第483話 進む選挙戦の陰に天才と鬼神のサポート有り
「おはようございます! 冴木花梨です! お時間がある方、どうぞお話を聞いて行ってください! あたしは、誰もが朝、登校中に顔を合わせたら、笑顔でおはようって言える学園生活を作りたいと思っています!」
「つーことで、おはよう! これ、ポスター! 貰ってくれるか! 冴木候補の可愛い写真付きだぞ! おう、ありがとう! おお、こっちも! おはよう!」
選挙戦も中盤戦から後半戦へと移行。
今日も朝から花梨と一緒に選挙活動。
地道な訴えこそが花梨最大の武器。
もう俺は迷ったり
花梨を信じて、支えて、出来る事は全部やる。
「ごきげんよう。冴木さん。桐島さん」
「おはようございます! 上坂元さん!」
「おう。ごきげんよう」
「なかなか盛況でしてね。あたくしたちも負けませんわよ! でも、さすがは生徒会で1年過ごして来ただけのことはありますわ。あたくし、大きな声を出すと喉が枯れてしまいますの。冴木さん、何かコツがあるのかしら?」
通常ならば、対立候補のなれ合いなんてもってのほか。
自陣の手の内を見せてやる必要もないし、相手に塩を送ってやる必要もない。
だが、うちの花梨の目指す生徒会では、教えを乞う者には知恵を授け、手を差し出す者の手は決して払いのけない。
「あたしはですね、お腹から声を出すように心がけてますよ! あと、腹式呼吸って言うんですかね? ネットで調べて、実践してます! 結構効くんですよ! あ、サイトのURL送りますね!」
この正々堂々とした態度を見よ。
なんて、俺が言うまでもなく、花梨の演説を聞いてくれている生徒たちは、彼女の公明正大な対応をしっかりと目に焼き付けてくれている。
これこそが、何よりも強力な選挙活動。
「これはお気遣い、感謝いたしますわ! 冴木さんはとても親切ですわね! それでこそ倒しがいがあると言うものですわ! それから、桐島さん」
「おう」
これももう、お約束である。
「今日はお顔の色がブルーハワイですわよ? しっかりとご飯はお食べになられてますの? これ、おミニッツメイドですわ。元気を出してくださいまし!」
「おう……。いつもありがとう」
「これで貸し借りなしですわ! おーっほっほ! 皆様ー! この上坂元桜子も演説しますわよー! 冴木さん直伝の腹式呼吸をご覧に入れますわー!!」
そして、上坂元さんも、見た目はド派手であるが、中身は
わざわざ「今花梨から聞いたんだよ!」と注釈を付けて、早速お腹から声を出した演説を繰り広げている。
そんな風に言われると、彼女の話も聞いてあげようとなるのが人情。
そして、うちの学園は人情味に溢れている。
「みんなぁぁ! 聞いてくれ!! 夏になったら、女子の脇が見たくないかぁぁぁ!? それも、チラッとだけ見えるヤツ! それを自分は実現して見せる!! スカートだって極限まで短くするぞぉぉぉ! こっちも太ももがチラっと見えるんだ! なぁ、みんな!? それってすごくステキな学園にならないかなぁぁぁ!? みんなぁぁぁぁ!!!」
黒木くん。君は本当に、清々しいなぁ。
彼も演説に力を入れる姿勢だけは2人に引けを取らない気迫。
しかし、内容は希薄。女子の制服の話しかしていない。
さらに、その1点においては特濃と来ている。薄着の話してんのに。
周囲には数人の男子生徒が「うぉぉぉぉ!」と叫んでおり、時折黒木くんを定期的に胴上げしている様子がここからも見える。
君は何と戦っとるんだね。
こうして、順調に投票日が迫ってくる。
各候補、精力的に活動中。
なるほど、これは色々と学ぶべき点も多い。
チョビ髭の企画立案能力の高さはちょっとだけ認めなくてはなるまい。
「おはようございます! すみません、朝からお仕事を押し付けちゃって!」
「みゃーっ、花梨ちゃんっ! 平気だよー! わたし慣れてるからねっ!」
「お、おう。2人とも、すまんな。あー。ちょっと座るわ、俺ぁ」
「桐島先輩、失礼します。……少々バイタルサインが低下していますね。まずは
花梨が爽やかに汗をぬぐって毬萌と挨拶。
一方その頃、俺は鬼神の元へピットイン。
