花梨ifルート

第516話 もしも花梨を選んでいたら

 【ご注意ください】

 ifルートは、あくまでも「あり得たかもしれない可能性」を元に語られるお話です。

 よって、本編終盤、および『毬萌との未来編』とは、似ているけども別の時空だとお考え頂けると幸いです。


 特に、ifエピソード同士は確実に矛盾が生じますので、そのような展開が好みではない方はご注意ください。

 ゴッド各位におかれましては、ご理解のほどよろしくお願いいたします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 花祭学園を卒業してそろそろ半年。

 俺は、自宅から通える距離にあり、そこそこの偏差値で、卒業後の進路も多くの選択肢が取れるであろう、宇凪市立大学に進学していた。


 毬萌は、隣の県にある西日本で上位に入る難関大、川羽木大学へと進学した。

 毬萌と幼馴染であり、それ以上の関係を望まなかった俺は、大学進学を機に、彼女と別の進路を選んだ。


 やっぱり、長年いつも隣にいた幼馴染がいなくなるのは寂しい。

 事実、4月の頃なんかは、喪失感によって五月病を早々と発症していた。


 だけど、そんな事ではいかんと、どうにか奮起した。

 奮起しないとならない理由が俺にはあったからである。



「もぉー! なんでよそ見してるんですかぁ! せーんぱい!」

「おう。すまん、すまん。ちょいと考え事を」



 こちら、冴木邸からお送りしております。

 季節は11月。そろそろ冬の気配が本格化してくる頃合い。


「それって、進学を控えた恋人の家庭教師より重要な事ですかー?」

「悪かったって! でも、花梨はぶっちゃけ、家庭教師なんて必要ないじゃん。事実、大学に入って怠けている俺よりも確実に勉強できてる」


 今更宣言するのも恥ずかしいけど、恥ずかしさを堪えて宣言しないと話が始まらないので言うが、やっぱり恥ずかしい。



 俺は、冴木花梨と恋人同士になっていた。



 きっかけは、生徒会長選挙での告白。

 彼女の告白を、その場では「その気持ちが嬉しい」なんて耳触りの良いセリフで返事したものの、やはり自分を好いてくれる女子を意識してしまうのが男の子の宿命。


 そして、卒業式。

 花梨に3度目の告白をされた。


 かの劉備玄徳は、諸葛亮を迎えるために3度足を運び、三顧の礼として今でも故事成語として残っているほどである。


 そんな前置きをしたら「てめぇ、3回目なら良いやとか、軽い気持ちで付き合ったのか、おおん?」と怒られそうだが、違う、聞いてくれ。


 俺も、三年生として過ごす1年間、生徒会長として頑張る花梨の姿を見守り続けていたら、知らない間に頭も心も、彼女の事ばかり考えるようになっていた。

 そして、そのような状態の事を、世間一般で何と言うか。



 恋に他ならなかった。



 こうして、俺と花梨はお付き合いを始める事になったのである。

 それなら良い? ゴッドも懐が深くなったね。結構、結構。



「あいてっ!」


 花梨に頬っぺたを指でつつかれる。

 見れば可愛いフグがいる。ああ、物思いにふけりっぱなしでしたね。


「もぉー! 生徒より先生の方が集中力足りないなんて、ダメですよ!」

「ああ、すまん! 実は、昨日レポート書いてて、あんまり寝てなくて」


「そうだったんですか!? えっ、じゃあ今日はお休みにして下されば良かったのに!」


 花梨は未だに少し勘違いをしている。

 彼女は「自分の方が先輩の事好きなんです!」と思っているようだが、それは誤解だ。


「俺だって、花梨に会いたかったからな。少々寝不足なくらいで、せっかく顔を見られる機会を棒に振ってたまるかい」

「べ、別に、顔を見るだけなら、テレビ電話とかでも良いじゃないですか!」


「いいや、全然違うね! 花梨の傍にいないと、体温や髪の匂いを感じられない! 何より、俺ぁ360度から花梨を見てぇんだ!!」


 俺だって、花梨の事が大好きなのである。

 この世界の誰よりも、愛おしく思っている。


「へぁっ!? も、もぉー! なんでそんな事、真顔で言うんですかぁ!」

「恋人に愛を語る時は真剣な表情でってのが、桐島家の家訓なんだ」


「もぉー! もぉー!! なんか先輩、大学生になって、女の子の扱い上手くなってませんか!? 大学で女の子とばかり遊んでるんでしょ!?」

「いや? 花祭からウナ大に進学した連中もいるけど、仲いいのは茂木くらいだからな。茂木はモテるけど、俺は特に」


 完全に集中力が切れた、と言うか、家庭教師である俺が切ってしまったので、休憩にしようということになった。



「すみません、磯部さん。俺が来る度にメロンジュース用意してもらっちまって」

「何をおっしゃいます。我々一同、桐島様が来られるのを心待ちにしております。お嬢様がこの上なく喜ぶ姿を見られるのが我々の本懐です」


 冴木家のメロンジュースは最高。

 しかも、磯部シェフの気まぐれアレンジで、メロンソーダになったり、メロンラテになったりと、バリエーションも豊富。


「べ、別にあたし、喜んでなんかないですよ! もうお付き合いして、半年以上経つのに、そ、そんな、会うだけでウキウキとかしないです!!」


「ほほう、本当だな? 彼氏の俺に誓って、嘘はないな?」

「な、なな、ないですよぉ!? ないですとも!!」


「すみませーん! 田中さーん! 田中さん、いますかー!!」


 田中さんは、花梨パパの秘書。

 つまり、基本的に花梨パパと一緒にいるのが仕事。


 今日が平日であり、時間が昼間である事を考えると、「いますかー」とか言っても、いるはずないのである。


「はっ! 田中、ここに!」


 だけど呼んだら何故かいるのが田中さん。

 それが忍びの者のルールであり、田中さんの凄いところ。


「昨日の花梨の様子って、どうでした?」

「はっ。お嬢様は、1時間ほど翌日のお召し物について悩み、1時間ほど念入りに入浴され、1時間ほど鏡の前で笑顔の練習をしておられました」


 花梨さん、見る見るうちに頬が赤くなり、涙目になり、プルプルし始める。


「わっ! わぁぁぁぁ!! ヤメてください、田中さん! なんでそんな事言うんですかぁ! せ、先輩も、ニヤニヤするのヤメてもらえますか!?」


「田中さん、お忙しいところすみませんでした」

「はっ! お役に立てて、それがしも嬉しゅうございます! では、ご免!!」


「花梨。今日の服、すっげぇ可愛いぞ! 家の中なのにミニスカートと言うご褒美がもう眩しい! ニットで胸が強調されてんのもボーナスだな!!」

「ちが、違います! 全然、これが普通の恰好ですぅ!!」


「あれ? もしかして、シャンプー変えた? なんかいい匂いがするな!」

「や、ヤメてください! あたしの髪の匂いとか、覚えてるんですか!?」



「花梨! 今日も笑顔が最高に可愛いぞ! 反則だな! もう、ずっと見てたい!!」

「あ、あぅ……! 先輩のバカぁ! もう、一緒の大学に行ってあげませんよぉ!!」



 高校時代は花梨に散々からかわれたものである。

 ならば、大学生になって毎日会えないこの期間こそ、盛大にからかい返す大チャンス。


 多分、大学で毎日顔を合わすようになったら、また力関係は元に戻るだろうから。


「おっし。勉強を再開するか!」

「……この空気でそんな事言える先輩って、やっぱりすごいです」


 ちなみに、花梨の学力を考えたら、ウナ大は余裕だが、もっと上の、例えば東京の有名大学だって軒並み射程圏内なのは当然の事と付言しておく。

 それなのに、「せっかく先輩と恋人同士になれたのに、一緒の大学じゃないなんて考えられません!!」と、頑なにウナ大進学を譲らない花梨。


 パパ上と3人で何度も話し合ったが、協議を重ねる度に何故か俺とパパ上の勢力がどんどん弱くなっていき、気付けば根負けしていた。



 楽勝とは言え、ウナ大もそこそこの大学として歴史を刻んでいる訳であって、油断は大敵。


 花梨との二人三脚は続き、季節は巡り、翌年の4月。

 物語は始まる。



 これは、大切な後輩が恋人になり、その先へと向かう話の、イントロダクション。

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