天使の笑顔(笑顔)

※本作品は極めてセンシティブな内容を含んでおります。閲覧の際にはご注意ください。










 天使の笑顔、という言葉がある。場合によっては微笑みと称されることもある。

 私の姉がまさにそれだ。

 なにが楽しいのか、常に笑っている。一切喋ることなく、ただ笑っている。気に食わないことがあれば発作的に暴れだすが、それでも意味のある音を出すことはない。

 そしてまた笑いだす。

 そんな姉に、母はかかりきりだ。いつも。常に。

 だから私は、生まれた時から母親からの愛情をきちんと受け取った覚えがない。

 もちろん、母は努力していた。私もそれはすぐに解った。母は、私の母足らんと、ずっと頑張っていた。

 けれど。姉の発作や、発作的な狂気にそれを阻まれた。

 仕方のないことだ。だって、姉はそういう生き物なのだから。

 でも、母はそう受け取れなかった。

 祖母は、母をなじった。

 父は姉から遠ざかった。

 母は生真面目に過ぎた。

 私はあまりに幼かった。

 壊れていく母を見るのは辛かった。幼いながら聞き分けの良い子を演じるのはそれほど大変ではなかった。ただ、次第に正体を失う生みの親を、指を咥えて眺めているしかない幼さを呪った。


 だから。

 だから、法廷で母の横顔を見た時は、安心した。

「では、あなたは自分の娘を手にかけたことを認めますか」

「はい。私は、私の娘を殺しました」

 そう言い放った母の顔は、とても清々しいものだった。まるで、天使のように。

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