第475話 氷野さん一家と会食
「にははっ、コウちゃんと一緒にマルちゃんの家に行くの初めてだねっ!」
「そういやぁ、そうだなぁ。俺ぁ何度か行った事あるけど」
「わたしだってあるもんっ! 結構行ってるもんっ! コウちゃんの浮気者!!」
人聞きの悪いスタートから、こんばんは。
現在、氷野さんのマンションに向かってお散歩中。
彼女から夕食のご招待を受けたのだ。
「絶対変な空気になるから毬萌連れて来て! お願い!!」とか言われたので、毬萌に連絡するとアホ毛をぴょこぴょこさせながらついて来た。
俺ぁ毬萌がそのうち悪い大人に
「マルちゃん、お父さんとお母さんいるって言ってたんだよね?」
「おう。家族はお姉さん以外全員でご飯食うって言ってた。それがどうかしたか?」
「んーん。ただね、マルちゃん、お父さんとお母さんが一緒だと、なんか緊張するんだって! いつもみたいに喋れないからヤダーって言ってた!」
そうだったかしらと、脳内にある氷野さんフォルダを閲覧。
割と尻蹴られてばっかりなので、探すのに苦労した。
そう言えば、成人式の時、親御さんに挨拶させてもらった時は、確かにちょっとだけ口数が少なかったような気がしないでもない。
「まあ、氷野さんってちょっと見栄っ張りなとこがあるからな! 親御さんの前では良い子でいたいんじゃねぇの?」
「そっかー! コウちゃんと真逆だねっ!」
「俺ぁありのままで生きてんだ。飽きるほど見た母さんや父さん前にして、しゃちほこばってどうすんだよ。……お? あれ、氷野さんじゃねぇか?」
確認するまでもなく氷野さんであった。
彼女のマンションの前で、心配そうにこっちを見ている。
毬萌が「みゃーっ」と氷野さんに向かってダッシュ。
毬萌に抱きつかれて、心配そうな顔がえびす顔に変化。
「おう。氷野さん。今日はお招きありがとう! ご両親にもちゃんとご挨拶をと思ってたからな! いい機会だったよ! あああ! なんでヘッドロック!? 痛い痛い」
氷野さんよりも無駄のないヘッドロックをキメられる女子を俺は知らない。
カサッて音がするんだ。締められるときにさ。
「公平! お願いだから、今日は余計なことしないで! 父さんと母さんが、どうしてもって言うからあんたを呼んだけど!」
「マジか! 光栄だなぁ! なに、俺、もしかしてご両親に気に入られちゃった!?」
「本当に、お願いだから! ロボットみたいにご飯食べて、すぐ帰って! ペッパーくんより感情豊かな顔見せたら、許さないから!!」
氷野さんも無茶を言う。
まあ、氷野さんジョークも綺麗に決まったところで、早いところお邪魔しよう。
3月とは言え、日が暮れるとやはり冷える。
毬萌に氷野さん。乙女が2人もいるのに体を冷やさせちゃいけねぇ。
エレベーターに乗って、氷野さんのお宅へお邪魔します。
すると、天使が出迎えてくれた。
「兄さまー! いらっしゃいなのですー!!」
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
「や・め・な・さ・い・よ!! それがダメだって言ってんでしょうが!!」
心菜ちゃんでウルトラソウルをキメる事を禁止されると言う緊急事態。
ならば俺は今後の人生、どのタイミングでウルトラソウルをキメたら良いのですか。
「来たか。桐島くん。久しいな」
「お久しぶりです、お父様。ご無沙汰しております」
「お父様か……。いや、丸子が選んだ君だ。そう呼ばれるのも良かろう」
「マルちゃん? なんでちょっと泣いてるの?」
「……いいの。どうせ、こうなるんだろうって思ってたから」
「まあ、今日はゆっくりしていくと良い」
「うっす。ありがとうございます。ああ、そうだ。これ、よろしかったらどうぞ」
「む。これは?」
「俺の後輩の家が洋菓子店でして。焼き菓子を
「マルちゃん? なんか震えてるー?」
「な、なんであいつ! もう、あれは過剰な気配りよ! 余計な事してぇぇ!!」
「礼節を
「ち、違うの! 父さん! 今日はその誤解をどうにかしようと思って!」
なんだか慌てふためく氷野さん。
ちょっと可愛い。微笑ましいなぁ。
「桐島くん。違うのか?」
「いえ? 氷野さん、丸子さんの見る目はいつも正しいです」
「そうか」
「はい」
「ご飯! ご飯にしましょう! ね!? 毬萌もお腹空いたでしょう!?」
「うんっ! ペコペコなのだーっ!!」
そして俺たちはリビングに通される。
相変わらず、何度来てもモダンなお宅。
何かの間違いで俺の家と入れ替わらないかな。
君の名は。的なチェンジで良いから。
「いらっしゃい、桐島くん。丸子がどうしてもと言うから、あなたの好物のお肉料理を用意しておいたわ」
はて。俺、肉料理が好きって言った事あったかな?
正直、胃もたれするし、そんなに好きではないのだが。
「こ、公平? あんた、肉料理が好きなんでしょ!? でも、残してもいいのよ! 口に合わなかったら、ホントにもう! 残して良いのよ!」
「何言ってんだ氷野さん。お母様がせっかく作って下さった料理だぜ? 残すなんてあり得ないよ! 皿まで舐めちゃう!」
「桐島くんは相変わらず、ユーモアがあるのね」
「はい。ユーモアしかない家庭で育ちましたので」
「心菜ちゃん! マルちゃんが動かなくなったけど、どうしよっか?」
「はわわ! 姉さま、最近たまにこうなるのです! 兄さまのお話になるとなのです!」
「そっかぁ! じゃあ仕方ないね!」
「なのです!」
そして眼前には中華料理。
酢豚に角煮。唐揚げが山盛り。
これは明らかに胃がもたれそう。
しかし、俺には万全の対策が既に施されているのだ。
「いただきます! おう、美味い! 美味しいです、お母様! お料理上手なんですね!」
「あら、嬉しいわね。そんなに喜んで食べてもらえると」
「桐島くん。例えばの話をしよう。君は仕事から帰って空腹だ。そこで出て来た妻の料理が不味かった。どうするね?」
「食べます」
「理由を聞こうか?」
「いや、自分の嫁さんが作ってくれたものなら、たとえ毒でも笑顔で食べるのが男だと思うんで! あ、失礼しました。思いますので!」
「そうか」
「はい」
「大した男だな」
「恐縮です」
「マルちゃーん? マルちゃーん? コウちゃん、マルちゃんが動かないよぉー」
「なんだと!?」
それはいけない。
会った時から様子がおかしかったし、どこか具合が悪いのだろうか。
「氷野さん! 大丈夫か!? 胃腸が悪いなら、俺、薬持ってるぞ!」
氷野さん、再起動。
「ばっ! ちがっ! ばっ!! あんたのせいでしょ!! もう、知らないわよ!!」
「おう、なんか分からんが、俺に至らないところがあったなら言ってくれ。直すよ」
「母さん、初々しいな」
「そうね。とても初々しいわ」
「違うから! 父さんも母さんも! 勘違いしないで!!」
「うっす。俺たちもう付き合いは1年になりますからね! あっはっは!」
「そうか。丸子と付き合って楽しいか? これは気難しいところがあるからな」
「いえ、むちゃくちゃ楽しいですよ! 毎日充実してます!」
「いやぁぁぁぁ! ヤメて、違うの! ホントにぃ! もうヤメてぇぇぇ!!」
「桐島くん」
「はい」
「丸子をこれからも、よろしく頼む」
「うっす。この身に変えても」
「ちなみに桐島くんは、和装と洋装はどちらが好きかしら」
何の話だろう。
デザートかしら?
「そこはもうお任せします。俺はこだわりとかないので」
「あら、意志は固いのに考えは柔軟なのね」
「今どき、珍しい若者だな」
そして、楽しい会食はあっと言う間に過ぎて行った。
毬萌のヤツもたんまり肉を食べて満足気。
何よりである。
「では、俺たちはお
「じゃあねー、マルちゃん! 心菜ちゃん! またねっ!」
「2人とも、また来なさい。あと、桐島くん」
「うっす。なんでしょうか」
「二十歳になったら、一緒に酒を飲もう」
「良いですね! 楽しみにしておきます!」
氷野さんが小刻みに震えながら心菜ちゃんにもたれ掛かっている。
良いなぁ。俺もそれ、やりたいなぁ。
「じゃあ、失礼します。氷野さん! また明日! あと、また来るよ!」
「……もう、来ないで。お願いだから」
「母さん。これがツンデレか」
「そうね。これがツンデレね」
「なんで……。私ばっかりこんな目に……」
今日の氷野さんはいつもの元気がなかったが、しおらしい氷野さんも、それはそれで大変可愛らしいのであった。
また来ます!!
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