めでたき日の裏側

もっとおしゃべり、したかったのに -ナナ-

 (むー)


 わたしはとってもおいかりちゅー。


 今日はかぞくみんなでおでかけ。「しんがくしき」とかいうののためにたくさんの人が集まってるみたい。


 でぃーねえが出るらしいっていうから楽しみにしてたのに、でぃー姉どこにも見えないしもうき。楽しみがなくなってしまった今では、ただただうるさくて仕方がないの。


 キョロキョロと首を振って左右まわりを見てみる。右にはママとパパ。左にはりー姉にさー姉にえー姉。パパはまじめに。ママは今夜はごちそうねーとか。でっかいケーキ、食べたい。


 りー姉はでぃー姉かわいいかわいいばっかり。さー姉とえー姉は、おねむで早く終わんないかなーって。


 わたしもおねむしたいけど、こうもうるさいと寝るのもむずかしい。だから、むーって口をとがらせるしかないの。


 くるりと左に目を向けると、ひざとひじをくっつけてつまんなそうに顔を支えてるえー姉がこっちを見た。ぱんぱんとひざを叩いて、えー姉たすけて、と呼びかける。


 えー姉もさー姉もむーって時にはすぐたすけてくれる。やさしくて好き。

 でぃー姉も、たすけてくれるけどちょっとうるさい。りー姉は、こそこそしながらたすけてくれる。ふしぎ。


 その声が聞こえたみたいで、ナナ、ナイス!ってって、おねむしちゃったさー姉とかわいいばっか言ってるりー姉の邪魔をしないように後ろがわを通ってこっちに来るえー姉。そのままママとお話してる。


 「ナナがつまんなそうだからちょっと外出てくるね」

 「あらあら、仕方がないわね。でも、二人だけだと心配。ファナ、お願い出来る?」

 「承知しました」


 それから、わたしのわきをつかんで持ち上げて、抱っこしてくる。えー姉、あまえんぼうさん?

 

 「行こっか、ナナ」


 うん、ってそういう前に歩きだしちゃうえー姉。後ろからふぁながこっそりついてくる。ふぁなは、うるさくなくて好き。


 ドアをあけて左のほうのかいだんをおりてから、足が地面ゆかにつく。それからえー姉の左の手をぎゅってしながらてくてくてく。

 こわい顔したおじさんたちの真ん中を通り抜けてやっとお外。それから少し歩いて、おっきな噴水ふんすいの前で二人でおすわり。ふぁながおみずの入ったつつをくれる。


 「ぷはー!ありがとね、ナナ!天使!女神!」


 おみずをゴクゴクしてる途中であたまをナデナデされる。よくわかんないけど、あたまがポカポカになって、うれしい。


 「やー、おめでたいと思わないわけじゃないけど、ああもかたくるしいと流石さすがにおめでたさもどっかに行っちゃって眠くなっちゃうよね。新しい魔法まほうじゃないの、あれ」


 べつにおいわいなんてうちですればいいじゃん、とつけ加えるえー姉。それから、りでぃ姉にちょっとごめんって。


 「……でぃー姉、どこかわかん、なくて。つまんない」


 あんまり口をうごかさないから、たまにしゃべると良くわかんなくなっちゃう。えー姉もナナが自分からしゃべってる、めずらしい、って。やっぱりおかしかった?


 「そうだよね〜。貴族席きぞくたいおうで広くてふかふかなのは良いんだけど、あんな見渡す限りたくさん居たら全員ディー姉に見えちゃうよね〜」

 「でぃー姉、おめでとう、したかった、の」

 「そっかそっかー。まぁ今夜はお家でお祝いするらしいから、おめでとうはそこですれば良いよ」

 「うん……。おうちでおめでとう、する」

 「よしよし、いい子いい子」


 またナデナデしてくれるえー姉。それからかわいいって。

 えー姉とそれからさー姉は、お話してるといつもほめてくれて、ナデナデしてくれる。それがうれしくて、いつもがんばって口をひらようにしてた。


 「でぃー姉、いつ帰って、くる?」

 「うーんとねー。確か後一時間半くらいで終わって、中等部わたしの時と同じならそれから顔合わせだったはずだから、三時……おやつの時間には帰ってくるかな?」

 「さびしい」

 「ん?私がいるのにさびしいなんて、エー姉傷付きずついちゃうなぁ。ナナはわたしじゃダメなの〜?」


 そう言ってえー姉はまたわたしの身体を抱っこして、おひざの上にすわらせてくれる。


 「ダメ、じゃ、ない。けど。でぃー姉に早く、おめでと、言いたい……」

 「そうだよねー。ディー姉もおめでたい式なんかより、ナナにおめでとうって言われる方が絶対ぜったい嬉しいと思うなー」

 「ほんと……?」

 「本当本当!可愛いナナにめられて嬉しくないわけが無いでしょ〜?」

 「じゃあ、いっぱいおめでとした、ら、いっぱいよろこんで、くれる……?」

 「そりゃもう当然ぜったい!」


 おめでとう、ありがとうがくりかえされそうだなーとも言ってたけど、いっぱいありがとうわれるとうれしい。でぃー姉帰ってきたら、たくさんおめでとう言おう。


 「ディー姉は……」


 何か言おうとして止まってしまうえー姉。くびを上に向けてみたら、どっか全然違うべつの方見てた。


 「ナナ〜、お姉ちゃんちょっと用事ようじ出来ちゃって行かなきゃいけないみたい。ゴメンね〜」


 そう言っておひざにすわってるわたしの腰に手を当てるえー姉。ふかふかの感触くっしょんがなくなって、足が地面についた。


 「ファナ〜」

 「はい」


 いつのまにかそばに居たふぁな。静かすぎて、ふぁなだけは近くにいてもあまり気づかないの。


 「ナナをお願い」

 「かしこまりました。エリアニーネお嬢様はどうされるのですか?」

 「ちょっと野暮用おさんぽ〜。大丈夫大丈夫、学園のこの敷地なかからは出ないから」

 「では、旦那様と奥様に聞かれた際はそのように伝えておきます。お気を付けて」

 「はいは〜い」


 そう言ってどっかに行っちゃったえー姉。……?


 もっとおしゃべりいっしょにしたかったいたかったのに……。

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