第486話 ホワイトデー! 昼の部!

 ホワイトデーである。

 午前中の授業はスムーズに消化。


 それはそれとして、今日は昼休みの放送室から選挙活動。

 会長候補者が1人1日ずつ、お昼の放送の時間を拝借して、自由に作って良いと言う趣向。


 既に2人の候補者は済ませており、花梨がトリ。


 上坂元さんは、「本場のネイティブな発音をお聞きあそばせ!」と、流暢りゅうちょうな英語でスピーチ。

 ただのスピーチでは終わらず、時事ネタを上手く盛り込んで、更に聞き取れなかった人のために大和さんのアフター通訳で構成されていた。


 俺も聞いていて笑ってしまう内容だった。

 特に「アメリカでは教頭先生のような醜い男性が意外とモテますわ!」と英語で語った後、大和さんが淡々と和訳してくれるシュールな展開は素晴らしかった。


 翌日は黒木くん。

 体操服の短パンの丈をもっと短くしたいと言う内容一本で30分しゃべり続けた、相変わらずの豪傑ごうけつっぷり。


 最後には「女子だけにじゃない! 男子だって、ハイレグまで丈を詰めよう! 痛みを伴う改革だ!!」とか叫んでいた。

 一部の男子生徒が熱狂していたが、そこかしこから女子の舌打ちが聞こえた。


 黒木くん。

 君の闘う世界線はね、多分ここじゃない。

 早くそっちに飛んだ方が良いと思う。


 そして本日。繰り返すが、花梨さんのターン。


「花梨。緊張してないか?」

「平気です! 全然ですよー!!」


「そうか。そんじゃ、これは頑張る花梨にプレゼントだ」

「へあっ!? えっ、これ、ホワイトデーの!? だって、先輩、ずっとあたしに付いててくれたじゃないですか!? いつ作ったんですか!?」


「ふふふ。花梨が毬萌とお泊りしてる間に、ちょいとな。驚いてくれたようで結構! 俺ぁ今日からサプライズマンを名乗ろうかな! ふふふふ」

「も、もぉー! 先輩ってば、カッコ良すぎですよぉー!」


「冴木さん。そろそろお願いします」

 放送部の女の子が花梨に出番ですよと促した。


「あ、はーい! じゃあ、公平先輩! 行ってきますね!」

「おう。頑張れ!!」



 放送室の外では、毬萌が俺の弁当持って待機中。


「コウちゃん、お疲れ様ーっ!」

「おう。毬萌も、すまんな。しょっちゅう弁当作ってもらっちまって」

「んーん! わたしが好きで作ってるんだもんっ!」


 今日もアホ毛はぴょこぴょこ。

 可愛いヤツめ。


「ほれ。そんなお前に日頃の感謝の形だ。味わって食えよー」

「みゃっ!? わぁーい! お菓子だっ! そっかぁ、今日ってホワイトデーだ!!」

「おう。俺も好きで作ったんだから、気にしないで良いからな」


「にへへーっ。嬉しいですなぁ! あーむっ。んーっ、甘酸っぱい! おいしーよ、コウちゃーん! あーむっ」

「そっか。本当に美味そうに食うなぁ、毬萌は。作り甲斐があるってもんだ」


「だって、おいしーんだもんっ! あーむっ。花梨ちゃん、順調そうだねぇ! あーむっ」

「俺も弁当をいただきますっと。まあ、花梨は放送にゃ慣れてるし、問題ねぇよ」


 そう思っていたのに。

 何が悪かったのだろうか。


 俺なのかしら。


『ところで、今日は何の日か皆さん、ご存じですか? そうです、ホワイトデー! 男子はちゃんと用意して来ましたか!? バレンタインデーにチョコが貰えなかった人でも、女の子はお菓子貰えると嬉しいものですよー』


 おお、しっかりとタイムリーなネタにも手を伸ばすのか。

 原稿にはなかった内容だけど、花梨もアドリブ力がついて来たなぁ。

 結構、結構。


 やっぱり、会長になろうって言うんだから、咄嗟のアドリブも必要になる場面はあって当然だし、その予行演習も兼ねているのかな?

 まったく、大した後輩だなぁ。


『あたしはですねー! 実はさっき、ステキな贈り物を貰っちゃいました! これ、なんて言うんですかね? あ、そうそう、ギモーヴ! サプライズでビックリしましたけど、とっても嬉しかったです!』


 お、おう。

 そこまで話しちゃうのか。

 いや、まあ、大丈夫か。花梨のファンって多いものな。


 特定は不可能だろう。


『これが、大好きな人からのサプライズですから、ホントに嬉しくなっちゃいますよー』



 ——あかん!!



