第494話 投票の結果は!

「あ、あんたたち……! ずずっ、そろそろ時間だから、えぐっ、体育館に、来なさいよぉ!」


 生徒会室へやって来た氷野さん。

 なんだか目が赤く、鼻をすすっている。


「おう。氷野さん、花粉症か?」



「この、バカ平! あんたたちが大声で解散式やってるからぁ! それが聞こえてぇ!! ……ぐぬぬぬぬっ! もう、良いわよ! 早く来なさいよぉ!! 毬萌と冴木花梨は目薬さして! ほらぁ、化粧水もあるから! これで目の下冷やしなさい!!」



 なんだかんだ、氷野さんも俺たちの仲間みたいなものだから、ひっそりと一緒に泣いてくれていたらしい。

 せっかくだから、輪に加わってくれたら良かったのに。


「なによぉ! 言っとくけど、あんたと鬼瓦武三のケアまではしないんだからね!? 男子なんか、適当にゴシゴシ拭いとけば!?」


「桐島先輩、暖めたタオルです。こちらをまぶたの上に乗せておくと、血流が良くなって目の腫れはかなり改善されるかと」

「おう。鬼瓦くん、さすがだな」

「お役に立てて何よりです」



「……なんか、解散式の余韻が冷めるんだけど。ヤメてくれない? いつもの調子でそうやって上手く処理するの。私の感動返しなさいよ」



 今日も氷野さんは無茶を言う。

 なるほど、どうやら世界はいつもと同じままの様子。

 生徒会が解散したって、この世が終わる訳じゃない。


 泣くだけ泣いたら、未来へと一歩踏み出そうじゃないか。



「おお、こりゃすげぇな。デカい! どうなってんの!?」


 体育館では、巨大な巻物状の物体が3つ、等間隔でステージ上に吊るされていた。

 投票結果が書いてあるのは俺だって分かる。

 それにしたって、こんなものをよく1日で作ったなぁ。


「ああ、あれ? 選挙管理委員と書道部で前から用意してたのよ。名前だけ先に書いてね。それで、開票結果だけ昨日の放課後に書き足したの」

「はへぇ。これもアレでしょ? 学園長がポケットマネーでなんでしょ?」


 すごいなぁ、チョビ髭。

 お金の使い時が上手いと言うか、大衆を惹き付ける能力だけはガチだもんなぁ。


「いやー! 久しぶりの投票だったからねー! おじさん、貼り切っちゃったよ!」

「ボクは止めたんですけどねぇ。生徒会長の選挙なんだから、もっと厳粛にするべきだと思うんですよねぇ。まあ、学園長の意向には従いますけどねぇ」


 噂をすれば、出たな、学園の偉いおっさんコンビ。

 くっせぇカビゴンと、うさんくせぇチョビ髭。

 またの名を教頭と学園長。


「神野くん、桐島くん、生徒会の会長と副会長、お疲れ様! いやぁ、今年度はおじさんも大満足の生徒社会の運営だったよー! もうね、2億点くらいあげちゃう!」

「また子供みたいな事を言いますねぇ。まあ、あれだけどねぇ、桐島くん。君は優れた副会長ではなかったけどねぇ。……稀有けうな副会長ではあったかもだねぇ」


 おっさんたちからなんかねぎらわれる。

 こっちも色々と言いたい事はあるが、褒めてくれているのにわざわざ噛みつく事もない。


「はいっ! 頑張りましたっ! コウちゃ……桐島くんのおかげですっ!」


 毬萌も元気が復活。

 アホ毛ぴょこぴょこ。にんまり笑顔。


「うんうん! 結果は僕たちも知らないんだけどさー。今年度の働きを見ててくれた生徒たちだから、きっと君たちにとってもいい結果になるんじゃないかなー?」

「また、学園長は、すぐに公平性を欠きますねぇ。特定の生徒に肩入れするなんて、そろそろ引退したら良いんじゃないですかねぇ?」


「えー? そしたら誰が学園長するんですかー! おじさん、後任決めてないんだよなー。困るー!!」

「そ、それでしたらねぇ、ぼ、ボクはやぶさかでもな」



「よし、浅村先生にしちゃおう! 僕と一緒でモテるから! ナイスジャッジ!!」

「憎しみで人は殺せないんだよねぇ……。無念だねぇ……」



 言いたい事を言うだけ言って、おっさんコンビは教職員の列の先頭へ。

 俺たちは生徒会チームで一緒に固まって、ステージを見守る。


 と言うか、体育館内を見ると、割とみんなぐちゃぐちゃになっている。

 整列はどうしたのだろうか。

 氷野軍曹の鞭が光るぞ?


「ああ、もう! 口出したいけど、出せない!! ぐぬぬぬぬ! なんて歯がゆいのよ! 違う、違う! もっと圧力かけていかないと言う事聞かないんだってば!!」


「あれ? もしかして、氷野さんも任期満了しちゃった感じ?」

「そうよ! 委員会の長であるあんたたちが解散してるんだから、風紀委員長だって任期満了よ! 松井が司会するから、一年生だけの初仕事なのに!」


 なるほど。

 確かに上級生に「並べや、おらー!」とは言い辛いものなぁ。


 そこに颯爽と現れる影が。

 ちょっと待ってくれ。この局面で新キャラとか、もう尺が色々とアレするよ!?


「おい、みんな! 整列しようぜ! 風紀委員の子たちが困ってるじゃないか」

「ヒュー! 日曜日のミサと全校集会は行儀よくするもんだぜぇー? ヒュー!!」



 茂木と高橋! 特に茂木! お前、久しぶりに出てきて良いところを!!



 カバディで培った俊敏な動きで、海の家で氷漬けにされて売られているジュースみたいな無秩序を、風紀委員と協力して瞬く間に整えていく。

 何と言うか、今さらながら、あいつら。


 結構いいヤツらなんだよな。


 そして、いつものようにピシッとした列を形成する生徒たち。

 俺たちもこれはいかんと、委員会関係者の列を作る。

 黒木くんと上坂元さんの両候補も「こっちこっち」と誘導済み。


 そして、松井さんと言う名のみのりんが出て来た。



「えー。皆様、お待たせいたしました! 来年度の花祭学園生徒会長選挙、その結果が出ましたので、これより発表いたします!」


 男子委員たちが、慌ただしくステージを行ったり来たり。

 ああ、プロジェクター下ろすボタンなら反対だよ! って叫びたい!!


「ええと、大丈夫でしょうか? はい、それでは、集計結果です! 一斉に発表いたします! ……どうぞ!!」


 ついにその時がやって来た。

 降りて来る巻物。そこから伸びた紐を、男子役員がせーので引く。


 結果発表は俺が代表して、ここに記しておこうと思う。

 ゴッドも詳細な情報が知りたいでしょう?


 有効投票数 388票


 3位 黒木ゴンスケ 2票


 2位 上坂元桜子 65票


 1位 冴木花梨 321票



「よっしゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! やったぞ、花梨!!」


 いきなり大声をあげて申し訳ないが、今日くらいは許してくれ。

 だって、こんなに嬉しい事ってないじゃないか。


「みゃっ! みゃっ!! 花梨ちゃん、花梨ちゃん! 良かったねー! よがっだぁー!!」

「ゔぁぁあぁぁぁぁっ! 冴木さん、おめでとうございばず!!」


「あは、あはは! ありがとうございます! 皆さんのおかげですよ! 毬萌先輩、鬼瓦くん。支えてくれてありがとうございました!」


 ああ、良かった。

 何だったら、今この瞬間心臓が止まっても良いくらいの達成感。

 頑張った分、みんなはしっかり見ていてくれた。


 俺の最高の後輩。花梨の頑張りを。



「公平先輩! 公平せーんぱい!!」

「お、おう? どうした? のんびりしてねぇで、スピーチの準備はできてるか!?」



「あはは、先輩はやっぱり先輩ですね! あの、先に言っておきます!」

「なんだ? 改まるのはさっき生徒会室でやったじゃねぇか」



「いえ! お礼を言うタイミングというものがあるんです!」

「あ、そうなの? よく分かんねぇけど、じゃあお礼言われちゃおうかな?」



「えへへ、これまで、あたしの道を照らしてくれるお星さまは、いつも先輩でした! とっても助けられちゃいました! ……ありがとうございます! せーんぱい!!」



 その笑顔は、出会った時からまったく色あせていない。

 それどころか、どんどん輝きを増していった。


 俺が花梨の星だって言うなら、花梨も俺にとって星だったんだよ。

 あるべき場所を、あるべき先輩としての俺を見失わねぇようにするための、北極星。



「それでは、新生徒会長に選出されました、冴木花梨さんの演説です!」


 みのりんが花梨を促す。

 そして花梨が歩き始める。


「冴木さん! お見事でしたわ! あたくし、完敗いたしました! これからは、全力であなたの応援をしていきますわね!」

「上坂元さん! ありがとうございます! あなたがいたから、あたし、全力で戦えました!」


 健闘を称え合うライバル。

 良いね、こういうのってさ。感動的だよ。


「へへっ、すいやせん、自分も握手を」


「鬼瓦くん」

「ゔぁい!」


「あ、あれ!? 宙に浮いてる!? あ、ああああああ!!」


 黒木くん。君には出番などない。

 鬼瓦くん、教頭の横にでも捨てて来て。



「じゃあ、皆さん! あたし、行ってきますね!」

「おう! 頑張って来いよ! 生徒会長!」



 そして花梨が、ステージに上がった。

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