第485話 ホワイトデー! 朝の部!
「桐島先輩。おはようございます」
「あーっ、武三くんだっ! おっはよー!」
「おはようございます。毬萌先輩」
「おう。毬萌、そう言えば生徒会室にこの前クッキー置き忘れちまったかもしれん。ちょっと見て来てくれるか? 食っちまっても良いぞ」
「みゃっ!? も、もう、仕方ないなぁ、コウちゃんは! ちょっと行ってくるっ!!」
よし、これで毬萌は遠ざけることに成功。
花梨は今日の演説の原稿に真剣な目を向けている。
鬼瓦くんとのブツの受け渡しは今しかないと思われた。
「桐島先輩。確かにお渡しいたしました。ご武運を」
「何から何まで、世話になるな、鬼瓦くん」
「いえ。この程度のことでしたら。それでは僕は、浅村先生の元へ踏み台を取りに行ってきます」
鬼瓦くんと入れ違いになって、上坂元さんと大和さんが下駄箱へ。
「あら、ごきげんよう。桐島さん」
「おはようございます」
早速鬼瓦くんがギモーヴを大量生産させた理由にぶち当たった。
なるほど、そう言う事か。
すごいなぁ、鬼瓦くんの計算は。
コンピューター鬼神さん。
「おはよう! 2人とも、ちょっと良いか? これ、よかったら貰ってくれよ」
俺の手には、鬼瓦くんとせっせと作り上げた包装紙に包まれたギモーヴ。
「あら、なんですの?」
「桐島先輩。私たち、バレンタインデーに何もお贈りしていませんが」
「いや、良いんだよ! いっぱい作ったから! あ、気持ち悪かったら無理しなくていいぞ! そこはマジで!!」
「くすっ、本当に周囲の評判と実際の人物査定がここまで変わらない人っていませんね。ありがたく頂戴します」
大和さんの笑った顔を見る事ができた喜び!
ちょっとだけ口元が緩むの!
何と言うプレミアム感!!
「どういうことですの? あたくしにはちょっと事情が分かりませんわ」
「アメリカにはホワイトデーってないらしいですからね。桜子さん、つまり、今日は男性が女性に日頃の感謝を込めて贈り物をする日なんです」
「まあ! それは知りませんでしたわ! それであたくしにも、これを!? ……まあ、まあまあ! これ、桐島さんがお作りになったんですの!?」
「おう。いや、俺の後輩の鬼瓦くんに教えてもらいながらだけどな」
「少し失礼して……まあ! とっても美味しいですわ! これは大きな貸しができてしまいましたわね! でも、容赦しませんわよ!」
「はは、気にしねぇでくれ。今日も演説、お互いに頑張ろうな!」
「はい。失礼します。桜子さん、美味しいからって全部食べないで下さい。イメージ崩れます」
気に入って貰えたようで、俺も嬉しい。
そして、花梨の隣に走って行き、演説のお手伝い。
今日も今日とて大盛況であった。
ここからが忙しい。
まずは一年生の教室棟から攻める。
1人目の獲物発見。
「みのりん! おおい、みのりん!! みのりーん!! みのりーん!!!」
「ひゃっ!? や、ヤメて下さいよ、桐島先輩! すっごくみんなが見てるじゃないですか!! もう、冴木さんの苦労が最近はよく分かります」
「おう。これは失礼。失礼ついでに、こいつを受け取ってくれ!」
松井さんは察しの良い女子である。
俺の出した包みを見て、すぐに「あっ!」と声を出してくれた。
「逆チョコしてくれたのに、ホワイトデーまでお返し貰えるなんて思いませんでした! ありがとうございます! それにしても、またオシャレなお菓子ですね!」
「そこは俺の心強い後輩のアドバイスあってこそだ!」
「あとで大切に食べさせて頂きます!」
本当なら世間話に花を咲かせたいが、とにかく今日は忙しい。
ちょうど保健室から出て来た大石先生にもギモーヴ。
「この子ったら、将来はお嫁さん泣かせの男になるわねー」と大人の微笑みを頂戴した。
さらに探すぞ、一年生。
ホームルームの前と言う事は、そろそろ朝練から戻って来る頃か。
「おお、やっぱり! 片岡さん!」
ソフトボール部の片岡さんを捕捉。
すぐに駆け寄る。
「うわぁ、副会長! ちょっと待って下さい! 今、私汗くさいですよ!?」
「何言ってんだ! 頑張って流した汗がくせぇワケねぇだろ!? それより、練習後の糖分補給に役立ててくれ! これ、ソフトボール部の皆に! 5個くらい持ってってくれ!」
「へ? あ、あー! 今日ってホワイトデーですか! 忘れちゃってました! ありがとうございます! 皆も喜ぶと思います! 副会長、副会長じゃなくなってお暇ができたら、また監督しに来てくださいね! 私たち、指導者大歓迎ですから!」
「えっ!? マジで!? 俺でも良いの!? 行く行く、行っちゃう! マジでしょっちゅう行くよ? 真に受けちゃうよ!?」
「ぜひ! 私たちの勝利の歴史は副会長から始まっていますから! 来年度からは副会長ではなく、桐島監督と呼ばせてください!」
そして片岡さんはシャワーを浴びると言って部室棟へと去って行った。
桐島監督、ふふふ、悪くない響きじゃないか。
退役後の働き口まで見つけてしまうとは、ホワイトデーってステキ。
ステキを通り越していっそセクシーだよ。
予鈴が鳴るまであと30分くらいあるな。
よし、こっちから行ってみよう。
目的地はテニスコートだ。
「おーい!
コートで散らばったボールを集めている彼女を発見。
速やかに駆け寄り、とりあえず俺もボールを拾う。
「桐島先輩。もしかしたら今日はどこかでお会いできるかなって思っていました」
「おう。バレていたか。これは俺としたことが」
「ふふっ。はい。桐島先輩の性格はよく知っていますから! 絶対にチョコレートのお返しを持って来るんだろうなって思っていました」
では、もったいぶっても仕方がないので、ギモーヴを進呈。
優しい笑顔が弾ける。
「どうかな? 最近、何か変わった事あった?」
「……はい。私、男子テニス部の早川くんと、お友達からお付き合いする事になりました」
「マジか! えっ!? じゃあ、まずいじゃん! ごめん、俺、そこまで気が回らんかった! こんなところ彼に見られたら誤解されるよな!? す、すまん!!」
「そんなことないですよ、副会長」
そこには、短パンの似合う爽やかなイケメンが立っていた。
もしかして、君の名は?
「はい、こちらが早川くんです。ふふ、桐島先輩、すごいお顔ですよ。ふふふっ」
ひ、ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!!!
速やかに両膝を地面とドッキングさせ、両の手を良い感じに揃える。
イメージは天津飯の気功法の構え。
そして額を地面にごっつんこ。
お久しぶり。
「ちょっ、えっ!? な、なにしてんすか!? 副会長!?」
「この度は、まっこと誤解を生むような行動を取ってしまい、俺ぁ、いや、わたくしは大変反省しております。わたくしを殴る蹴るは一向に構いませんが、自分の彼女の事は信じてあげてつかぁさい! 小深田さんは何もしてません!!」
……おかしいな。
俺の想定だと、「てめぇ!」と言われて胸ぐら掴まれてる頃合いなのに。
あ、いきなり頭を踏みつけられるパターンかな!
「ふふっ、あはは! 桐島先輩、早川くんは、私が先輩の事を好きだったって知っていますよ。それから、お付き合いの後押しをして下さった事も」
「そうっすよ! オレにとって副会長はキューピッドみたいなものなんすから! ヤメて下さいよ! マジで、罰当たりじゃないっすか、オレ!!」
ど、どういうことなのん?
土下座フォームを解除して、改めて話を聞くと、早川くんは小深田さんの事を完全に諦めていたのだとか。
そこに望外の「お友達からのお付き合い」と言う通告をされ、それが間接的に俺の影響を受けてのものだと知ったと彼は語った。
胸をなでおろすとはまさに今の俺。
「そ、そうかぁ。いや、せっかく小深田さんに出来た彼に変な誤解をさせちまったんじゃねぇかと俺ぁ! そうだ、君も貰ってくれ! 俺からのお祝いってことで!」
「えっ!? オレまでホワイトデーのお菓子貰えるんすか!? ……いや、マジで、小深田さんが言ってた通りの人だなぁ。そりゃあ好きになるはずだ」
「でしょう? とってもステキな先輩なんだよ。ふふっ」
これまでの紡いできた絆を身に感じながら、俺のホワイトデー行脚は続く。
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