『あ、という事ですので、あたしはもうホワイトデーを満喫しました! えー? 相手ですかぁー? 秘密ですけど、言っちゃおうかなぁー。えへへ』


 放送室に突入。


「ちょ、副会長!? 放送中ですよ!」

「知ってるよ! 放送中だから飛んできたんだよ!! 止めてくれるな!!」

「ダメですって! 雑音が入っちゃいますから!!」



「知ってるよ!! 雑音を立てに来たんだよ!! 止めてくれるな!! 後生だから!!」



 放送部の女の子の制止を振り切って、オンエアーランプのともっているドアを開ける。

 まず、女の子の制止を振り切れたことが1つ目の奇跡。


「そぉい!」


 そして、俺が音楽を流す際に押すべきボタンの位置を知っていたのが2つ目の奇跡。


「ひゃっ!? あれ? 公平先輩?」

「あぶねぇ! マジで危なかった!!」


 現在、校内には黒木くんが女子のスクール水着を過激にせよと演説していた時のBGMである、『フライングゲット』が流れている。



 ふっ。まさか、君に感謝する事になるとはな。黒木くん。



 ナイス、フラゲ!!

 九死に一生を得た。


「ダメだって、花梨! 選挙中にそんな、特定の人から物貰ったとか言っちゃ!」

「えー? でも、事実ですよー? それに、先輩は有権者ですけど応援人ですから、別に賄賂わいろとか収賄しゅうわいとか、そういうのにはならないと思うんですけどー」


「そういうんじゃねぇよ! ああ! あのな、花梨は可愛いから、男子人気もあるんだ! それが、好きな人にプレゼント貰っちゃったーなんて言ったら、拗ねた男どもが離れちまうかもしれねぇだろ!? 良いか、選挙中は色恋の話はなしだ!」


「えー!! そんなぁー! ひどいですよー!!」

「ひどくない! これが花梨のためなの! 会長になったら好き放題やって良いから!」

「むー。はーい。分かりましたー」


 あんまり反省の色が見えないけども、まあ良いか。

 そして『フライングゲット』が終わる。


 ここからどう繋ぐのかって?

 現役副会長のアドリブ力舐めんな!


『はい、どうも、ごきげんよう。副会長の桐島です。ついつい冴木さんの勢いが余ってフライングゲットしてしまいましたー。はっはっは』


 教室から笑い声が聞こえて来る。

 よっしゃ、掴んだぞ。

 あとは何か、餌を撒くだけ。


『そうそう、ホワイトデーと言えば、うちの会計の鬼瓦くんが、放課後に即興でお菓子作り教室やっても良いって話でな。想いを伝えたい男子諸君。そして、逆ホワイトデーを目論む女子諸姉。今から鬼瓦くんを捕まえて、放課後の予約をするのはどうかな? 彼のお菓子を学ぶと、恋が実ると言うアレが、そう、ジンクスがあるとかないとか!』


 ドドドドドと、廊下を大勢が走る音がする。

 続いて「ゔぁあぁあぁぁっ! ぎりじばぜんばぁぁぁぁい!!」と、鬼の哭く声が。


 許せ、鬼瓦くん。

 こうするしか方法がなかったんだ。


 結局、鬼神インパクトが炸裂したおかげで、花梨のホワイトデー体験談は有耶無耶になった模様。

 俺はホッと一息。



 廊下に出ると、勅使河原さんが待っていた。


「桐島先輩。どういうことですか? どういうことですか? うちの武三さんを餌かデコイみたいに扱いましたよね? 武三さんが許しても、私はちょっと看過できないって言うか。どういうことですか? 納得のいく説明を聴かせてもらえますよね? ……ね?」


 本日2度目の不死鳥フェニックス土下座DOGEZAで残りの昼休みの時間を費やした。


「あれ? 桐島くん! 何やってるの?」

「ヒュー! 公平ちゃん、廊下で土下座とは、ロックだぜぇー! ヒュー!!」


 好機と思った。

 堀さんにギモーヴあげる隙に、逃げちまおうって。


「堀さん! これ、高橋と一緒に仲良く食ってくれ! じゃあ俺ぁ」

「も、もう! 仲良くなんかないってば!」



 ——ゴッ!!!



 2人が去った後、再び廊下に転がる俺。

 勅使河原さんが言った。


「桐島先輩。悪い事ってできませんね? 今日のところはこれで許してあげます」

「う、うん。ホント、なんて言うか、ごめんなさい……」



 ホワイトデーって言うのは、本当に大変な1日なんだなぁって。

 そんな事を、廊下のタイル眺めながら思ったりした、俺である。


 だが、俺のギモーヴはまだある!

 ホワイトデーの晩節を汚したまま終わってなるものか!

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