性根の悪い優等生、不登校児を嘲笑う(砂)
ごろりと寝返りを打つ。
天井から垂れ下がる蛍光灯のスイッチ紐。先端にくっついているブサイクなマスコット。
「あー」
気のない声。空気の抜けた人形のような私。
手のひらをかざす。窓から差し込む光りに、部屋の中を舞う塵がきらきらと煌く。
ぐぅ、とお腹がなる。そういえば昨日から何も食べていない。
起き上がるのも億劫で、結局学校にも連絡してない。
何度目かの振動。四角い板がブルブルと震えて、私に伝えたいことがあるのだと叫んでいる。
私は何も見たくないのに。
再び、毛布を頭から被る。
何も聞きたくない。
何も見たくない。
また幾度目かの闇に沈む。
どんどん、と扉が鳴る。そういえば鍵はきちんとかけたっけ。
確認するのも面倒で、結局そのまま扉は開いた。
「おはようございます、お寝坊さん」
ここまで来るの手間なんですよ、と言いながら部屋に入ってくる女。そいつは興味無さげな瞳を向ける。
「なに」
見下ろすクラスメイトの鈴の鳴るような声。
私は水も飲んでいない。蛇が唸るような音。
「少しは掃除くらいしたらどうですか」
からりと窓を開き、冷たい空気が部屋に滑り込む。
はらりはらりと、埃の積もった教科書が捲れる。
「なに」
スマートフォンをいじりながら、片目だけで睨みつける。もう半分の顔は毛布に埋まり、微睡みに誘われている。
「先生が心配してたので、点数稼ぎに」
素直なヤツだ。
「課題、ここに置いておきます」
教科書の上にぽすんとプリントの束。
「ご苦労さん」
視線が交差する。睨み合う。
「なんだよ」
「いえ、ありがとうも言えない、程度の低い人間なんだな、と再確認しただけです」
人前では被ってる猫も、見下す相手の前では地が出る。バカめ。
「感謝されたかったら芸でもやってみろよ。笑ってやらないこともない」
どすん、とベッドに蹴りが入る。瞬間、優等生は昔の表情に少しだけ戻る。あの、理由のない暴力を楽しむ貌。
相変わらずうるさいやつだな。
「なんですって?」
鋭い瞳が私を射抜こうと、昔のように凄んで見せた。
「遊んでやったら懐いた犬が、事もあろうに人様に向かって口ごたえですか」
「うるせぇって言ったんだよ。聞こえなかったか」
ぎり、と歯軋りの音。喧しい女だ。
そいつは私の髪を掴み上げて持ち上げる。私の顔を現にする。
包帯でぐるぐる巻きになった顔。白から漏れ出る焼け爛れた傷痕。
「その汚い顔を級友に再び晒す勇気が出ましたら、また登校してくださいね」
また興味が湧いたら遊んであげないこともないですよ、と言いながら女は私を手放し、ベッドの上に投げ捨てる。
一息に吐き出された罵倒に、私は歪んだ笑みを作る。
「痛ぇよバカ」
舌打ちに嘲笑で返す。
「今度学校に来ることがあったら、次は火傷じゃ済ませませんよ」
歪んだ顔。私の顔を焼いた時に見せた表情。その捨て台詞に、くつくつと引き攣るような嗤いが漏れる。
閉まる扉に消える横顔。
私は録音停止のボタンを押した。
砂を噛んだのはどちらか、教えてやろうじゃないか。
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