第484話 選挙戦、の合間にホワイトデーの準備

 選挙活動を終えて、生徒会室へ引き上げる。


「お疲れ様ですー! すみません、今日もお世話になってしまって」

「平気だってばー! 花梨ちゃんは選挙に集中していいのだっ!」


「鬼瓦くん。何か変わった事はあったか?」

「桐島先輩に少々死相が出ております」



 それは別に変った事じゃないから、平気かな。



「ところで、花梨ちゃん! 今日はお夕飯食べないで行っても良いのっ!?」

「もちろんですよぉー! 磯部さんが張り切ってました!」

「みゃーっ! じゃあね、おうち帰ったらすぐに行くねっ!」

「はい! お待ちしてますー!」


 毬萌は今日も花梨の家にお泊り。

 ちなみに、朝毬萌を起こす方法は花梨に伝授してある。

 それでも足りない時のために、田中さんにも伝えてある。


 ぬかりはないのだ。


「コウちゃんも来ればいいのにーっ!」

「バカ! 俺が女子と一緒にお泊りできるかい!」

「えー? 今までだって一緒にお泊りした事、結構あるじゃないですかー?」


「男が完全に俺ひとりだったパターンはねぇよ!!」


「いいじゃんかー! 両手に花だよっ!」

「良いワケあるかい! 選挙戦の大事な時期に大スキャンダルじゃねぇか!!」

「もぉー。公平先輩ってば、こーゆうところは強情ですよねぇー」

「ねーっ。コウちゃんも困った男の子だよ。まったくー」


 理性的な男だと訂正してもらいたい。

 一応俺だって生物学上の男であり、きっちりと思春期真っ只中な訳であるからして、そんな桃色の園へうっかり侵入したらどんな間違いが起こるか!


 てめぇの力じゃ間違いは起こせねぇだろうって?

 そうだね。ゴッドの言う事はいつも正しい。



 ただ、向こうが間違えて来る可能性があるからね!!



 そうなった時に、俺の力で間違いを正せると思うかい?

 そう。沈黙こそが答え。ゴッドはよく分かっている。

 反省してくれたなら良いんだよ。


「俺ぁちょいとやる事があるからな。2人で楽しくお泊り会して来てくれ。あ、毬萌、デカい風呂だからってはしゃいで転ぶなよ? それから、花梨も夜更かししてお菓子食ったりしちゃダメだぞ? 良いな?」


「みゃーっ。花梨ちゃん、花梨ちゃん。束縛の強い男の子ってどう思う?」

「んー。あたしは別に気にしないですけど。ちょっと可愛いなとか思っちゃいます!」

「にははーっ。コウちゃんが基準だと何言っても可愛いじゃんっ!」


「失礼な言動は、せめてお泊り会が始まってからにしてもらえっかな!?」


「桐島先輩。僕の方は仕事が片付きました」

「おう。そっか。毬萌の方はどうだ?」


「とっくに終わってるのだぁー!」

「言えよ!! んじゃ、もう帰るぞ! 早いとこ家に帰って、各々おのおの疲れを翌日に繰り越さないようにしねぇとな!!」


 そして生徒会室を施錠して、校門でみんなとバイバイ。

 毬萌を家まで送って行って、俺も自宅へと帰還せしめる。



 さあ、ここからが本番だ。



 着替えて自転車にまたがったら、風を切って目的地を目指す。

 日は暮れているが、街灯は明るいし、俺の自転車のライトも万全。

 そして到着。


「ごめんくださーい」

「ゔぁい! 桐島先輩、お待ちしていました」


 リトルラビットである。


 明後日は何の日でしょう。

 俺の顔色的に仏滅?


 ぶっ飛ばすぞ、ヘイ、ゴッド。


「材料はしっかりとご用意してございます。桐島先輩、予定通りで問題ありませんか?」

「おう。こればっかりは、男としてしっかりと務めないとな!」

「さ、さすが、です! 桐島、先輩! 私、応援、しますね!」


「もはや普通に勅使河原さんがいるけども、まあこれはもうアレだな。鬼瓦くんの奥さんって事で、ノーカウントだな」


「ははは! 真奈さん、奥さんだってさ!」

「も、もぅ、武三さん! 恥ずかしい、よぅ……!」



 もう菓子作る前から甘いんだよ。ここの空気を袋に詰めたら良いんじゃないの?



 なんて事は言っていられない。

 なにせ、今回はスケジュール調整がむちゃくちゃタイト。

 選挙戦は手を抜けない。


 でも、男として貰った分の3倍返しは順守したい。



 そうとも、明後日はホワイトデー!!



 そして、例によって俺は、リトルラビットへとやって来た訳である。

 もう、バレンタインデーの時に鬼瓦くんプレゼンツの逆チョコなんてやったばっかりに、俺が家で作ったしょっぺぇクッキーとかじゃ立ち行かない状態になっている。


 乾いた笑いで「あ、ありがとうございます」とか言われるのはご免だ。

 義理とは言え、俺みたいなエノキタケにチョコレートくれた女子であれば、それはもうなおのこと。


「アレ作るんだよな? なんつったっけ? 四角いマシュマロの親戚みたいなヤツ!」

「ギモーヴですね。これは、真奈さんの発案です」

「さすが勅使河原さん! もう嫁としての立場を確固たるものにしているな!」


「や、やめてくださいよぅ! でも、武三さんと一緒に桐島先輩でも1日で作れて、かつ意外性のあるお菓子を考えるのは楽しかったです! 武三さんったら、考える時に腕を組むんですけど、そのフォルムがとってもたくましくて! 写真見ますか!? この、上腕二頭筋から生まれる曲線とか、すごいですよね! あ、さすが桐島先輩! 分かります!? あ、あと、こっちの写真も見て下さい! ほらぁ、武三さんったら、大腿四頭筋をチラ見せしてて——」



 勅使河原さんの淀みないおのろけを20分ほど拝聴した。



「ギモーヴですが、今回はオーソドックスに、ミックスベリーで行こうと思います。春らしいですし、苦手だと言う人も少ないフレーバーですので」

「おう。ご教授願うぜ。あと、勅使河原さんがのろけている間に調理器具を全て用意しているとは。さすがだな、鬼瓦くん。もう俺の教えることは何もなさそうだ」


「では、6個入りのギモーヴ、30セット! 頑張って作りましょう!!」

「おう。もう、鬼瓦くんの目算を疑ったりしねぇよ。俺ぁ頑張る」



 貰ったチョコより多いけど、これも多分何かの意味があるんだ。



 ギモーヴの作り方は意外と簡単。

 ゼラチンを戻しておく間に、ミックスベリーを鍋にドーン。

 その中にグラニュー糖を叩き込んで、グツグツ良い感じになるまで煮ます。


 温度管理が大事だから、そこだは要注意。


「はい。良いですね。それでは、次に行きましょう」

「と、とっても、手際が、良くなりました、ね! 桐島、先輩!」

「おっ、そうか? 将来はリトルラビットで雇ってもらえるかな?」



「えっ。桐島先輩、私と武三さんのお店で働くつもりなんですか? それはちょっとどうかなって言うか。私たちの愛の巣に、もちろんたまに遊びに来てもらうのは全然構わないんですけど、ずっと居られるって言うのは、少しアレですよね。私、そういうところの節度って大事だと思うんです」



「さ、さあ! 冗談はこのくらいにして、続きをこなしていこう!」

「も、もぅ! 桐島、先輩! すぐに冗談、言うんですから! ふふっ!」


 急ぎ足になると、知らないうちに地雷のスイッチ踏みまくるから、危ないよね。

 万が一踏んだ場合は、慌てて足を持ち上げたりせずに、ゆっくりとスライドするようにして避けると、もしかしたら助かるぜ!


 水あめとレモン汁を加えて、焦げ付かないようにせっせと混ぜる。

 良い感じに煮詰まったら、ゼラチン加えてハンドミキサー。

 この作業は腕が死にそうになるので注意されたし。


 出来上がったものをトレーに移し替えたら、1時間ほど冷蔵庫でおやすみ。

 この間にしっかりと勅使河原さんのおのろけを聞くことが大事。


 冷えて固まったでっかいギモーヴの塊にコーンスターチを振りかけて、一口サイズにカット。

 側面にもコーンスターチをハケで塗ったら、はい、完成です!!



「……ええ! これならば、お店にも並べられる出来ですよ!」


 そして鬼神ジャッジをクリアすれば、一安心。

 急ごしらえながらちょっと特別なホワイトデースイーツの出来上がり。



 家に持って帰る途中で俺が落として台無しにする確率が鬼瓦くんの計算では40%と出たので、このままリトルラビットの冷蔵庫に保管してもらう事にした。


 選挙戦と並行して、俺のホワイトデーが始まる。

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