鬼瓦くんif結婚までの道ルート

第564話 迷える鬼に救いの手を

 【ご注意ください】

 ifルートは、あくまでも「あり得たかもしれない可能性」を元に語られるお話です。

 よって、本編終盤、および『毬萌との未来編』とは、似ているけども別の時空だとお考え頂けると幸いです。


 特に、ifエピソード同士は確実に矛盾が生じますので、そのような展開が好みではない方はご注意ください。


 なお「鬼瓦くんってもうヒロインじゃないやんけ!!」とのツッコミもご容赦頂けると助かります。

 私が一番よく分かっております。

 何をしているのでしょうか。


 ゴッド各位におかれましては、ご理解のほどよろしくお願いいたします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 大学卒業を控えた12月のある日、俺はリトルラビットへ遊びに出掛けた。

 花梨が宇凪市に帰省しており、毬萌は既に実家に帰っている。


 久しぶりに生徒会メンバーで集合しようとなる流れに異を唱える者はいない。


 相変わらず移動が自転車なのは切ない気もするが、大学生の身分でさしたる必要もないのにマイカー持つ身分でもなければ致し方なし。

 就職して1年経った頃には、中古の車でも買っているだろう。


 父さんは「車は卒業祝いに買ってあげるよ! 任せろ!!」と言っているが、さすがにそこまでお世話になる訳にはいかない。

 ちなみに父さんはメンマ売る会社で宇凪市支所統括本部長とか言う、なんか強そうな役職に就いており、来年の春からは束ねる支所が2つ増えるらしい。


 髪の毛は見るも無残な惨状だが、反比例するように高みへと駆けあがって行く我が父。



 島耕作かな?



 リトルラビットに到着。

 鬼瓦くんのパジェロを確認。よし、在宅だな。


「こんにちはー。どうもー」


「みゃーっ! コウちゃん、最下位ーっ! やーい! お菓子はコウちゃんの奢りねっ!」

「あはは! 毬萌先輩だってついさっき来たのに! ひどいですねー!」


 毬萌と花梨の姿が既にそこにはあった。

 なんてこった。一番乗りのつもりで集合時刻よりも30分早く家を出たのに。


「それにしても、公平先輩が遅刻なんてどうしちゃったんですかぁ?」

「えっ!? 遅刻はしてねぇだろ!? まだ3時までかなりあるじゃん!」

「へっ? 約束の時間って2時ですよね?」


「そんなバカな! 毬萌が3時だって昨日ラインで!」



「にははーっ。コウちゃんにだけ、1時間遅い時間を伝えておいたのだっ!」

「なんでだよ!! お前、大学卒業を控えて、イタズラに悪意が増したな!?」



 毬萌のヤツは「だってさーっ、コウちゃんからマウント取らないとうるさいんだもーんっ!」とか言って、反省のかけらも見えない。


「そんなことだからお前はニートになるんだよ!」

「ニートじゃないもんっ! 可能性を探す旅人だもんっ!!」


「働きたくねぇヤツの常套句じょうとうくじゃねぇか! おばさんが毎日うちに相談しに来るんだぞ!! 中学時代を思い出すわ!!」


 川羽木大学を首席で卒業するのに、進路を決めずとりあえず地元に帰ってきた毬萌。

 その気になれば何にでもなれると息巻いているが、実際その気になればその通りなのが実に腹立たしい。


「あははー! 公平先輩は学校の先生になるんですよね?」

「おう。採用試験は落ちたけどな! 拾う神があって助かったぜ!」

「すごいですよねぇー。まさか、花祭学園の先生になるだなんて!」


 俺は来春から花祭学園で教員として採用される予定である。

 普通に教員採用試験落ちた時は焦ったが、必死に求人募集を探したところ、ひっそりと花祭学園の名前があり、面接に行ったらチョビ髭がいて、「あららー! 桐島くんじゃないの! なに、先生やるの? うそー! じゃあ、採用!」と、冗談みたいな流れで就職先が決まった。


 嬉しいけども、もちろん、嬉しいけども。

 なんだか学園長に一生ものの弱みを握られた気がしてならない。



 そして教頭と同じ立ち位置になってしまった感が否めない。



「花梨はデザイナーの勉強、順調なんだってな。俺のスーツも1着頼むぜ!」

「えー? 言っておきますけど、あたしのブランドは安くないですからねー?」

「おいおい! そこは先輩割引で頼むって!!」


 毬萌が「にははー」と笑い、俺たちもつられて笑顔に。

 あの頃から何も変わらない空気がそこにはあった。


「……皆さん。どうして僕に話を振ってくれないんですか」


 ただ1人を除いては。


 仕方がないので、俺が触れて差し上げよう。

 腫れ物に触るのは得意なので、任せてもらいたい。



「鬼瓦くんはアレだな! 勅使河原さんに別れようって言われたんだっけ?」

「ゔぁあぁあぁぁぁぁっ!! やめでぐだざい!! ぎりじばぜんばい!!!」



 どうやら触れるところを間違えた模様。

 おかしいな。頑丈さには定評のある鬼瓦くんが、まるで俺の体のようにヒョロリとしたメンタルになっている。


「コウちゃん、武三くんいじめたら可哀想だよぉー!」

「そうですよ! 鬼瓦くんだって、一応見所はあるんですよ! 見えにくいですけど!!」


 生徒会シスターズの意見を聞いて、俺は「うむ」と頷いた。

 言い方を変えたら良いんだな。



「勅使河原さんに、いい加減結婚してくれねぇと縁を切るって言われたんだよな!!」

「ゔぁあぁあぁあぁぁっ!! やめでぐだざい!! せっかく今日は気分転換になると思ったのに、どうしてそんな攻撃的なんですか、ぎりじばぜんばい!!」



 別に、俺だって鬼瓦くんをいじめようと思っている訳ではない。

 むしろ、彼の事は一番に考えている。

 高校時代からの相棒であり、良き後輩でもある彼の事は、当然よく知っている。


「すまん、すまん。気持ちは分かるよ、俺ぁ。お父さんに店を任せるって言って貰えるまでは、中途半端な状態だから、勅使河原さんの事を迎えられねぇって気持ち」

「き、桐島先輩! ゔぁあぁあぁぁぁっ!!」


「ははは! よせやい! 天井がすぐそこまで迫って来ててかなりのスリル!!」


 鬼瓦くんに高い高いされていたら、思わぬ方向から矢が飛んでくる。


「みゃーっ……。わたしは、真奈ちゃんの気持ち分かるけどなぁー。別に、中途半端でもいいじゃん。お嫁さんになりたいって言うんだから、籍だけでも入れたげなよ」

「あたしも毬萌先輩に一票です! 自分が好きな人の頑張りの支えになれたら、女の子って嬉しいものなんですよぉー? お二人には分からないみたいですけどぉー」


「いや、男にゃケジメを付けるタイミングってもんがだな」


「結婚するのに男がどうしたとか、関係ないと思うなっ!」


 毬萌は、あと3カ月と少しで大学生からニートにジョブチェンジするくせに、正論を言う。

 ニートなんだから、そこはもっと夢いっぱいなヤツにして欲しかった。


「そもそも、そのケジメをずっと待ってたんですよね、真奈ちゃん。えっと、高1の文化祭からですから、5年ですよ!? 待たせすぎだと思いますけどぉ」


「……確かにそうかもしれん」


 毬萌1人を相手にするのでも骨が折れるのに、そこに花梨が加勢するとなると、俺にも庇い切れないものがある。


「いえ、分かってはいるんです。真奈さんを待たせている事は。だけど、僕も彼女の一生を背負うことになるので、一人前にならないと軽々しく結婚なんてできないと思って。……桐島先輩。聞いていますか?」


「おう。このチーズケーキ、絶品!」



「聞いてないじゃないですか! ひどいですよ! ゔぁあぁあぁぁっ!!」

「いや、だってその件、大学生活の間だけでも100回は聞いてるからさ」



 悩める生徒を助けて救うのが俺たち生徒会の役目だった。

 ならば、その志を共にした仲間が困っているのに、助けない手がないのはおかしい。


「おう。2人とも」


「ちょいと鬼瓦くんを助けてやらねぇか? ですよねー。知ってます!」

「にははーっ。仕方ないから、久々に生徒会としてお助けしちゃおうか!」


 やはり、この2人は見た目こそ大人っぽくなったけども、心の中はあの頃と何一つ変わっていないと再確認。

 こうして、生徒会は緊急復活を遂げる。


 迷える鬼をあるべき道へと導いてあげようじゃないか。


「じゃあ、まずは真奈ちゃんの説得に行くのだっ!」

「お前、ニートに内定してるのに、よくもまあ先頭に立てるな?」


 とにもかくにも、鬼瓦くん結婚ミッション、スタートである。

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