第463話 土井先輩の華麗なる未来予想図

 今日も駅前からお送りしております。

 マジで最近駅前が舞台になり過ぎだろう。


 ゴッド、言わなくても分かっているとも。

 俺だって自覚している。ネタ切……それ言っちゃダメなヤツ!!


「公平先輩! あと一軒ですね! 重くないですか? あたし持ちましょうか?」

「平気、平気。可愛い後輩に荷物持ちさせてたまるか!」


 現在、俺と花梨は学園長のおつかいミッション中。

 おつかいも続くとただの日常だよ。

 「明日からお客さんが立て続けに来るからさー、ちょっとお菓子買って来てよー! 余分に生徒会の分も買っていいからねー!」とか言ってきたチョビ髭。


 てめぇで行って下さい。


 それなのに、毬萌のお菓子センサー、またの名をアホ毛が反応した。

「みゃっ! これ、美味しい和菓子屋さんだよっ! あのね、おはぎが有名なのっ!!」


 さらに鬼瓦くんが決定打を放つ。

「ここの和菓子は評判ですよ。予約待ちでなかなか買えないとか。おや、予約してありますね。さすがは学園長」


 そして会長様が号令を出した。

「みんなっ! お菓子を買いに行くメンバーを決めよーっ!!」


 ではなにゆえ俺と花梨が選ばれたのか。

 答えは実にシンプルである。


 男が2人とも出張でばってしまっては、生徒会に男手が必要な陳情が来た場合に困る。

 よって、鬼瓦くんを残留。

 俺ひとりでも問題ないと言ったのだが、花梨がついて来た。


 俺がおつかいを落下させる危険性について熟知しているからである。


 そして毬萌でなく、花梨だった理由を最後に明かそう。

 会長は忙しいから? 残念。答えはもっと根源的な部分にある。


 あいつ、確実にスキを見てつまみ食いするからね!!


