エピローグ
第575話 毬萌と結婚式
【ご注意ください】
このエピソードは本編、およびエクストラステージ『毬萌との未来編』からの続きとお考え頂けますと幸いです。
多くのifエピソードを紡いできましたが、それらとは関連性がございません。
あくまでも、メインルートのエピローグだとお考え下さい。
ゴッド各位におかれましては、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
◆◇◆◇◆◇◆◇
俺たちが
毎日が研究室に籠りっぱなしで同じように過ぎていくと思われると、それは違う。
俺は助手として、自分の研究をしながら他の研究者の先生たちをサポートしており、人の手伝いが妙にしっくりくるため、やりがいを感じて日々を過ごしている。
毬萌はと言えば、
しかも、来年辺りには准教授になるかもしれないらしい。
准教授になれば、自分の研究室が持てるし、より専門的な分野に注力できるようになる。
なにより、毬萌は来年で26歳。
その年で准教授になるのは異例中の異例であり、これはまたしても、彼女の周囲が騒がしくなりそうだと思わずにはいられない。
それはそうとして。
「コウちゃーん! 助けてぇえぇぇぇーっ!!」
2人で暮らしているマンションに、毬萌の声が響き渡る。
給料も2人合わせるとそこそこの額になるので思い切って完全防音のちょっといいマンションに引っ越して良かった。
これならば、毬萌の叫び声も我が家の中で完結する。
「なんだ、どうした。生徒から、神野先生って普通に見た目女子高生でイケますよね。先生感が全然ないし! って言われた件について解決策でも見つけたか?」
「違うよぉ! 招待状があるじゃん!」
「さっき届いたヤツ!」
「Marimoって書いたと思ったのにぃ、Marioになってたぁー!!!」
「助けてぇー、コウちゃーん!!」
招待状と言うのは、もちろん、俺たちの結婚式の招待状である。
先ほどブライダルプランナーの人から「あの、ご、ご確認を……」と気まずそうな連絡を受けて、確認して見たところ。
俺の婚約者の名前が、キノコ食ったらデカくなる配管工みたいになっとる!!
「だから、普通に漢字で良いって言ったろうが! どうすんだ、これ!!」
「みゃーっ! 怒んないでよぉ! だって、横文字入れた方が頭良さそうに見えるじゃん!」
「普通に頭悪い間違いしてんじゃねぇか! 最終確認もお前がするって言うから任せたのに!! これ、今から言ってどうにかなるものなのか!?」
「……もう、明日からわたし、マリオとして生きていくよっ」
「どうしてお前が大学のレコード記録塗り替える速さで准教授になろうとしてんのかが納得いかねぇ!! 俺なんて助教にも声が掛かんねぇのに!!」
「それは、そのーっ! コウちゃんの論文、面白くないんだもんっ!」
「うるせぇ! 論文は楽しさを競うものじゃねぇんだよ! ちくしょう!!」
さて、ご覧の有り様ではあるが、おわかりいただけただろうか。
俺たちは、結婚式の準備をしている。
ジューンブライドは「雨が降ると髪型が決まらないからやだぁ!」と毬萌が言うので、8月の盆前を予定日にして、現在目下、準備の最終段階。
「あ、もしもし? 桐島です。すみません、先ほど招待状を確認しまして、あの、どうにかなりますか? お金は払いますんで。俺としましても、イタリア人男性みたいな名前と自分の名前が並ぶ招待状は……。ああ、本当ですか!? すみません、お世話かけます!」
ウェディングプランナーさんが、どうにか印刷し直してくれるらしい。
もちろん、ガッツリ追加料金は発生するが。
「にははーっ。これも経験で思い出だよーっ! ね、コウちゃん!」
いつの間にか立ち直ってアホ毛をぴょこぴょこさせている幼馴染の方が、圧倒的に稼いでいるため、家庭内での俺の発言力が日増しに弱くなっている。
結婚前からこの調子で、先の事を考えると恐ろしくなる。
「プランナーさんの手腕に感謝だよ。やれやれ、結婚式挙げるのも骨が折れるな」
「ねーっ! こんなに大変だなんて思わなかったー!」
「お前はだいたいやらかしてただけだけどな!?」
「にへへっ、頼りになるコウちゃんが旦那様で良かったのだっ!」
既に職場では挨拶が済んでいるし、毬萌の両親には婚約指輪を贈った22の時に「娘さんを」とまで言ったら「ありがとう、コウちゃん!!」と叫ばれたし。
とりあえず、招待状が最後のチェックポイントだったため、あとは8月を目指して、明日からもしっかりお仕事に励むだけなのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
光陰矢の如し。
気付けば
俺たちは、仲良く有休を使って3週間の休みを取り、宇凪市へ帰省していた。
結婚式も程よく緊張はするが、俺にとって毬萌との付き合いは緊張の連続。
留学を決めた時も緊張したし、プロポーズした時はもっと緊張した。
その後も一緒に住んでいるし、それらに比べたらば結婚式と言うヤツは案外緊張しないものなのね、と気楽に構えている。
「桐島先輩! 毬萌先輩! お迎えに上がりました!」
「おう。鬼瓦くん。すまんなぁ、仕事に育児に大忙しなのに、わざわざ」
「いえ、真奈さんも絶対に先輩たちの送迎はあなたがやってと言っていましたから! 僕たち夫婦の総意です! ゔぁい!!」
鬼瓦くんと勅使河原さんは、2年前に結婚している。
去年めでたく出産。しかも、三つ子と言うフィーバーをキメて見せた俺の後輩。
一気に三児の父とは、後輩の成長が眩しいぜ。
「そうそう。二次会ですけど、うちの店を解放して会場にって話になりましたよ。氷野先輩と冴木さんが張り切っているらしくて。先輩たちには最低限の情報だけ与えよと指示を受けておりますので、これ以上は僕も話せませんが」
ハンドルを握る鬼瓦くん。
二次会なんて、企画してくれるだけでもありがたいのだから、それを「教えて、教えて」と前のめりになってかぶりつくのは無粋。
せいぜい当日の楽しみにさせて頂こう。
何のトラブルもなく実家に送り届けてもらった俺たち。
鬼瓦くんにお礼を言って、「休暇の間にリトルラビットへ遊びに行くよ」と付け加えると、ビシッと敬礼して鬼神パジェロは走り去って行った。
「そんじゃ、毬萌。しっかり親孝行するんだぞ」
「えーっ。普通に過ごすよぉ? だって、コウちゃんのとこに嫁ぐのって、別にこれまでと変わらないもん!」
『STAND BY ME ドラえもん』を一緒に見て、中盤で既にドラ泣きしていたヤツの発言とは思えない。
何のために結婚式まで2週間も余裕持って休みを取ったと思ってるんだ。
それから3回ほど同じことを言って、ぶーぶー言いながら「分かったよぉ」とアホ毛が面倒くさそうにしおれたのを見届けて、俺も久しぶりの我が家へ。
「ただいま」
「帰って来たのかい! あんたの好きな伊勢海老を蒸し焼きにしといたよ! 手ぇ洗って来な!!」
「お、おう。帰って来る度に食事の水準が上がっていくな」
母さんに言われて、しっかりと手洗いうがいを済ませて台所に行くと、父さんがいた。
来年から専務取締役に就任する事が決まったらしく、ついに競艇場から始まったサクセスストーリーも完結編へと舵を取る。
それよりも、指摘しないといけない部分がある。
「公平、今日はドン・ペリニヨン レゼルヴ・ド・ラベイを用意しておいたよ! とっておきだ! さあ、飲もう、飲もう!!」
「父さん。もちろん酒にゃ付き合うし、わざわざクソ高い一本を用意してくれるのも嬉しいんだけどさ。あの、なんつーか」
「もしかして、これまで育ててくれてって
「違うよ! 家の中ではカツラ取れよ! 見慣れねぇんだよ!!」
とうとう高級カツラに手を出した我が父。
専務になると見た目も大事だとかで、冗談みたいな値段をかけて作ったと母さんから電話で聞いていたが、フサフサしている父さんを見ていると実家に帰った気がしない。
俺たちも結婚式を控えるまでに変化したのだから、周りだって同じスピードで変化していくのは道理。
式までの休暇を、お世話になった人たちへの挨拶と両親への感謝を伝える期間にあてて、ゆっくりとした時間が流れていった。
そして、結婚式の当日を迎える。
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