第2話

「ねぇ、アリア、朝は白パンにする?それともサラダ...」


「・・・」


「アリア〜!アリアってばーーー」


リーシャは朝から困っていた。昨日の一件が原因で、可愛い妹のアリアが口を聞いてくれないのだ。


「アリア、リーシャはアリアを心配していたからこその行動だったんだ。そろそろ許してあげなさい。」


見かねた1番上の兄、ロイが話しかける。それでもアリアは膨れっ面なままだった。


「それにしても、あの噂はやはり本当だったんだね。」


2番目の兄、ライルが口を開く。


「村の近くの禁猟区で貴族たちが闇猟りを楽しんでいる、って噂にはなっていたんだ。禁猟区だからこそ鹿やうさぎはもちろん、良質の鴨もいる。ただ、鴨はフリンさんちの農場で育てた立派な家畜だからなぁ」


「林で放牧して育ててるんだったよな。栄養つけさせるために」


ロイも続いて口を開く。


2人ともこの辺の事情には詳しいのだが、まさか貴族がわざわざこんな田舎の村に来て猟りを楽しむなんて思ってもみなかったようだ。


「昨日の今日だ。さすがにまた来ることはないだろうが、アリアは危ないから留守番だ。林には近づくなよ」


「えー!アリアお兄さんに会えるかもしれないから、また林に行きたいと思ってたのに!」


「だーめーだ」


アリアはしゅん、としながらも兄の言うことを聞き、大人しく朝食の準備を手伝った。




ーーーーーーーーー


「リーシャすまない、そっちが終わったら水汲みを頼めるかな?」


「ええ、わかったわ」


アリアのかわりに水汲みに行くリーシャ。大人用の大きなバケツを手にすると、続けてロイに声をかけられる。


「アリアだけじゃない。リーシャも気をつけるんだぞ。闇猟りをするようなやつらだ。まともじゃないだろ。危ないと思ったらー・・」


「だーいじょうぶよ兄さん!そんなやつら、私が水のたっぷり入ったバケツを投げつけてやるわ」


そう息巻いて、リーシャは林へと向かう。


ロイは心配そうにリーシャの後ろ姿を見つめつつ、自身の畑仕事へと戻った。




ーーー


「ふぅ。これでよし。兄さんのところへもどらなきゃ」


バケツにたっぷりと水を組み、リーシャが帰路につこうとしたとき....


グワッ!ワッ!グワァーー!




「きゃっ!な、何?」




リーシャの前に川の上流から、血を流しながら傷ついた鴨が。


「なんてこと。この子、兄さんたちが言っていたフリンさんちの鴨だわ。」


鴨の足には家畜を示す焼印とフリン家のタグが。間違いなく育てられた鴨だ。


「おーい!こっちだこっちだ〜!」


「!」


鴨に弓を放った主だろうか。馬に乗った、身なりからして明らかに位の高い身分の中年の男が現れた。


「ん?なっなんだお前は。その鴨は...」


「ここは禁猟区よ!しかもこの鴨は家畜として育てられた、フリンさんの家の立派な商品!保安兵を呼ぶわ!」


「なっなんだと!」


と言ったものの、驚きと戸惑い、そして突然の出来事への恐怖のあまり足が震える。


(どうしよう。ここから大声を出せば兄さん気付くかしら・・・)


「生意気な小娘め。私をだれだと思っている!身分が違うのだぞ!


・・・ええぃ、煩わしい!娘、こっちへ来いっ!」


貴族は馬上から手をのばしリーシャの腕を掴むとグッと自身へと引き寄せる。リーシャの細い体が反るようにしなった。


「いっ・・・たっ!」


(怖い・・・!)




「おい!そこで何をしている!」


林の奥から何頭か・・・複数の馬の音と声が近づいてくる。


声の主は貴族をきつく睨み付け、御付のものに貴族を捕らえさせた。


リーシャといえば、貴族から逃れ体制を崩しよろめいた所を、声の主に優しく抱きとめられる。


「大丈夫か?”おねえちゃん”」


「あっあなたは・・・」


そう。声の主は昨日合った品のいい青年。アリアいわく"ウサギの王子様"であるルイだ。


ルイは今日も臣下である騎士団をひきつれて闇猟りを罰するために近くに身を潜めていたのだった。


「娘は私が家まで送り届けよう。お前たちはそいつを城まで連行しろ」


「はっ。かしこまりました。」


「いっいや、大丈夫です!私ひとりで帰れます!」


「・・・その震えた足でか?」


めまぐるしい展開についていけないリーシャの体は、微かに震え動揺をかくせない様子だ。


だまっていろ、と言わんばかりにルイはリーシャを抱き上げると、自身の馬へと乗せその場を離れた。


リーシャは馬に揺られながら、何がおこっているのかを必死に考えていたが、なぜか激しく打つ心臓の音に思考を停止させられるのであった。


《続く》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る