 そんな訳でおつかいミッションが始まり、もう終わろうとしている。


 目的地は三ヶ所。

 有名な和菓子屋でおはぎ、なんか高そうなお茶屋で玉露、生花店で花瓶に生ける花。

 既に残すところ花屋のみ。


 俺の腕のライフはあと半分を切っているが、どうにか耐えて欲しい。

 そんな俺たちをどこからか呼ぶ声が聞こえた。


「やあ! 桐島くんと冴木くんじゃあないか! 奇遇だな! どうした、デートかい!?」

「こんにちは。お二人に期せずしてお会いできるとは、とても幸運ですね。天海さんはすぐに恋愛に結びつけるのですから。見たところ、おつかいの途中でしょうか?」


 天海先輩と土井先輩が、駐車場の前に立っていた。

 暖かい日差しのある今日であれば、軽く雑談するのが自然な流れであった。



「お二人こそ、こんなところで何をされていたんですか? あと、お察しの通り、チョビ髭……もとい、学園長のおつかいの途中っす」

「それはそれは。お急ぎでしたら、呼び止めてしまい申し訳ございません」


 まったくお急ぎではないので、お気になさらず。

 何ならミッション諦めても多分不都合はそんなに起きないかと思われます。


「はっはっは! 2人が歩いていると、なかなかどうして! 絵になるな!!」

「もぉー! 天海先輩、ヤメてくださいよ! 公平先輩、困っちゃいますね! えへへ」


 天海先輩、花梨さんの心を一言で鷲掴みにする。

 もう、この子むちゃくちゃ嬉しそうである。全然困っていない。


「わたくしどもは、少々未来の設計図を空想していたところでございます」

「桐島くんには文化祭の後夜祭で言っただろう? 私の家が所有している土地がある、と。この駐車場になっているのがくだんの場所なのだよ!」


「ああ! 将来、お二人で店を出すって言われていた! へぇー! すごい、駅前の一等地じゃないですか!」

「先輩、先輩! 何のお話ですか?」


 俺は両先輩の許可を頂いてから、花梨にお二人のステキな将来設計について語って聞かせた。

 聞かせている途中から目をキラキラさせていたが、俺が話し終えると、もう目から光線が出るのではないかと思うほどに興奮している花梨さん。


「すごい! 夫婦でお店を経営するなんて! あたし、とっても憧れちゃいます!!」


「はっはっは! そう言ってもらえると、私たちも嬉しいな!」

「ええ。冴木さんのお母様には遠く及びませんが、ささやかな城を築きたいと考えております」


「あ、そうか。花梨のお母さんもファッションデザイナーだったな」

「桐島くんはやはり大物だな! 冴木くんのご実家を前にして平然としているとは!」

「そうですね。わたくしなど、恐縮してしまいます」


「そんなー! ママの趣味でやってるらしいので、大したことないですよ!」

「えっ!? ちょっと待って! 花梨のお母さん、そんなすげぇの!?」


 そりゃそうだ。

 海外を拠点に活動しているファッションデザイナーとか、凄いに決まっている。


「か、花梨さん? 一応、お母さんの会社の名前、教えてくんない?」

「先輩、ファッションに興味ないくせにー。メイプルフラワーってブランドです」

「おう。ありがとう。……Oh」


 なんか、久しぶりに心の底からOhが出て来た。

 スマホで検索してみたら、メイプルフラワー、むっちゃくちゃ人気のブランドのようである。

 俺でも知ってるハリウッド女優とかが贔屓ひいきにしていると書いてある。


「おや。桐島くん、そのお顔は、もしかすると……」

「土井先輩のお考えの通りだと思います。あ、血圧が下がって来ました」

「はっはっは! なんと、知らなかったのか! やはり桐島くんの器は大きいな!!」


「もぉー。皆さん大袈裟なんですから! 全然大した事ないですよぉー」



 花梨さん、人気のアパレルブランド10選に数えられてるのは、大したことだよ。



「そうだな! 冴木くん、この際だから、恥を忍んで、色々とファッションについての意見を聞きたいのだが! 少し私と話をしてくれるか?」

「もちろんです! あたしなんかでよろしければ、ぜひぜひー」


 天海先輩と花梨が、よく分からん横文字の飛び交う謎の会話を始めてしまったので、当然のように弾きだされた俺。

 そんな時にも気を遣ってくれる、土井先輩ってセクシー。


「わたくし、来月には渡米いたしますので、2人でこの土地を見ておこうと思ったのですよ。心は繋がっていても、体は離れてしまいますので」

「土井先輩でも、やっぱり不安とかって感じるんですか? あ、失礼な事を! すんません!!」


 爽やかに微笑む柔らかな鉄仮面。


「もちろんでございます。だからこそ、約束の場所を2人で見て、未来の設計図を描くのです。心が折れそうになってしまう時に、必ず役に立ちますから」

「なんか、いいっすね。そういう考えを共有できるのって」


「おや、桐島くんならば、わたくしなどよりもずっと高次元な関係を、意中のお人と構築できると思いますが? もう、決めているのでしょう?」


 やはりこの方には隠し事など出来ない模様。


「そう、ですね。あとは、タイミングって感じっす。ただ、まずは生徒会長選挙を片づけてからになると思いますけど」

「桐島くんの結末を見届けられないのは実に残念ですが、お心が迷った際は、いつでも連絡してくださいませ。わたくしでよろしければ、相談に乗りますよ」


 こんなに心強い相談相手を得られるという事が、いかに得難きものなのか。

 それくらいはポンコツな俺の頭でも計算できる。


 たまには俺も気の利いたことを言ってみようか。


「土井先輩の描く未来図は、他の誰にも真似できない、一点ものですね。二人のお店の最初のブランドじゃないっすか!」


 しばしの沈黙。

 そして訪れる、あの感情。



 ああああああ!! しょうもない事言わんかったら良かった!!!



 絶対に土井先輩は苦笑い。

 最悪、大爆笑まである。


「桐島くんは意外とロマンチストでございますね」

「……死にます」


「何をおっしゃいますか。今の言葉に、わたくしは背中を押されましたよ? 桐島くんとは、卒業してからのその先も、ずっと友誼ゆうぎを結び続けていたいですね」


「お、俺もです! いつか、先輩みたいな立派な男になってみせます!!」

「おやおや。随分とわたくしの評価が過剰で、ご自分の評価は過少でごさいますね。桐島くんの少し良くないところですよ」


 卒業式まであと数週間。

 寂しくなるなぁ。



「公平先輩! お待たせしましたぁー」

「いや、すまないな、2人とも! ついつい話が弾んでしまったよ! 桐島くん、冴木くんを取ってしまってすまなかった!」


「いえ、俺たちも有意義な話ができましたので、お気になさらず」


「なんだ、土井くん。私に内緒で後輩と盛り上がっていたのか! 相変わらず、油断も隙も無いな! はっはっは!」

「お言葉を返すようですが、天海さんこそ、たまには油断してくださいませ」



 俺たちより一年早く世界へ飛び出すお二人。

 お二人の前途が陽光に照らされるように祈ってやまない。



 あと、学園長。

 普通に生花店に行くの忘れて学園に戻って来てしまいました。


 反省してないけど、すみません。

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