第488話 生徒会が最後のお願いに参りました!

「そうなんですか! すみません、知らなかったです! 剣道部、男女に分かれる要件をクリアされたんですね! ちょっと見せてもらっても良いですか? ふむふむ、はい、大丈夫だと思います! あたしが会長になったらもちろん申請を受理しますし、あたしが会長じゃなくてもこの書類ならバッチリです! 頑張って下さいね!」


 花梨さん、今日も盤石な演説活動。

 上坂元さんたちは校門にこだわらず、フットワーク軽く部活動中の生徒や、部室まで訪ねて演説していると聞く。


 相手の模倣は何も悪い事ではない。

 良いところは真似し、悪いところは正す。

 俺たち当代生徒会もそうやって成長してきた。


 そんな訳で、本日は部室棟を「冴木花梨、日本一!」と書かれたのぼりを背負って回っている。

 のぼりの制作者はパパ瓦さん。題字はママ瓦さん。


 先日、リトルラビットで激励会をやった時に受け取っていたものが、今日になってようやく選挙管理委員会の許可が下りたのだ。



 よく許可が下りたな!!



 俺は鬼瓦くん一家には申し訳ないけど、これは無理に使わなくても良いって進言したんだぜ?

 でも、花梨が「せっかく作って貰ったんですから!」って頑なに言うものだから。

 根負けして、今は鬼瓦くんがそれを掲げて殿しんがりを務めている。


 合戦場かな?


「みゃーっ! バレー部のみんなーっ! お疲れ様ーっ!!」

「あ! 新旧会長が揃ってる! みんな、こっちおいでよ! すごいって!」

「神野会長、写真撮っても良いですか?」


「もちろんだよーっ! 花梨ちゃんとセットで写るよーっ!!」

「あたしと毬萌先輩とじゃ、華やかさが違いますけど。あはは」

「そんなことないっしょ! 冴木さんも相当イケてるって! はい、笑ってー!」


 選挙もいよいよ大詰め。

 残すところ、今日と明日で活動は終わる。


 つまり、明後日は投票日。


 そうなると、こちらも総力戦である。

 当代生徒会長を担ぎ出すなんてズルいと言われるかもしれないが、上坂元さんだって昨日から放課後になると背中が空いたスパンコールのドレス着て校内を練り歩いているからね?


 むしろ俺たちの方が控えめまであると思う。


「桐島先輩。こちらに噛み終えたガムが捨ててあります」

「マジか。女子部の部室棟でなんつー不届きな! なあ、バレー部のみんな、冷却スプレーってないかな?」


「えっ? ありますけどー?」

「じゃあ、貸してくれ! ったく、誰だ。まだ柔らかいじゃねぇか」

「桐島先輩。こちらに鉄製のフライ返しがあります。お使いください」


「いや、まだ使えるヤツならもったいないじゃん! ダメだよ!」

「いいえ、先ほどゴミ捨て場にて拾っておきました。このような事もあろうかと」



「おっし! それなら平気だな! さすが鬼瓦くん! さす鬼! そんじゃ、俺ぁスプレーで冷やすぜ!」

「ゔぁい! 僕、こすります!」



「あんさー。今更だけども、今年の生徒会って変わってたよね」

 バレー部の女子が呟くと、数人が「確かに」と頷いた。


「神野先輩はガチで凄かったけど、実は副会長さ、ヤバくない? あの人、さっき水飲み場の掃除してたんだけど。普通しないよね? ヤバいって」

「副会長、そういうとこあるわ! この前、体育館の天井に挟まったボール取ってくれたもん! 全然届いてなくて、鬼瓦くんが指示を受けてたけど」



「いいぞ! 鬼瓦くん! めっちゃ取れてる! 最高! もう一息! 頑張れ、頑張れ!!」

「ゔぁあぁあぁぁあぁぁっ!! コンクリートをえぐらないようにぃぃぃぃ!!!」



「副会長ってさ、地味で目立たないけど、むっちゃ仕事するよね」

「あー。それな。気付いたら何かしてる。お母さんみたい! ウケるー!」


 よし、にっくきガムの野郎を無事に殲滅せんめつせしめてやった。

 これで女子がうっかり体育館シューズを汚すこともないだろう。


「おう、冷却スプレー、ありがとな! この申請書にサインしてくれる?」

「へ? なんですか、これ?」

「いや、冷却スプレーの補充しねぇと。今俺たちが使っちまったから。今年の予算の予備費から、きっちり買って春休みまでにゃお届けするぜ!」


 バレー部の女子たちが全員で「ぷっ、出たこれ!」と吹き出した。

 なんだい? 俺のなにが滑稽だったのかな? 何が出たんだい?


 候補があり過ぎて、自分じゃ絞れねぇ!!


