第7話 太宰金助
伊達の屋敷に入った片倉隊は、一様にして全員の無事にほっとした。
何せ、この隊は阿梅という爆弾を抱えている。バレでもしたら、一貫の終わりだ。
だが、
重綱は一息つく前に政宗に報告をと、家臣達に阿梅を任せ片倉隊を離れた。それを見計らっていたかのように、すっと一人の男が重綱に近づく。
「小姓姿とは、たいしたもんですな。あれ程に馴染むとは。さすが真田様のお子」
囁かれた言葉に、重綱は鋭い目を男に向ける。
「おぉっと、そう睨まねぇでくだせぇよ。私は太宰という者で」
だが、聞き覚えがあるその名前に、重綱は警戒をすぐに解いた。
「
「おや、私の名を知っておいでとは。光栄でごぜぇます、小十郎様」
「知らぬわけがない」
重綱が言えば、金助は「でしょうなぁ」と笑った。
一見すると気の良い商人に見えるその男の正体は、伊達家が抱えている諜報組織、
彼はかつて、重綱の父、
「いやはや、こんな風に貴方様にお会いすることになろうとは」
懐かしむような顔で金助は重綱を眺めた。もしかしたら彼にとって、重綱は見知った者だったのかもしれない。
「はは、すいやせん。お父君とは、それなりに縁があったもんですから」
「承知している」
頷く重綱に金助は本題を切り出した。
「私の今回の任務は大阪城の内情を探ることでして」
「………………そのようなこと、私に知らせてよいのですか」
「なぁに、もう仕事は終わってまさぁ。それに、これを貴方様に伝えるのが仕事で」
重綱は目を細め、金助をうかがった。
情報を伝える、それもおそらく阿梅関係で。そして金助は大阪城の内情を探っていた。となれば、ことはそれなりに重い。
「真田様の残した子供、二名を無事に保護しやした」
「!」
しかし重綱の驚きは一瞬だった。そして次に重綱を襲ったのは―――徒労感だ。
(やはりか)
金助が動いていたとなれば、主君である政宗が知らぬはずがない。初めから、全部が主君、政宗の理解した上でのことなのだ。
「殿の策略か…………そうだな、でなければこのような事態にはならないな…………………」
がっくりと肩を落とす重綱に金助は「いやぁ、大殿の策略ってより、真田様の計略ですわ」と言った。
「というと?」
「なに、大阪城を探っていた我等を真田様が看破して、いいように使われたって話でさぁ」
さすがは真田信繁といったところか。真田衆を率いていた信繁にとって、間者を見抜くなど朝飯前だったに違いない。
つまり信繁は大阪城に潜んでいた黒脛巾組を通じて、政宗に前々から打診していた、と。そういうことらしい。
そこで金助は重綱に真剣な顔を向けた。
「しかし、最後の最後に小十郎様に託すとは。まったく、真田様は本当に大した御人だ」
「何?」
目を丸くした重綱に金助は重々しく言った。
「小十郎様は、正真正銘、真田様に見込まれたってことで。大殿にも予見できなかったんだから、間違いねぇですよ」
重綱はごくりと喉を鳴らした。
あの『その方を見込んで』という言葉は信繁の本心だったのか。
「お
金助は重綱の目をじっと見た。
「保護した二名のうち、一人は
そうか、金助はこの事を重綱に伝えにきたのだ。
重綱は姿勢を正した。
「二人とも、私が預かろう」
真田信繁に真に見込まれたというのなら。もとより覚悟はある。
それにもう、阿梅のことは重綱には無関係とも考えられなかった。
阿梅を妹、弟達と一緒にいさせてやりたい。
金助は頷いた。
「では、そのように」
そして金助はニッと笑いながら言った。
「また、小十郎様と仕事ができて嬉しゅうごぜぇます」
その含みに重綱も笑い返す。
「父ほどの力はないが、よろしく頼む」
「はは、ご謙遜を。――――では、また」
金助は来た時と同じく、足音も立てずにそこを去った。
それを見送った後、重綱が向かったのはもちろん主君、伊達政宗のところ。さっそく重綱は信繁から打診を受けていた事実を問い詰めたのだが。
逆に「気付かぬ方がどうかしておるわ!」と大笑いされるのがオチだった。
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