第3話 美人妻と美人JKと義父候補
母が再婚した。
これまで苦労してきた母には幸せになってほしい。表立っては気恥ずかしくて言えないが、まごうことなき私の本心だ。
だが、母が連れてきたのは、明らかに怪しい男だった。
デブで、頭部は薄く、臭い。お世辞にも端正とは言えず、というか程遠く、どうひっくり返して見ても不細工なオヤジだった。
なぜこんな男を連れてきたのか、私にはまったく理解できなかった。家族の贔屓目を抜きにしても、母は美人だった。スタイルもよく、バリバリ仕事のできるキャリアウーマンは、私の自慢でもあった。
どう考えても釣り合わない。奴の手が母の手を這うたびに吐き気がする。
「雪乃。こちら、猪野剛一郎さん。挨拶して」
母が促すも、第一印象のショックと後から湧き上がる嫌悪感で口がきけなかった。
「初めまして、雪乃、さん。お母さんとお付き合いをさせていただいている、猪野剛一郎です。どうぞよろしく」
背中に怖気が走った。猪野と名乗る男の目が、私の体を、頭のてっぺんからつま先までを舐めるように見たからだ。
こいつ、もしかして・・・
知識としては知っている。けれど、現実に存在したのか。
そう、女の弱みを握り、自分の意のままに操り調教する下種な男が。
この考えが確信に変わったのは、猪野と出会って数日後だ。
紹介された日から猪野は我が家に住み着いていた。できるだけ顔を合わせたくないからと、可能な限り外で過ごしていた。
自室に戻ろうとすると、声が聞こえた。声がしたのは母の部屋だ。足音を忍ばせて、ドアに耳をそばだたせる。
「ンンンンンゥゥッ!」
くぐもった、しかしどこか艶めいたうめき声が響いて、驚き後退った。あれは、母の声か? いつもの凛とした声からは想像できない声だった。
「大丈夫か?」
猪野の気遣う声がするが、どこか嬉しそうな響きがあった。
「きつければ、もうここで終いにするが?」
猪野はそういうが、終いにするという言葉を待っていないのは明白だった。
「そんなこと、言わないで・・・。お願い。続けて」
「わかった。だが、あまり声を上げるんじゃねえぞ? 娘さんに聞こえちまうぜ?」
「大丈夫、あの子はいつも帰りが遅いし、もしばれても・・・それよりも、早く、剛一郎さんのが欲しいの」
「くっくっく、すっかり俺のテクの虜になっちまったなぁ? ええ? 初めて会った時の毅然とした表情が、今や見る影もねえ」
「だって、だってしょうがないじゃない。こんなの、気持ちよすぎ、てぇっ! 癖になるゥ!」
会話の途中で、尾を引くような嬌声が上がる。何をしているのか、何をされているのか、知りたくもない。逃げるように自室に戻った。
まさか私の知らないうちにあんな男に引っかかっているとは夢にも思わなかった。
当時、私はケガで打ち込んでいた水泳ができなくなった。その理由に加え、反抗期という、とにかく目に見える何もかもに反感をもってしまい、わかりやすいくらい荒れていた。結果、悪い連中とつるみ、さらに深みにはまる悪循環に陥っていた。そのことで何度も母と衝突し、遅くまで遊んで帰ることもざらにあった。
しかしそのせいで、母はあんな男に騙されて、あまつさえ調教されてしまった。
「私の、せいだ・・・」
私のせいで、母はクズ男の慰み者になってしまった。
助けなければならない。そう胸に誓った。
翌日。母が仕事に出たのを見計らい、私は家に舞い戻った。
「あれ、雪乃さん? 学校に行ったんじゃ・・・」
「あんた、母さんに何してるの!」
猪野の言葉を無視し、詰め寄る。
「何って・・・」
「とぼけないで! あんたが母さんをレイプしているの、わかってるんだから!」
「れ、え? いや、雪乃さん、そいつはご・・・」
「うるさい!」
鞄を投げつける。中身のない鞄は猪野にぶつかって落ちた。
「出て行って! 二度とこの家に入らないで!」
「いや、そう言われてもねぇ」
苦笑する猪野。それが、私の癇に障った。おそらく、この男は母の弱みを握っていて、もし追い出すようなことになったら、それを公表しようという魂胆なのだろう。
「わかったわ」
「わかった、とは?」
「私が、母さんの代わりにあんたに抱かれてあげる。だから、二度と母さんに近づかないで!」
「は? いや、何言って、なんで脱いで・・・」
「ほら! 好きにしなさいよ! あんた、私と初めて会った時も、いやらしい目で私の体見てたじゃない! 好きにしていいから! だから、母さんには手を出すな!」
声が震えているのを自覚した。
私の話を聞いた猪野は、ため息をつき、部屋で待っていろと言った。やはり、そうなんだ。これから自分の身に降りかかることを想像しただけで、目の前が真っ暗になった。
しばらくして、部屋がノックされる。
「どうぞ」
ドアが開くと、猪野が現れ、その後ろから現れた人物を見て目を見開いた。
「か、母さん、なんで!?」
「剛一郎さんから連絡もらって、今日は会社休んじゃった」
私は猪野を睨みつけた。
「約束と違う! 母さんには手を出さないって言ったじゃない」
「そんな約束してないぜ? こうなりゃ、美也子さんともども一緒にやってやるよ」
そうか、こいつは母の前で、私を凌辱し、心を折り、屈服させる気なのだ。なんて腐った下種野郎なのだ。
「良いわ。でも絶対、あんたなんかに負けたりしないから!」
「いつまでいきがってられるかな? ・・・美也子さん、娘さんからで、良いですね」
「ええ、思い切り、やってあげて?」
「おぼお! おぶ、うぐぅ!」
何度もベッドの上でのけ反る。突かれる度に、痛みと、それを上回る快楽が全身を駆け巡り、脳がとろけそうになる。口元からはよだれが垂れ、シーツを汚した。
「おいおい、どうした? まだ終わりじゃねえ、ぞ!」
「ああああああ!」
汗を額から滴らせ、猪野が私の両腕をぐいと引いた。背中が弧を描く。自分の口からあふれたとは思えない甲高い声が響き、猪野が手を離すと同時に、力の入らない体は重力に負けて落下し、顔が枕に埋もれた。
威勢の良い啖呵を切ってから、どれほどの時間が経ったのだろう。その威勢は、猪野のたった一撃で粉砕され、あとは奴のなすが儘、私は翻弄され続けた。世の中にこれほどの快楽があるのかと、無知と一緒に体に覚えさせられた。
「おいおい、蕩けきった顔してるじゃねえか。満足してもらったようだな。俺のテクに」
私の頭を両手で挟み込み、持ち上げて、猪野が笑った。
「こいつはついでだ」
猪野が再び突く。新たな刺激が脳に届き、また情けない声を上げた。
「今日は、ここまでにしておいてやる。さ、少しだるいかもしれねえが、ちょっと立ってみてくれ」
言われた通り、体を起こす。
「うわっ」
素直に驚いた。
「軽い。体が、めちゃくちゃ軽い!」
自分の体じゃないみたいだ。もしくは、重力が半減したか。
「だろ? 初めて会った時から、気になってたんだよ。最近の若い子は、姿勢が悪いからか骨が歪みまくってるんだよな」
猪野が顔をくしゃっと歪めた。笑ったらしい。
私は、大きな勘違いをしていた。母が調教されていると思い込み、いや、それはある意味正解ではあったが、猪野を下種野郎と勘違いしていた。
彼は、凄腕の整体師だった。彼曰く普通の整体以外に『気』というエネルギー循環による身体蘇生法をミックスさせているとかなんとか、詳しいことはわからないが、とにかくその界隈では名の知れたゴッドハンドだった。私はみっちり一時間、彼の手によって全身のツボを突かれ、骨を整えられ、筋肉をほぐされていた。
「最初は、私の勤める会社の福利厚生で来てくれたの。初めての整体は衝撃の一言だったわ」
「美也子さんもデスクワークが多いから、骨や筋肉が固まってたんだ。あれじゃあせっかくの美しいプロポーションが台無しだぜ」
そこから母と猪野はたびたび会って話をしていた。話題は私のことだった。
「膝のケガで、水泳競技を諦めた娘がいると聞いた。どうにか治してあげられないかと。娘の夢をケガなんかに邪魔されたくないとな」
相談に乗っているうちに、母は猪野の人柄に惚れ、交際を申し込んだらしい。見かけによらず、というのも失礼だが、猪野は誠実な男で、最初のうちは交際を断っていたらしい。しかし、母に何度も押され、最後には折れたのだとか。
「いや、紛らわしすぎじゃない?! じゃあ帰りが遅いから大丈夫だとか、娘に聞かれるとか、どう聞いても十八禁ワードじゃない?」
「いや、もう寝てたら邪魔になるなとか、そういう大人の配慮だけど?」
いやらしいわ、とニヤニヤからかう母に、再び反抗心が芽生える。
「う、うるさい! いい? 私はまだ、あんたのこと認めたわけじゃないからね!」
そういって、逃げるように部屋を出て、靴を履き、彼らの前から走り去った。
膝の痛みは、もうなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます