第474話 選挙戦スタート!
「おっはよー! 花梨ちゃん! 武三くんっ!」
「やれやれ。今日は早く行くって言ってんのに……」
毬萌は元気に朝の挨拶。
俺はくたびれて朝の後悔。
毬萌の二度寝を30分で計算した見積もりが甘かった。
1時間半に下方修正だよ。
真冬の極寒よりも、こんな感じにちょいと暖かくなり始める頃合いがうちの柴犬系幼馴染の眠りは深まるのだ。
おかしいな、犬って冬眠しないのに。
「おはようございます! 公平先輩! 毬萌先輩!」
「おはようございます。先輩方」
「おう。2人ともおはよう。花梨、昨日はよく眠れたか?」
今日から選挙戦がスタート。
緊張して寝不足になっていなければ良いが。
「はい! 公平先輩が一緒だって思ったら、ぐっすり眠れちゃいました! えへへ。……あの、公平先輩こそ、ちゃんと眠れましたか?」
「おう。花梨さん、さすが。鋭いな」
「桐島先輩。お顔に死相が出ています」
「目の下にあんのはクマだよ! ちょっとヤメて!? そんな不吉なもんじゃないよ!?」
俺は今年で2年続けて生徒会長候補の応援人。
ならば、ぐっすり熟睡も余裕? バカ言っちゃいけない。
眠りに落ちたのは朝、小鳥さんがチュンチュン言い出した頃だよ。
そんなので去年は大丈夫だったのかって?
去年もずっと寝不足だったよ!
だって、俺の手抜かりで万が一、大事な後輩が落選したらと思うと!!
ああ、ダメだ。
「桐島先輩。先ほど、選挙管理委員の松井さんが来てポスターが刷り上がったので確認して欲しいと。こちらですが、問題ないでしょうか」
鬼瓦くんからポスターを受け取る。
そこには、はにかむ花梨の可愛い顔と、『みなさんの学園生活に寄り添います! ひとりぼっちにはさせません!』と力強いキャッチコピーが。
「おおお、これはむちゃくちゃ良いポスターになったなぁ! 花梨、可愛いぞ! ああ、元の素材が良いから当然か!」
「も、もぉー! ヤメて下さい! 顔がにやけちゃいますー!」
「あれ? この壁、コウちゃんのお部屋だよね? なんで? ねえ、なんで?」
あれ? 毬萌さんのテンションがおかしいな? なんで?
とりあえず、アレだな。謝っとこう。
「いや、違うんだ毬萌! これにゃ深い訳があってだな! 別にね花梨を部屋に連れ込んでいかがわしい写真撮ったりしたなんてことはない! いや、マジで!」
「にははーっ! 知ってるのだっ! 花梨ちゃんに電話で聞いたもーんっ! ねーっ?」
「はい! あたしも、毬萌先輩が公平先輩に体力のつくお夕飯を差し入れした事、ちゃんと知ってますよ!」
「……おい。じゃあ、なんで1回俺を追い詰めたの? どういうことなのん?」
「恋愛はねー、時には冷たく接する事もアクセントだって聞いたのっ!」
「分かった。ちょっと堀さんのとこ行って来る」
「なんで決めつけるのさーっ! 堀さん、かわいそうだよぉ!」
「むう。それもそうか。先入観でものを言っちまった。俺としたことが。で、誰に聞いたんだ? テレビでIKKOさんが言ってたか?」
「んーん。堀さんから聞いたーっ!」
「ちくしょう! ぜってぇそうだと思ったのに! 自分を信じてやれなかった!!」
鬼瓦くんが時計を見て言う。
「先輩、皆さん。そろそろポスターを貼って回りませんと、街頭演説の開始時刻になってしまいます」
朝の街頭演説の時間は、8時から8時半までの30分と決まっている。
現在時刻は7時と30分を少し過ぎたところ。
鬼瓦くんの指摘通り、急いだ方が良さそうだ。
「二手に分かれるか。よし、俺と鬼瓦くんは身長的に別行動だな」
「えー? 男子と女子で分かれたら良いじゃん! だってコウちゃん、身長はあるけど体力ないし!」
「そうですよ! 公平先輩の体力は出来る限り温存しておかないとです!」
なんか既に俺がお荷物扱いされている予感がする。
が、とにかく時間がないので、毬萌の意見に従うことにした。
そして30分後。
「やれやれ。とりあえず貼り切れたな。しかし、見たか。あのポスター」
「見ましたー。すごかったですね、上坂元さんのポスター!」
「ねーっ! キラキラだった! あれ、合成かなぁ?」
「いえ、僕の見たところ、実際に衣装を着て撮影されていると思われます」
俺と花梨のとったポスター作戦は、親しみのある素朴な写真。
対して、上坂元さんの写真は、凄まじい
分かりやすく
強いて言えば、全盛期の小林幸子と美川憲一を足して2で割らなかった感じかな。
オマケにキャッチコピーは『優雅でエレガントな学園へ! 既存の生徒会からの脱却!』と来たもんだ。
ものすごい対立姿勢で挑んでこられたなぁ。
「あらぁ、ごきげんよう。生徒会の皆様」
噂をすれば何とやら。
上坂元さんがやって来た。フルネームは
ちょっと語呂が良いじゃないか。口に出して呼びたくなる。
「書記さん。いえ、冴木さん。あなたのポスター、拝見しましたわ。置きに行った、とお見受けしましたけど、よろしくって?」
「あはは、あたしは応援人の公平先輩と一生懸命考えただけですから」
すると上坂元さん、視線を俺に移す。
「副会長さん。ごきげんよう」
「お、おう。ごきげんよう」
「みゃーっ……。コウちゃんが早速相手に吞まれてるのだ……」
「いえ、あれが桐島先輩の作戦かもしれません」
うるせぇな、外野! ちょっと静かにしててくださいますこと!?
「桐島さんとおっしゃいましたわね? 噂によると、生徒会の影の支配者だとか伺いましてよ? その貧相な体も隠れ
褒められているのだろうか。
「お、お褒めに預かり公平ですわ。間違えた、光栄ですわ」
「おーっほっほっ! あたくし、まだ日本語が馴染み切っていないので、失礼があるかもしれませんが、よろしくお願いいたしますわ」
上坂元さんが手を差し出して来た。
なにゆえ俺に? と思うものの、それを拒む理由もない。
「お、おう。こちらこそ。……ん?」
「おミニッツメイドですわ! こちらを飲んで、早く体調を良くして下さいな! 万全なあなた方と戦えないとつまらないですわ! それでは、ごきげんよう!」
嵐のような子だったな。しかし——。
「なんつーか、憎めない子だなぁ。上坂元さんって」
「はい! あたし、結構あの子のこと好きですよ! アメリカ暮らしが長かったから、ちょっぴり感覚のズレはありますけど! あはは!」
これは、意外と苦戦するかもしれんぞ、選挙戦。
元より油断や慢心などないが、気を引き締めなければならん。
「あ、おはようございますぅー! どうもぉー! 自分、黒木って言いますぅー! よろしくどうぞー!!」
ああ、そうだった。もう1人立候補者がいるんだった。
黒羽くんは、公約に『女子の制服をミニスカートに!』と言う、ハガレンのマスタング大佐みたいな事をガチで書いたある意味では
さらに小さい字で『女子の夏の制服は脇が見えるように!』と、すげぇニッチなてめぇの趣味を自分からバラした、やはり
眼鏡の奥の邪念を隠しきれていない彼。
鬼瓦くんの収集したデータによると、獲得予想票数はマイナス80とか。
どういう計算なのかは分からんが、なんか納得してしまった。
「よろしくお願いしますね、黒木くん!」
「は、はぃぃ! 自分が会長になったら、副会長には絶対冴木さんを推すんで!」
「あ、あはは。ありがとうございますー」
こんな性欲の
俺だってしっかりと、礼には礼で応えねば。
「よろしくな、黒木くん!」
「……うーっす。握手は大丈夫でーす。冴木さんの手の感触忘れそうなんでー」
君とは何の遠慮もなく戦えそうだな! 安心したよ!!
そして、街頭演説の初日は、各陣営、思い通りのスタートとなったようである。
まずは最初の10日間。
しっかりと足元から地ならししていこうじゃないか。
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