第487話 ホワイトデー! 夕方の部!

「んんー! 今日も演説頑張りましたー!」

「おう! お疲れさん! 先輩的には百点満点だったぞ!」



 お昼の放送を除いてはな!!



 「あの放送ってどういうことなんですか!?」と言う質問が、男女問わず結構な勢いで放課後になって押し寄せて来た。

 男子は花梨ファン。

 女子は花梨ファンに加えて恋バナ大好き。


 ここで花梨に対応を任せると、えらい目に遭う予感がした俺は、速やかにスポークスマンを名乗り出た。

 そこで「あれは花梨に恋人が出来たらあんな風に思うって言う、想像だから!」と我ながらナイスなハンドリングでコーナーを攻める。


 男子は「うひょー! 冴木さん、良い!!」と興奮して去って行った。

 女子は「分かるー! そーゆうの分かるー!」とやはり興奮して去って行った。


 そんな俺の後ろで、ふくれっ面な花梨さん。

 「なんで隠すんですかー! 別に、あたしは先輩の事大好きだってバレても良いのに!!」とお怒りの様子。


 俺は改めて「選挙が終わったら自由にして良いから! お願い、ここだけ辛抱して!!」と頼み込んで、どうにか「もぉー。先輩がそう言うなら」と納得してもらえた。


 そんな訳で、いつも以上に聴いていく人の多かった街頭演説。

 つまりは結果オーライ。

 上坂元さんも「やりますわね! さすがは冴木さんですわ!」と褒めていた。



 そして、生徒会室に帰還。

「お疲れ様ーっ! コウちゃんのギモーヴ、おいしーよ!! あーむっ」


 毬萌さんが俺のあげた3つ目のギモーヴを堪能中。

 人の3倍働いているから、ギモーヴも3倍にしてあげた。

 アホ毛もぴょこぴょこ、天才モード継続中。


 そして、俺がお呼びした勅使河原さん。

 鬼瓦くんをちょいと呼んで、夫婦にしたらば準備完了。

 両膝を床につけ、両手は気功法の構え。おでこを床とごっつんこ。


「2人とも、この度は、ほんっとうに、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!!」


 本日3度目の不死鳥フェニックス土下座DOGEZAである。

 土下座を連発すると、その価値が低下する?

 知らなかったのか? 不死鳥は3度蘇る。


 俺くらいの土下座マスターになると、むしろ繰り返す分だけ強くなるまである。


 その証拠に、ご覧なさいよ。

 困惑した表情の鬼瓦夫妻を。


「き、桐島先輩! 僕は別に不快に思ってなどいませんので! ど、どうか頭を上げてください! ゔぁあぁあぁっ! 先輩の土下座なんて見たくないです!!」

「そ、そうです、よ! 私も、お昼は、ちょっと言い過ぎ、ました! 武三さんも、怒ってないって、言ってますし! もう、過ぎたこと、ですから!」


 なんて優しい鬼の夫婦。

 渡る世間は鬼ばかり。


 取ってつけたように、2人の監修で作ったギモーヴを献上。

 それでも喜んでくれる、とっても優しい鬼の夫婦。


 その後、片付けをして、生徒会室に鍵かけたら皆で下校。

 の前に、彼女を待たなくては。


 鬼瓦くんと勅使河原さん、そして花梨と校門で別れた俺は、毬萌を連れて彼女を待った。

 仕事が少なかったのか、10分少々で部下と一緒に歩く彼女を捕捉。

 俺は大きく手を振った。



「おおおい! 氷野さん! 俺だぁ! あなたの心に寄り添うオンリーワン、桐島公平だぁぁぁ!! 一緒に帰ろうぜー!! おおおおい! 氷野さん! 一緒に帰ろうぜぇぇぇ!! 氷野さん、氷野さぁぁぁぁん!!!」



 氷野さんが全力疾走で駆け寄ってきた。

 そんなに俺の待ち伏せが嬉しかったのかな。



「や・め・ろ!! あんたぁ! バカ平! 皆が見てんでしょうが!! 変な誤解されたらどうすんのよ!! そもそも、帰る方向が全然違うでしょ!!」


「たまには良いじゃねぇか。毬萌と3人で仲良く帰ろうぜ! 氷野さんも送って行くから!」

「マルちゃん、一緒に帰ろーっ!」


「帰りましょう! 今すぐに!!」


 氷野さんの最高の笑顔を引き出すコツ?

 そうだなぁ、色々あるけど、やっぱり深い友情かな!


 あとはね、毬萌!



