。
地図によると標高は400M程度で、だいたい徒歩十分で登れる。……と、ある。
山頂には峰山神社という由緒正しい神社があり、夏はそこで夏祭りが行われる。……らしい。
「!」
な、なんだと?
しかも峰山神社の縁結びのお守りは『縁結びお守り百選』にも選ばれ、実際そこでお守りを買うと一年以内に恋人、もしくは結婚……!?
マジか! 姉さんこれ知ってるのかな!?
あ、いや、俺は別に……そ、そう、俺より姉さんの方が絶対必要っていうか、うん?
「コウくん、これからどっちに行くの?」
「え! あ、ああぁっ、ちょ、ちょっと待って」
「あ、う、うん。ごめんね、方向音痴のくせに声かけて!」
「い、いや、うん、大丈夫!」
こほん。気を取り直して。
ともかく、その峰山から見下ろされるように広がるこの町は学区も東西南北に分かれている。
東の学区が東雲学院。
俺が通う共学校で、一般科と私立学科、芸能科がある。
私立で年長学部から小学部、中学部、高等部、大学部までエスカレーター式だが、一般科はその括りではなく校舎が違うだけで公立並の学費で通う事が出来る。
それだけでなく、一般科の生徒には希望すれば食堂つきの寮や学費援助、返済不要の奨学金制度もあり、俺のような金のない子どもにも手厚い制度がたくさんあるのだ。
その分人気で、受かったのはマジでただ運が良かったような気もする。
ちなみに面接が一番点数が高かった。
本当に良心的な学校だと思う。
次に南の学区が南雲学園。
共学校ではあるが全寮制のスポーツ特化型の学校。
俺は運動そこまで得意ではないので、最初から受けていない。
なお、偏差値は一番低い模様。
次に西区の西雲男子学園。
名の通り男子校。
偏差値が最も高く、文武両道。
……偏差値も学費も高いので、俺には無理だった。
最後がせりなちゃんの通う事になる北区の北雲女学院。
女子校で、いわゆるお嬢様学校。
さすがに男の俺は詳しく知らない。
でも、確か送迎バスつきだったはず。
……なるほど、地理に自信がなさそうなせりなちゃんだが、送迎バスなら通学は安心だな。
公共バスと違って満員のぎゅうぎゅう詰めや痴漢被害にも遭わない。
「……という事は……こっちだ」
「はい! ついていく!」
そして、それぞれの高校の位置を確認すると……制服を売っている店は町の中央区。
今時少し珍しい、商店街の中だった。
バス停から降りて直進すると、左右に道路を跨いだ大きなアーケードが見えてくる。
スマホを確認すると、右のようだ。
「こっち」
「はい!」
「平日の昼だし、人少ないね」
「そうだね〜」
意外とたくさんの店がある。
服屋、飲食店、雑貨屋、チェーン店、眼鏡、靴屋……次々と店のジャンルが変わり、ちょっとワクワクする。
その中で何軒か、『制服取扱店』の看板がかかっている店を見かけた。
その制服は『東雲中学部、南雲中学、西雲中学、北雲中学部』とあり、残念ながら俺とせりなちゃんが探す高校の制服ではなかったけれど……。
「あ! ケーキ屋さん!」
「はあ、おしゃれだねってどこ行くの」
「え、あ、ちょっと覗いてみるだけでも……」
「あ、あとにしよう? 絶対食べたくなっちゃうから」
「そ、そうだよね」
俺も甘いものは好きだし、店に入ってせりなちゃんと一緒にケーキ食べてみたいけど……結構財布の中身がギリギリなんだよな。
まず必要なものを買ってから考えよう。うん。
「あ! クレープ屋さん!」
「せりなちゃん、クレープ屋さんはあとで寄ろう」
「あう」
気持ちは分かる。とても分かる。
だが、俺はこのあとケトルや炊飯器とかも見たい!
制服やジャージの値段は書いてるけど、ネクタイなどの小物がいくらかは書いてない。
どのくらいかかるのか分からないから、無駄使いはしたくないんだ〜。
「あ、飴細工屋さんだって! 珍しくない!? あ、その隣はタピオカミルクティーだって! あれが噂のタピオカミルクティー! わたし、まだ飲んだ事ないんだ!」
「あ、それは俺も……じゃ、なくて! ……あ、ほら、制服売ってるお店あったよ!」
「え?」
なんとなく、せりなちゃんが迷子になる理由を察してきた頃、ようやく『高等部、高校制服取扱店』の看板を見つけた。
好奇心が旺盛な一面が普通にかわいいけど、迷子にさせるわけにはいかない。
昨日と今朝のお裾分けのお礼に道案内をすると言ったので、しっかり彼女を送り届けなければならないだろう。
いや、お金が余れば俺だってケーキでもクレープでもタピオカミルクティーでも……!
「すごい! ちゃんとお店にたどり着けた! コウくんすごい!」
残念ながら普通だよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます