第50話 微笑む観音像
片倉小十郎重綱の妻となった阿梅は、ただ一人の奥方として片倉家を支えた。重綱は相変わらずの馬鹿真面目を貫いて側室は迎えず、生涯、妻は綾と阿梅だけだった。
重綱と阿梅の間に子供はできず、最終的に喜佐の―つまり重綱の孫にあたる―子供を養子に迎えることになる。阿梅はこの子供を熱心に教育し、片倉家を継ぐ男子へと育て上げる。
結果、三代目小十郎となるこの景長も、忠義に厚く、その後に伊達騒動が起こった際など、領内の混乱を速やかに防ぐといった働きをして仙台藩を支える傑物となる。
重綱は七十を越えるほどの齢を重ね、当然ながら主君である政宗を見送り、その後の伊達家、仙台藩主を三代目まで支え、奥州の安寧に尽力した。片倉家の夫婦は共に長生きをし、最期まで仲睦まじかったと伝わっている。
阿梅は重綱を見送った後も片倉家に尽くし、また真田に仕えていた者達や妹弟達の支えとなったようだ。これまた七十を越えるほどの長生きだった。
その阿梅は最後に、「西国に向かう人が私のことを伝えてくれたのなら」と、街道沿いに葬られることを望んだ。
西国と縁のあった当信寺にある観音像が阿梅の墓であるが、頬に手をあてた姿から、あの観音像は歯痛を癒すと噂になり、墓石を削る者が多くいたようだ。削られた墓石は観音像とも分からない姿になっているが、長く白石の地にあり、人々の生活のなかにあったことを物語っている。
そこに生きる人々に寄り添うように。また、己の歩んだ道を慈しむかのように。
観音像はほのぼのとした風情で、白石の街のなか、今も微笑むようにしてそこにいる。
完
真田の娘 丘月文 @okatuki
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