生徒会長選挙編
第465話 生徒会と迫る任期満了
2月も第4週に入り、いよいよ3月もすぐそこまでやって来ている。
3月と言えば何か。
花粉症。なるほど、いきなりネガティブなところから攻めて来る。
確かに、既に飛んでいる花粉が俺のか弱い鼻や目の粘膜をイジメまくっているため、賛同するところ大なのだが、今回はそういう話じゃない。
お花見。なるほど、こんどはポジティブに打って出た。
桜と言えば俺の大好きな花の一番槍であり、毎年、桜の芽吹きから5分咲き、8分咲き、そして満開、散り桜に葉桜と、大いに俺を楽しませてくれる。
だけども、花見の話をするにはいささか早すぎる。
3月19日に行われる、花祭学園生徒会長選挙。
その日をもって、俺たち当代生徒会は任期満了により解散。
新たな生徒会に後続を任せて、このポストから引退する事になる。
その生徒会長選挙の出願が明日から始まる。
そして、俺たちは——。
「みゃーっ! コウちゃん、印鑑が足りないよぉー! 訂正印ってどこーっ!?」
「ええい、知らん! んなことよりも、俺ぁ引継ぎ書類の作成がまだ7割しか終わっとらんのだ! ちくしょう、何してたんだ、時間はあったのに!!」
えらい事になっていた。
とりあえず、言い訳をさせて欲しい。
こんなはずではなかったのだ。
そ、そう、学年末試験があったから!
勉強に集中、いやさ、全集中・
試験の前日に北海道物産展でお楽しみだっただろうって?
人の過ちはさ、
試験の結果?
ああ、そっちは問題ない。全科目、だいたい2位か3位で手堅くまとめたから。
総合ではバッチリ2位キープ。首席は当然だが毬萌。
そうそう、聞いてよ、保健体育の試験だけ1位だった!
今回の範囲、男性と女性の体の部位に関する問題が多くてさ!
過去に乳房が恥ずかしくて書けなかった毬萌である。
陰茎とか、書けるはずがないのである。
失敬。タメを作ってまで出す言葉じゃなかった。
許してヒヤシンス。
「毬萌先輩! ありましたよー! これじゃないですか!?」
「あーっ! ホントだーっ! ありがと、花梨ちゃん! これで全部そろったよぉー」
毬萌の補佐は花梨がやってくれている。
通常の業務をこなしながら。なんて優秀な子でしょう。
とにかく、晩節を汚そうとしている俺たち。いやさ、俺。
「先代の生徒会は、途中まで良かったけど、最後がアレじゃねぇ。嫌ねぇ」とか、蔑まれながら過ごす三年生のスクールライフはご免こうむりたい。
「鬼瓦くん! すまんが、そっちの資料取ってくれる!? あの、10月のヤツ!」
「了解しました。どうぞ、桐島先輩」
まだ10月の書類を完成させるところと言うのが、結構な勢いの絶望感を漂わせている。
あと4ヶ月分もあるのか。
今年だけ10月の次は3月と言う事にはできませんか。
「お、鬼瓦くん? 手が空いてたら、その、手伝ってくれても?」
「すみません、先輩。それはできません」
「鬼瓦きゅん!!」
「僕だって、お手伝いしたい気持ちは大胸筋が震えるほどあります。しかし、次期生徒会役員に立候補しようとしている僕が手出しをすると、不正になってしまいますので、どうか、お許しください、桐島先輩」
鬼瓦くんの言う事は、いつも正しい。
今のは俺が悪かった。
いくら書類に追われているとは言え、公平の名前が泣きを見るところではないか。
ん?
「鬼瓦くん! 生徒会長選挙に出るのか!?」
「あ、いえ。すみません、言葉足らずでした。会長は僕の手に余りますが、新会長に推挙して頂けたら、来年も生徒会を支えたい気持ちはあります」
「そうかぁ! いや、去年の4月に毬萌が半ば強引に連れて来て鬼瓦くんがなぁ! そうかぁ、なんか嬉しいなぁ! 俺としては是非、副会長をやって欲しい!」
「それは僕の決める事ではないですから。ただ、桐島先輩の後を継ぐことが出来たら、僕もこの上なく嬉しいと思っています」
「お、鬼瓦きゅん!!」
「ゔぁい! 桐島ぜんばい!!」
うふふふふ。天井が近いや!
高い高いされながら、俺は思うのである。
本当に、俺や花梨と違って、鬼瓦くんには生徒会役員を
もしかすると、俺の背中を見て、生徒会にやりがいを見出してくれたのかしら、なんて考えると、もっと嬉しい。
「毬萌先輩! 先輩は書類の不備はないですか?」
「うんっ! そっちは平気ーっ! 前から準備してたもんっ! 会長さんだからね! いい加減な仕事で次の会長さんに迷惑かけたくないのだ!!」
「やめて、毬萌さん! 耳が痛いから! あと胸も痛い!! 心が一番痛い!!」
「にははー。じゃあ、コウちゃんのお手伝いしたげるっ! 12月の行事、まとめるねっ!」
「ま、毬萌はん……っ!!」
「すみません、公平先輩。あたしも、一応手が出せない立場なので……」
花梨が申し訳なさそうにしているのを見て、慌てて俺は首を横に振る。
最後までみんなに迷惑かけてるなぁ、俺ってヤツも。
あたいってほんとバカ。
「花梨が気に病む事ぁねぇんだ! マジで、悪いのは」
「コウちゃんだからねっ! 気にしないで良いよーっ!!」
「くぅぅぅ! セリフ奪われても何も言えん!! よし、1月だ! あと2ヶ月分!」
「桐島先輩。次の資料をお持ちしました」
うわぁ! ラーメン二郎のトッピングくらいあるや!
軽く諦めそうになる!
「毬萌ー! 良かったら、ちょっと学食でお茶でもしないかしらー? ……あんたたち、何してんの? 税務調査される前の経理部かなにかかしら?」
増援を確認。
氷野さんは同学年なため、次期生徒会との関わりはない。
さらに、氷野さんの周辺には生徒会長選挙に出馬する予定の者はなし。
また、風紀委員に所属していたため、学園の行事にも明るい。
選挙管理委員長はするけど、それと俺の引継ぎ資料は関係ないし!
よし来た、オールグリーン!!
「氷野さん! 氷野しゃん!! 助けて、お願い! 全然書類が減らないの!!」
「ちょ、やめなさいよ! 抱きつくんじゃないわよ! 公平、あんたぁ! 普通の男だったら、もう校庭の端まで蹴り飛ばしてるところよ!?」
「そう言うって事ぁ、俺は特別なんだね!? じゃあ、助けて! 特別な俺を助けて! 大丈夫、書類はパソコンで作るから、筆跡とか気にならないし!」
「はぁ!? 私がそんなグレーな行為に手を貸すとか思ってんの!?」
「後で学食のプリン奢るから! 毬萌と一緒に! 2つ、いや、3つ!」
「みゃっ!? マルちゃん、一緒にプリン食べられるよーっ!」
「こ、今回だけなんだからね!?」
「おっしゃ! ツンデレ最高じゃあ!! 氷野さんの特別で良かったよ、俺ぁ! もう、氷野さんってば、俺の事大好きなんだから、もう、困っちゃぁぁぁぁぁぁいっ」
氷野さんのミドルキックが俺の尻と背中の間を的確に蹴りぬいた。
正確に言うと、やや尻寄り。
腰に一撃入れない辺り、俺の体への配慮が伺えて、とってもステキ。
「おし! これで俺ぁ2月に取り掛かりゃ良いんだな!? 2月は日が少ねぇうえに、まだ終わってないときてる! ありがとう2月! 大好きだ!!」
「みゃーっ! コウちゃん、こっち出来たよーっ!」
さすが毬萌。さすマリ。
元々の天才に加えてこれまで培ってきた会長職の経験が、彼女を今、まさに完全体へと昇華させている。
「じゃあ、ついでにこっちも手伝って!」と言おうとしたところ、タッチの差で花梨に毬萌を横取りされてしまう。
「毬萌先輩、ちょっと良いですか? あの、お話が……」
「うんっ! もちろんだよーっ! じゃあ、コウちゃん頑張ってねーっ!!」
部屋を出て行ってしまう2人。
お花でも摘みに行くのかしら?
いなくなった戦力を
今は、現有戦力で急場をしのぐのだ。
「さあ、氷野さん! あともうちょいだ! 頑張ろうぜ!! なぁに、こっちが片付いたら、面倒くせぇ1月の手伝いはするからさ!!」
「公平さ、どういう事情で私があんたに手伝ってもらうみたいな言い方になるわけ? 別に私、今すぐこんな作業ヤメたって良いんだからね?」
「ごめんやで、氷野さん! 好き好き、大好き! なんだかんだ助けてくれる、氷野さんのそーゆうとこ、マジで大好き! 愛してる!!」
「あああああ! もう! どうして私ってば……!! 口動かしてないで、手を動かしなさいよ!! 蹴っ飛ばすわよ!! もう! ホントに!!」
「なるほど。勉強になるなぁ」
鬼神メモ取り。
これは真似しない方がいいぜ?
素人が手を出すと、火傷じゃ済まねぇからな!
一方、この時、花梨の微妙な表情の変化に気付いてやれないのだから、俺と言う男もつくづく救い難い。
花梨の悩みを知るまで、
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