第6話 新生活準備中【1】
「と……そういえばポットやケトルとかも買ってないんだっけ……」
生活を初めて比較的すぐに足りないものに気づく。
せりなちゃんに朝、味噌汁をもらって幸せな朝食を摂ったあと、俺は昼飯にカップ麺を食べようとしていた。
けど、大型の必要家電は買ったが小さなものはまだ揃えていない事に気がつく。
部屋を見回すと本当に最低限なものしか揃えていない。
ベッド、テーブル、椅子、パソコン、テレビ、電子レンジ、掃除機、冷蔵庫、洗濯機。
あとは実家から持ってきた勉強道具と私服、私服の入った収納ラック。
あると便利だから、と姉に勧められたハンガーラック。
クローゼットはあってないようなスペースしかないから、これは本当に買って正解。
しかし、やっぱりまだ色々足りなかったみたいだ。
ケトルくらい今から近くの家電ショップで買ってこようかな。
「制服と教科書も買わないといけないし、あとノートと……運動着、ジャージ、運動靴、外と中用。うーむ、バイトも早く決めておかないと……」
母の再婚相手はおおらかな人で、そして意外と金持ちだ。
会社の社長らしくて、俺の学費や生活費は任せろ、と言ってくれた。
でも、やっぱり他人だからあまり頼りたくない。
早く独り立ちしたい。
「ん……調理器具とか全然買ってないな……」
そして、昨日今日とせりなちゃんにご飯を頂いてしまったので気がついたのはうちの調理器具のなさ。
料理はする気がなかったし、必要になったら百均で揃えりゃいいか、と適当に考えていた。
けれど、二日連続で隣からお裾分けを頂いたからには……俺もなにかせりなちゃんにお返ししなければいけないと思う。
そもそも、せりなちゃんには昨日菓子折りももらっている。
いくらなんでももらいすぎだ。
ここは一つ、俺もなにか料理してお返しすべきところだろう。
…………。でも、なにを?
「あ……そういえば炊飯器もない……」
コンビニで弁当を買えばいい、と思っていたが……米くらい炊けば良くないか、俺。
姉さんとは大型家電を買いに行ってるから、うん、小さいのは自分で買いに行こう。
制服とかもいい加減買っておかないと。
「よし」
行くか。
外へ出かけるので、スウェットからトレーナーとジーンズに着替える。
財布とスマホ、朝に味噌汁が入っていた器……もちろん洗った! ……を、持って通路に出た。
「……」
ピンポーン。
……朝と同じく、チャイムを鳴らす。
すると中からどたん、どたん……また慌てた音。
そんなに慌てなくていいのに……と思うけど、また玄関前で少しな静寂。
からのチェーンを外す音、鍵が開く音、扉が開く音。
この流れ、カウントダウンのようで変にドキドキするのは俺だけだろうか?
「は、はい!」
「あ、あの、お味噌汁ありがとう。美味しかった」
「う、ううん! 良かった。あんまり具もなくてごめんね!」
「ううん! そんな事ないよ!」
お味噌汁の具材はネギと油揚げだけ。
でもあの温かなお味噌汁はインスタントと違って、口に入れた瞬間出汁と味噌の香りと旨味が広がって……ホッ……って、するんだ。
あれは手作りならではだと思う。
だから、これは心の底からの言葉だ。
「本当に美味しかったよ。ありがとう」
「……っ」
おわんを返して、少し……いや、結構顔が赤いせりなちゃんに首を傾げる。
「顔が赤いけど、どうかした?」
「なんでもないよ! ……あれ? コウくん、どこか出かけるの?」
「あ、うん。制服とかまだ買ってなかったから……」
「制服……制服!」
「え?」
「わたしもまだ買ってない!」
「ええ!?」
サーッと顔を青くしたせりなちゃんが、またもどたどた部屋の中へ戻っていく。
その時また、せりなちゃんの部屋の中が見えたのでそっと扉を閉じる。
女の子の部屋をじろじろ見るのはよくないよね。
「制服、あと運動靴とジャージ、調理科はエプロン三枚……ふえぇ、一枚しか持ってないよぅ……。え? えーと三丁目の『いとう呉服店』……? あれ? 地図……うえぇん……分かんないよう……」
という独り言が聞こえるのはさすがにどうしようもないけど……。
「あ、あの、せりなちゃん、昨日の夕飯と朝のお味噌汁のお礼に……その、買い物、付き合おうか? 制服売ってる店なら多分同じだと思うし?」
「!」
扉は足を引っかけて、ほとんど閉じている。
だけど、声は届いたと思う。
またもせりなちゃんがばたばた勢いよく近づいてくる足音。
「ほ、ほんと!?」
「う、うん。買うもの多分似たような感じだし。俺も初めて行く店だから、誰か一緒だと心強い」
「ありがとう! わたし、本当に地図よく分からなくて! ……このアパートにも不動産屋さんに連れてきてもらったし、買い物に行ったら戻って来れなくなりそうだったから食材も通販だし!」
「……え、ええ……」
そこまで?
「……あ、じゃあ……帰りに近くのスーパーやコンビニの町、教えようか?」
「本当!? かっ……神……!?」
「大袈裟すぎるよ!」
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