第525話 花梨と成人式with公平(2年連続2回目)

 充実した時間ほど過ぎる速さは増していくもので。

 いや、そんな訳はなく、時間は常に一定のスピードを保っているのは無論承知の上だけども。


 それでもどうして時間と言うのはこんなに早足で駆けて行くのだろう。


 年が明けて、俺にとって大学生活3度目の冬。

 ここで重要なのは、俺がどうしたとか言う話ではない。

 学部の総合成績でやっとトップになれたとか、難関ゼミに入って経営学についてバリバリ学んでいるとか、その辺りはどうでも良い。


 ちょっと褒めてくれたら、それで俺は満足だから。


 そんな事よりも、俺が21になったという事は。

 俺の彼女は一つ年下であるからして、つまりはそういう事になる。


 花梨さん、今年が成人式。

 誕生日は2月なので、まだ19歳ではあるが、晴れの日を迎える。


「花梨ちゃん! 最高! 振袖超似合ってる!! こっち向いてー!! ひゃー!!!」

「パパ、うるさい! あ、でもでも、先輩とのツーショットは撮って!」


「おう。せっかくの記念だもんな。すみません、お父さん。カメラマンさせちまって」

「くくくっ。娘と息子のためならば、カメラマンくらい、いくらでもこなしてみせるわ! 実はこの日のために、上手なカメラの使い方をプロに学んできておる!!」


 さすがはパパ上。

 娘の記念日には油断などない。


「ところで、花梨? なんで俺もスーツ着てんの?」

「そんなの決まってるじゃないですかぁー!」


 ああ、写真の構成上の問題かな?

 確かに、俺だけダウンジャケット着てたらなんだかアレだもんね。



「先輩も一緒に行くんですよ! 成人式!!」

「どういうことなの!? 俺ぁ去年行ったけど!?」



 すると花梨、目に見えてしょんぼりする。

 なに、俺が悪かったのかい?


「だってぇー。こういうお祝い事って、いつも公平先輩とは別じゃないですかぁ。入学式も、卒業式も。せめて成人式くらい一緒がいいですよぉー!!」

「いや、気持ちは分かる。そう思ってくれるのも嬉しい。けどなぁ」


「くっくっく。息子よ、成人式の実行委員には既に手を回しておる! これが貴様の招待状だ!! なに、オールスターのファン投票みたいなものではないか。2年連続通算2回目。それで万事問題はないのである!」



 問題しかないんですが。



 パパ上から渡された招待状は、確かに俺宛てのものだった。

 成人式留年するヤツなんて世の中にいるの!?


「さあさあ! 行きましょう! 先輩、先輩! 早く行きましょう!!」

「ええ……」


「ご免! お車の用意は整ってございます! 目立つのを嫌われるお嬢様に配慮致しまして、プリウスをご用意しております!!」

「くくくっ。田中ぁ! 褒めてつかわす! 2人を送り届けたのち、会場付近で待機せよ! くれぐれも路上駐車などせぬようにな!」

「はっ。心得てございます。それがしにお任せを」


 こうして、俺は2年目の成人式へと出発した。



「わー! 冴木さん、久しぶりー!!」

「みのりん! お久しぶりですー!! 先輩、みのりんですよ! 3年ぶりじゃないですか!?」

「お、おう。そうね。久しぶりだなぁ、みのりん」



「桐島先輩、海外留学でもされていたんですか?」

「駅前留学もしてねぇよ?」



 とりあえず、みのりんこと、松井さんは元気そうで何より。

 高校時代から綺麗な顔立ちをしていたけども、美人になってからに。


「あっちに花祭学園の卒業生が集まってるんだよ! 冴木さんも行こうよ!」

「ホントですかぁ!? 行きます、行きます!! ほらぁ、先輩も早くー!!」


 俺は、今から何人に「なにしとんねん」とツッコミを入れられるのだろうか。

 これは、10年先でも笑い話の種になる案件。

 しかし、今更帰る訳にもいかず。


 彼女のために尽くすって、大変なのね。



「あらぁ! 冴木さんじゃありませんこと! とっても綺麗な晴れ着ですわね!!」

「上坂元さん! わぁ! 久しぶりです!! あそこの大きい人も含めたら、同学年の生徒会役員が全員集合ですね!! 先輩、写真撮ってもらってもいいですか!?」


「おう。そりゃあ構わんぞ」


「鬼瓦くん! こっちに来てください!!」

「ああ、冴木さん。上坂元さんも。……桐島先輩?」


 何も言ってくれるな、鬼瓦くん。

 俺だってさっきから「あれ、前の代の副会長じゃね?」と言うひそひそ声に耐えているのだから。


「桐島さんじゃありませんこと!? まあ! もしかして、1年間植物状態で入院されてましたの!? お顔の色がすぐれませんわ!! おミニッツメイドをどうぞ!!」

「おう。ありがとう、上坂元さん。俺ぁ元気ハツラツだけどな」


 とりあえず、俺の後輩生徒会役員3人を並べてシャッターをパシャリ。

 うむ。なかなかいい写真が撮れた。


「……あ。桐島先輩」

「おう。小深田さん。久しぶりだなぁ。綺麗になっちまって!」


「ふふ、嬉しいです。先輩は、冴木さんの付き添いですか?」

「相変わらず察しが良いなぁ。どういう訳か、2年連続の成人式だよ。まだテニスやってる? おう、早川くんとはどうなった?」


「テニスは大学で続けています。山目やまめ大学に通っているんです。早川くんともまだお付き合いしていますよ。ただ、彼は二浪中なんですけど……」

「マジか。そりゃあ彼女として複雑だなぁ」


「彼女のために成人式に忍び込む彼氏よりは全然ですよ。ふふふっ」

「ヤメておくれ……。でも、元気そうな顔を見られて良かったよ!」


 この辺りで気付く、俺の意外な交友関係。

 結構1学年下の連中ともかかわりがあるんもんだなぁ。

 その辺プラプラしているだけなのに、話し相手に困らない。


「監督! なんでいるんですか!?」

「片岡さんか! 監督はよしてくれよ」


「何言ってるんですか! 監督をしてもらった年、私たち初めて3回戦まで残ったんですから! 私たちにとっては終身名誉監督ですよ!!」


 三年生の時に、ソフトボール部の練習メニューを考えたり、試合の作戦立案に関わったりしていたら、いつの間にか彼女たちは俺の事を監督と呼ぶようになっていた。

 懐かしいなぁ。


 聞けば、片岡さんは大学でソフトボールを続けており、2年生にしてエースピッチャーらしい。

 高校時代から光る素質があったもんなぁ。


 ひとしきり知った顔に挨拶をしたところで、花梨も友人たちとの話を終えたらしく、鬼瓦くんという名の目印の元で再会を果たした。


「もぉー。公平先輩、後輩に好かれ過ぎじゃないですかぁ?」

「いや、なんかみんなが話しかけてくれてな。ちょっと嬉しいな。はっはっは」


「まあ、あたしも自分の彼氏が慕われているのを見るのは、ちょっと誇らしかったりしますけど! えへへ」


「桐島先輩。僕が1枚写真を撮りましょう。カメラを貸していただけますか?」

「さすがあたしの忠実なる部下だっただけの事はありますね! 鬼瓦くん、とってもステキなアイデアです!!」

「すまんなぁ。というか、勅使河原さんは?」


「真奈さんはインフルエンザになってしまいまして……」

「マジでか! そりゃあ気の毒になぁ。晴れ着姿で鬼瓦くんと歩きたかったろうに」


 すると花梨が妙案を提示する。

 さすがは生徒会長を務めただけある、相手に寄り添った考えだった。


「あの、うちだったらいつでも晴れ着用意できますから、真奈ちゃんが元気になったら鬼瓦くんと2人で来てください! 記念の写真撮りましょう!」

「ゔぁあぁぁぁっ! 冴木さん!! なんて優しい……!!」


 これには鬼神も涙がポロリ。

 俺も自分の彼女ながら、粋な提案には胸を打たれる思いだった。


「そんじゃ、せっかくだから記念に1枚頼めるか?」

「ゔぁい!」


 カメラを構える鬼瓦くん。

 彼は目立つので「あ、撮影だ」と周りの人が察してくれるらしく、自然と良い感じの空白地帯が生まれる。



「公平先輩、もっとくっつきましょう! 一生に一度しかないチャンスですよ!!」

「俺ぁ生涯で2度目なんだが……。まあ、良いか! よし、笑おう!!」



 こうして、花梨の思い出のアルバムはまたひとつ厚みを増した。

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