「ウチら、全員冴木さんに投票するから! この生徒会を継いでくれるとか、来年も絶対面白いじゃん! ねー、みんな!」

「うん!」「それはある!」「とりま、バスケ部の子にも話してくる!」


 何がどうなったのか知らんが、花梨の支持が広がっているようで結構。

 それで、何がどうなったの?


「にははーっ! コウちゃんの良さがやっと学園に広まり出したのだっ!」

「とってもいい人な誰かさんのおかげで、あたしに入れて貰える票が増えたんです! えへへ、今日もステキです、せーんぱい!」


「うん。なんか知らんが、ありがとう! 鬼瓦くん、これで合ってる?」

「ゔぁい! 桐島先輩は、ゔぁあぁぁぁぁっ! 理想の副会長でず!!」


 うふふふ。お空が近いや。

 鬼瓦くんに高い高いされるのも、あと少しだと思うとちょっぴり切ない。



「やれやれ。お疲れ、花梨! 毬萌も仕事あるのに演説付き合わせて悪かったな!」

 5時になったので、選挙活動は終了。


 今日は少しばかり仕事を後回しにさせたので、これから全員で残業である。

 ああ、こうやって雑事に追われるのも、あと数日なのか。

 そう思うと、やる気も湧いて来るってもんだ。


「鬼瓦くん。学園長の名義でアルフォートが段ボール2箱注文された領収書が紛れ込んでるんだが。俺の責任って事でいいから、これ、捨てといて」

「了解しました」


「みゃーっ! 部活の駆け込み申請が多いのだっ! これとこれは、オッケー! こっちは、んー。花梨ちゃん、どう思う?」

「そうですねー。ちょっとアウトですかねー」


「おう。何部のなにが壊れたんだ?」


「剣道部が、男子と女子兼用で部室を使っているんですけど、間仕切りの壁がドライバーのようなもので穴を空けられたそうです」

「女子部が正式に認可されたら、女の子たちはお引越しだから、これはアウトなのだっ! ぺったん」


 男子の倫理観が壊れてた。


 どうして男子ってのは、てめぇの煩悩でてめぇの価値を下げたがるのか。

 そんな覗きまがいの事をするくらいなら、「着替え見せて下さい」って頼む方がよっぼど男らしいよ。


「失礼するわよ! 生徒指導室が使えないから、ちょっとここ使わせて!」

 氷野さんが登場。

 後ろには、ロープで捕縛ほばくされた男子生徒と、付き添いの松井さんに風紀委員男子が2名。


「おう。どうした? 何やらかしたんだ」

「このバカ! 柔道部の女子に寝技かけてくれってしつこく迫ったのよ! お願いしたら何でもしてもらえるとか思ってんの!? 救えないわね!!」



 一応言っとくけど、さっきの俺のアレは、良くないたとえだからね?



「そんじゃ、取り調べはそっちの隅でやってくれ。うちの大事な女子をいやらしい目で見られちゃ敵わん」

「そうね。そうさせてもらうわ」


 そう言ってすぐに気付く、俺のデリカシー。

 成長を見せるデリカシーちゃんには、頭撫でて頬ずりしてあげたい。


「ダメだ、ダメ! よく考えたら、氷野さんやみのりんだっていやらしい目に晒される事ぁねぇんだ! よし、ここは俺が引き受けた」


「はあ? あーあー。分かったわよ。これは言い出したら聞かないパターンね。過保護な男って面倒くさいったらないわ。松井、こっちで毬萌たちを手伝いましょ」

「はい! ありがとうございます、桐島先輩!」


 氷野さんから解放されて、反抗的な態度を見せるのが下手人げしゅにん


「ちっ。反省してまーす」


 なるほど、人を見る目は確かなようである。

 俺なんて、片腕あれば足りると言う計算だろう?


 じゃあ、再計算だな。


「鬼瓦くん。頼む。副会長になったら、不届き者の取り締まりもせにゃあならんからな。予行演習といこう。肩はずすくらいならやって良いよ。あとでハメたげて」

「ゔぁい!」


「すみませんでした……。もう2度としません……。許してください……」

「よし。そんじゃ、反省文な。内容によっては停学もあるから、よーく考えて書くように。鬼瓦くん。一応指の関節ポキポキ鳴らしといて」

「ゔぁい!」



「今年の生徒会。案外優秀だったわよね。男ども、頑張ったじゃない」

「ねーっ! マルちゃんも認めるコウちゃんと武三くんっ!」

「はい! あたしの自慢の生徒会です!」


 こうして、俺たちの生徒会活動が終わって行く。


 寂しいけども、それを言いだしてはきりがない。

 せめて、最後まで精一杯、一生懸命になって取り組もうじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る