第493話 生徒会、解散!

 本日、生徒会長選挙の投票結果が発表される。

 結果が出たら、すぐに就任挨拶が待っている。


 そのため各候補はスピーチの原稿を用意しているのだが、その原稿を読めるのはたった一人と言う、なんとも残酷なシステム。


 体育館にてこのあと11時、選挙管理委員会が開票に不正がなかった旨を告げたのち、そのまま発表、就任挨拶、更には副会長指名へと移行する。

 割と慌ただしい流れだが、これが通例なのかは誰にも判断ができない。


 まったく、選挙ってのは大変だ。

 この半月ちょっとを通して、俺が学んだ生徒会での最後の知識。


 現時刻は10時過ぎ。

 30分前には体育館に入ってくれと氷野さんが言っていたので、あと20分と少ししかない。


 なにがないのか。

 時間的余裕。もちろん、その通り。


 だが、もう一つ、タイムリミットが迫っているものがある。



 ——当代生徒会の解散まで、あと1時間を切ったのだ。



 花梨も当選したあかつきには、今度こそマジメに原稿を読むらしく、毬萌と最終確認。

 俺と鬼瓦くんはほうじ茶をすすっている。

 そして、花梨が「はい! 大丈夫です!」と言って、2人もソファへやってきた。


「お二人にもお茶を淹れます。毬萌先輩はミロですね」

「すまんなぁ、鬼瓦くん。最後の日まで雑用させちまって」

「いえ! 僕の仕事ですから!」


「鬼瓦くんには、明日からあたしの右腕として働いてもらわないといけませんから、もう1年こき使われる運命ですよ! あはは!」

「おっ。花梨さん、もう受かった気でいるな? そういうの、死亡フラグって言うんだぜ?」

「みゃーっ! コウちゃん! 冗談でもそんな事言うのはダメだよぉ!」


 これは確かに、俺の失言。

 「ごめんなさい」と頭を下げる。

 それを見て3人が笑う。


 まだ時間があるな。

 飲み物も行き渡った。

 じゃあ、もう少しだけ話をしよう。



「色々やって来たなぁ、俺たちも」

「あーっ! コウちゃんが遠い目してるーっ! なんか語るよ! みんな気を付けてっ!」


「あはは! 考えてみれば、いつも大事な場面は公平先輩が語ってましたね!」

「ゔぁい! 僕の脳内フォルダは、桐島先輩の名言でいっぱいです!」


 そんなものはお捨てなさいよ。

 もっと良いものを入れた方が絶対に建設的だと思う。


「合宿、楽しかったなぁ。またみんなで行きたいな」

「はい! 公平先輩がお風呂覗いたりして大変でした!」

「人聞きが悪い! ありゃあ、混浴にお前らが入って来たんだろ!?」

「にははーっ、懐かしいですなぁー」


「僕は夏休みが思い出に残っています。あんなにたくさんの思い出のある夏休みは、多分後にも先にもありません」

「一緒に海に行ったよなぁ」

「あたし公平先輩に泳ぎ方を教えてもらいました!」

「コウちゃんが活躍した、数少ない名場面だねっ!」


 もっと色々活躍しただろうと思ったものの、運動系で活躍した記憶がない。

 どこかで頭をぶつけたのかな?

 いや、記憶喪失になってないと、勘定が合わないかなって。

 合ってる? ああ、そう? 本当に? ああ、そう……。


「夏休み終わってからがまた、色々やってんだよな。写生大会もあったし、月見もしたし、おう、台風でえらい目に遭ったりもしたぞ」

「台風で学校に泊まったよねぇー! あれ、わたしは楽しかったよーっ!」

「みんなでご飯探して校舎の中を歩き回りましたよね!」

「ゔぁあぁあぁっ! 僕のせいで、桐島先輩が! ずびばぜん!!」


「なんの、なんの。思えば、あの頃から教頭をあしらう術を身につけて来たな」

「コウちゃん、すぐに教頭先生とケンカするんだもーん!」

「違うわ! ありゃあ、教頭が理屈に合わねぇ事を言うから!」

「公平先輩は、いつもあたしたちのために戦ってくれてたんですよね! あたしはちゃーんと知ってますよ?」


 教頭との長い戦いの歴史は、当代生徒会の歴史。

 お願いだから、次期生徒会はあのくっせぇカビゴンとは上手いこと折り合いをつけて付き合って行ってもらいたい。


 反省文にポエム要求してくるんだから。


「体育祭では、桐島先輩が大活躍でした! MVPまで獲得されて、僕ぁ、僕ぁ、より先輩を尊敬するようになりました!! ゔぁい!!」

「お、おう。あれは活躍なのか? なんか、引っ張り回されてたら終わってた気がするんだが」


「体育祭の先輩は、とっても、とーってもステキでしたよ! あたし、今でも忘れません! 先輩の背中、おっきかったです!」

「わたしも、天海先輩と仲良しになるキッカケを作ってくれたコウちゃんの働きは高く評価しているのだっ!」


 「偉そうだな」と毬萌を小突くと「みゃっ」と声が漏れる。

 君らの助けになれてたんなら、俺ぁどんな形でもそれが嬉しいよ。

 口には出さないけれども。


「ハロウィンパーティー楽しかったねっ! 次は、わたしたちが主催した方が良いのかな? ねね、コウちゃん!」

「そうだなぁ。天海先輩と土井先輩が作ってくれた新しい伝統だから、引き継ぎたいよな。……留学生の代表がセッスクくんってのがすげぇ嫌だけど」


「順番的に、次は文化祭ですよね! 何て言うんですかね、あたし、一体感って言うのを肌で感じた、生まれて初めての体験でした!」

「ねーっ! みんなで準備、楽しかったよねー!」


「鬼瓦くん。俺ら、良くやったよな? マジで」

「はい。根気強く粘っていれば道は開けると、桐島先輩が教えてくれました」


「何の話ー?」

「内緒話ですかー?」



「お前らがやっとメシマズ克服したって言う感動的な話だよ!!」



「みゃっー……。ごめんなさぁい……」

「反省してます……」


 俺は「分かってくれりゃ良いんだ。おう」と、頷いた。

 別に怒ってる訳ではないからな。


「そんで、皆で年越して。年明けてからはあっという間だったな。餅ついたのが昨日の事みてぇだ」

「だよねっ! そっかぁ、わたしたち、今日で解散なんだねぇー」


 3人が黙り込む。

 おいおい、待ってくれ。

 別に、何かやらかして解散させられるんじゃないんだぜ?


 任期を全うしたんだから、どこに暗くなる理由があるんだ。

 笑顔で乾杯でもして、景気よく締めくくろうじゃないか。


 そんな俺の考えを知ってか知らずか、雫がぽつり、またぽつり。

 最後まで世話が焼けるな、まったく。



「おい、なに泣いてんだよ! 毬萌! お前は会長なんだから、しっかりしてくれよ! 花梨! これから会長になるヤツが目ぇ腫らしてどうすんだ! 鬼瓦くん! せめていてくれよ! いつもみてぇに!!」


 すると、毬萌が俺を指さして「にははっ」と笑う。

 涙を流しながら。それでもいたずらっぽく笑う。



「だってぇ、コウちゃんが一番泣いてるじゃんかー! 鼻水まで出てるー!」

「ばっか! お前、俺ぁ泣いてねぇし! 泣いてねぇよ!!」



 時計を見ると、もうそろそろ生徒会室を出なければならない時間だった。


 なんだよ、待ってくれよ。

 そんなに焦る事ないだろう?


 まだ、話し足りねぇんだよ。

 もう1時間、いや、30分、せめて15分だけでも良いから。


 ヤメてくれよ、俺らの生徒会であり続けられる時間を奪わねぇでくれ。



「……さ、寂しいな! ずっと、もっとずっと、俺ら4人で生徒会、してたかったな!! なんで時間ってヤツぁ、こんなに早く過ぎちまうんだろうな! なぁ!!」



「コウぢゃーん! わたし、ヤダぁー! まだみんなで生徒会がいいよぉー!!」

「あたしも! 会長になんかなりたくないですよ……!! ここの書記が良いんです!!」

「ゔあぁあぁぁぁっ! 僕もでず!! 僕の大切な場所が、なくなってじばいばず!!」


 ちくしょう。

 こいつらときたら、本当に俺が締めねぇと、てんでダメなんだから。

 困っちまうよ。


「楽しかったな! けど、いや、だからこそ、笑顔で終わらねぇといけねぇ! 俺らの生徒会は歴代最強なんだぜ? だったら、締めくくりは笑顔じゃねぇと!」


 俺の全力。実に不細工な笑顔で、3人の肩を叩く。


「みゃっ、ぐすっ、にははっ、コウちゃん、変な顔なのだっ! にははっ!」

「も、うぅ、もぉー! こんな時まで、笑わせないでくださいよー! あは、あはは!」

「桐島ぜんばぁぁい! ゔぁぁあぁあぁっ!!」



「おっしゃ! これにて、現生徒会は解散する! みんな、お疲れさん!!」



 あまりにも在り来たりなセリフで、俺は半ば強引に、この愛おしくも楽しかった1年間の幕を下ろした。

 気付けば、最後は全員で涙を流しながら笑っていた。


 こんなにステキな1年が終わるって言うのに、泣いているなんて勿体ない。

 俺たちの考えは、最後の最後までしっかりと一致している。

 言葉は飾り。その笑顔こそが答え。



 窓の外では、咲き始めた桜の花が、俺たちを静かに見守ってくれていた。

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