 そして毬萌の家までぶらり3人散歩。

 まったく、我ながら先ほどの発言は本質を突いていた。


 たまには良いね。こういうのも。


「にははーっ! じゃあねー! 2人とも、また明日! コウちゃん、マルちゃんをちゃんと送って行くんだよーっ!」

「おう。任せとけ!」

「ったく、なんであんたと並んで帰らないといけないのよ」


「マルちゃん、また一緒に帰ろうねーっ!」

「ええ! 明日にでも! 公平、誘ってくれてありがとう!!」


 そして毬萌が帰宅して、俺たちは氷野さんのマンションへと舵を取る。

 ここからだいたい3キロある。


 良し! ギリギリ生死の境目だな!!


 死ぬ前に、渡しておこう、ホワイトデー。

 渾身の一句と共に、取り出すのはすっかり数が減ったギモーヴちゃん。


「氷野さん、こいつを受け取ってくれ! いつも俺の事を気にかけてくれてありがとう! これからもよろしくお願いします!」


 氷野さん、ほんの一瞬顔をほころばせるも、すぐにそっぽを向く。

 その笑顔が可愛いのに。なんてもったいない。


「あ、あんた、バレンタインの時もチョコくれたじゃない! な、なによ、近所のおばさんみたいに! 事あるごとに何かくれないと気が済まないの!?」


「おう! 氷野さんにゃ、特別に世話になってるからな! 受け取って貰わねぇと、俺の気が済まねぇんだ! ここは俺に免じて、貰ってあげてくれ!」

「……じゃあ、その、貰っとく。……ありがと、バカ平」


 そして氷野さんのマンションが見えるところまでやって来たらば、天使の羽が降り注ぐ幻影を見た。

 目をよく凝らして見ると。


「公平兄さまー! 姉さまー! おかえりなさいなのですー!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」


「なぜかしら。私、さっきちょっとだけ喜んだことを、既に後悔してるわ」


 ちくしょう、夕日と心菜ちゃんが合わさって、目に染みるったらないぜ。

 もう、心菜ちゃんマジ天使。


「兄さん、マル姉さん! ウチもおりまっせー!」

「ひぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう! ゔぁあぁぁぁぁぁぁぁぁい!」


「な、なんで兄さんを蹴りはったんですか!? マル姉さん!?」

「これはね、高度な情報伝達なの。見てごらんなさい? 公平、痛がってないから」

「うっす! 姉さん、ありがとうございます!!」


 じっとりとした瞳で俺を見る氷野さん。

 白状しないとまた蹴られてしまう。おいおい、残機が増えちまうじゃねぇか。


「だって、2人にはバレンタインデーの時に直接逆チョコできなかったからさ。ホワイトデーは顔を見て渡したいって思うのが男の子の心じゃん?」

「兄さまからの呼び出しなのですー! 嬉しいのですー!」

「せやねー! 普段男の人と会われへんから、新鮮な気持ちになります!」


 超必殺技、多数決。

 3対1では分が悪いと見たのか、氷野さんは降参のため息。

 そんなアンニュイな氷野さんもとってもセクシーだよ。


「はい。2人とも、いつも俺と遊んでくれてありがとう! これからもよろしくな! お口に合えば良いんだけど、鬼神お兄ちゃん直伝のお菓子だよ」


「はわわ! なんだかプニプニしてるのですー!」

「ほんまや! なんや、心菜ちゃんのおっぱいみたいやね! あはは!」

「むすーっ。そういうの、セクハラって言うのです!」

「怒らんとってやー! あはは、ごめんてー!」



「……あんた。叫び声はどうしたのよ。なんで無言で涙流してんのよ」

「いや、もう、この時代に生まれて来れて、良かったなぁって思ったら、なんかね」



 これにてホワイトデーミッションをコンプリート。

 用意したギモーヴも残り1つ。

 少しでも話したことある女子に手あたり次第配っていたら、きれいさっぱりなくなってしまった。


 鬼瓦くんの計算は相変わらず見事だなぁ。


 帰り道にくっせぇカビゴンと出会うフラグ?

 あのさぁ、ゴッド。いくらなんでも、天丼は2杯までって決めたじゃん?


 3度目はないんだよ。



「ただいまー」

「あら、あんた、帰ったのかい!」

「おう。ほれ、母さん。これやるよ」


「なんだいこれ! 分かったよ! トイレの臭い消すヤツだね!」

「違うわ! ギモーヴって言う、マシュマロの親戚だよ! やるよ!! ホワイトデーだから!」


「あら、やだよ、この子ったら! 知らないうちに男の顔をするようになったじゃないか! ちょいと、お父さん! 聞いて! うちの子が男になったよ!!」

「なんだって!? まだ結婚もしていないのに!? そうかぁ、父さんもおじいちゃんになる日が来たか……!」


「ヤメろよ! 両親の下ネタとか、一番敏感な年頃だぞ、俺ぁ!!」


 愉快な我が家で結ぶ、今年のホワイトデー。

 まあ、たまにはこんなオチも悪くないだろう。

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