速やかに適切な介護を受ける。
このタフな選挙戦をここまで戦えているのは、間違いなく毬萌が仕事を引き受けてくれている天才フルブーストのおかげ。
そして、鬼瓦くんの俺の体調管理のおかげである。
帰宅後は毬萌がちょいちょいやって来ては、精の付く差し入れと、ボコボココウちゃん1号によるマッサージを施してくれる。
まったく、2人には頭が上がらない。
「おう。予鈴が鳴ったな。そんじゃ、みんな。また放課後にな」
「ゔぁい!」
「毬萌先輩! 演説について質問があるんですけど」
「良いよーっ! 放課後に時間作るねっ!」
学年末テストの終わった後の授業にももちろん意味がある。
けども、やっぱりどこかで消化試合感が漂ってしまうものである。
「ヒュー! 公平ちゃん、毎日可愛い後輩とずっとシクヨロでうらやましいぜぇー! ヒュー! 疲れてんのは本当に選挙活動だけのせいかーい? ヒュー!!」
「うるせぇ。プリントの問題解けよ」
日本史の時間だが、担当教諭が「ちょっと年度末で忙しいから、自習な!」と言って、プリントばら撒いて去って行きおった。
それでも全員、一応席についてプリントの問題をこなしているのは誇っても良いと思う。
ルーキーズの舞台だったら、もう教室の後ろで麻雀始めてるよ。
「ヒュー! 公平ちゃんのシクヨロで、後輩ちゃんも順調そうだぜぇー! ヒュー!」
「おう。もうここまで来たら、やれる事をやるだけだよ。……あと、俺ぁお前と堀さんの方がヨロシクしてるように思えて仕方ないんだが!?」
背後の気配に気付けなかった、俺のミスである。
「も、もう! 桐島くんったら! 私たち、そんなに仲良くしてないよぅ!」
——ゴッ!!!
「ヒュー! ジュエリー、どうしたんだい? オレっちの愛が足りなくなったのかい? だけど今は、ジャパンのヒストリーな時間だぜぇ? ヒュー!!」
「ちょっと分からないところがあって、タカシくんに聞きに来たんだよ!」
「ヒュー! アメリカの大統領の名前なら知ってるんだけどなぁ! ヒュー! 公平ちゃん、この政治腐敗で失脚した老中って誰か知ってるかい?」
「……田沼意次」
あと俺を今まさに失脚させようとしているのが、お前の彼女。
その後、速やかに俺の席を堀さんへ無血開城して、俺は堀さんの席に向かった。
ちなみに、堀さんの席は毬萌の前である。
この位置関係のせいで、毬萌がよく知らなくても良い知識を拾ってくる。
柴犬系女子だから仕方ないね。
よくない餌を与える側に問題があると思う。
「みゃーっ! コウちゃん、どしたのー?」
「おう。ちょっとゴリ……堀さんが、ナニしてな。おう。お前の顔を見に来た」
「みゃっ!? も、もう、コウちゃん! いきなり変な事言わないでよぉー!」
——ぺしんっ。
「俺ぁ、お前が今、世の中で一番愛おしいかもしれん!!」
「みゃっ!? どういうこと!? コウちゃん、どういうことかなぁ!?」
ああ、これは俺としたことが。
本音しか漏れてなかった。
毬萌には、もう少し実務的な話もしないといけないのに。
本音を一旦しまって、毬萌に言うべき事を手早く伝える。
「花梨の様子に注意してやってくれるか? ちょっと気ぃ張ってる感じがすんだよ。こういう時は、同性の方が良いかと思ってな」
「わたしも気になってたんだぁ! じゃあ、今晩は花梨ちゃんちにお泊まりに行って来る! それで、ガス抜きしてあげるのだっ!」
なるほど。それは名案。
「お前ら、クリスマスくらいからむちゃくちゃお泊り会してるよな。いや、仲の良い事は結構だけどな。花梨の家に迷惑かけてないか?」
「むーっ! 失礼だよぉ! わたしだって、ちゃんとした先輩らしく振舞ってるもん! ダラダラするのはコウちゃんの前だけだもんっ!!」
「ああ。そうかよ。じゃあ、花梨の事は頼むな」
「任せてーっ!!」
そして放課後になれば、また選挙活動。
それはそれとして、俺には別のやらなくてはならない事があった。
まったく、3月と言うのは忙しくていけねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます