第5話 SideA
「AIの亡霊?」
科学技術の最先端とコラボするにはあまりにも不釣り合いなオカルトとのコラボレーションに、鼻が先走って笑った。
「都市伝説みたいなもんですよ。自分だって信じちゃいません」
苦笑いしながら、後輩はエナジードリンクを一口すすった。
「出番までどうせ暇じゃないですか。それまで話に付き合って下さいよ」
深夜、広いオフィスにずらりと並んだPCのほとんどは電源が落ちている。自分と後輩のPC、そして真上の蛍光灯だけが、暗いオフィスの中で輝きを灯している。残業、ではなく、業務が夜勤帯ってだけだ。エンジニアの仕事は夜中にしか出来ないものも多い。日中稼働しているシステムをすべて落として、次の日の稼働するまでに作業を終える、というような。いくつかのチームを組んで、段階を踏みながら作業をするため、前のチームの作業が終わるまで待機、つまり暇な状態となる。いつ順番が回ってくるかわからないため眠ってしまうわけにもいかず、カフェインをとりながら眠らないように喋り続けるしかない。死なない雪山遭難みたいなものだ。まあ、仕事中に眠れば、会社員的な死は迎えるかもしれないが。
「わかったよ。で? その都市伝説ってのはどんな内容なんだよ」
「こいつです」
後輩が自分のスマートフォンの画面をこちらに向けた。表示されているのはSNSのアプリ画面だ。
「SNSの中に、実はAI用のアカウントがあるんですって」
「へぇ~」
「ちょ、種明かししたとたん興味無くさないでくださいよ」
「だって、そんなもん都市伝説でも何でもないじゃないか。すでに既存のサービスとして存在しているだろうが。宅配サービスのSNSアカウントにメッセージを入れたら人間みたいな返事が来るし、インターネット通販のヘルプでもチャット形式できちんと問題解決してくれるし。今更もったいぶって都市伝説なんて言うほどのもんでもないだろう」
「いえいえ、そういうんじゃなくてですね。実は、普通の人間と同じようなアカウントを持っていて、突然FF外から失礼するらしいんです。あ、FF外から失礼ってのは」
「知ってるよ。フォローしてなくて、フォロワーでもないけど、あなたの言ってることは大間違いで恥を世界中に公開していますよって大きなおせっかいが大炎上することだろ」
「端々に悪意を感じるんですけど。何かSNSに恨みでもあるんですか?」
「恨みはないけど、まあ色々と思うところはある。で? 続きは? FF外から何されるんだ?」
「呪い殺されるそうです」
「ずいぶんとオカルトチックな殺し方じゃないか。せめて、サブリミナルとかによる洗脳とか、機械っぽい方法があるんじゃないのか」
「いや、詳しくはわからないですよ。でも、SNSに登録していた何人かが、FF外から失礼されて、突然発狂したり自殺したりしているらしいんです」
「その情報源はどこよ」
「ネットです」
「うさん臭さしかなくないか」
「いやまあ、そうなんですけどね」
「というか、AI成分はまだあるけど、亡霊成分がないじゃないか。どっから来たんだその亡霊は」
「ああ、そうそう。そこが重要なんですよ。何でも、そのFF外から失礼してくる奴は、アカウントが何らかの理由で凍結されたり、削除されたはずのアカウントかららしいんです」
「何らかの理由?」
「例えば、すでに死んだ人間のアカウント、とか」
「バカお前、それただ単に乗っ取られただけじゃねえのかよ」
「でも、それまで使っていた本人とほぼ同じ文面らしいですよ」
「筆跡鑑定じゃあるまいし。それこそAIみたいに、いくつものサンプルがあればマネできるだろうがよ・・・あ、だからか」
「はい。だから、AIの亡霊なんです。その人に成り代わって、FF外から失礼してそいつを殺し、アカウントを乗っ取る。で、そいつのフォロワーから次の相手を探す」
「なるほどね。新しい貞子みたいなもんだな。確かに都市伝説っぽい」
「でしょう? ・・・お、僕たちの作業の時間が来たようですね。良い暇つぶしになったでしょう」
「時間が潰せたことは評価してやるよ」
「もし次暇になったら、実際に登録してみてください」
「気が向いたらな。さ、仕事だ」
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