第446話 花梨と誕生日会
リトルラビットにケーキを取りに行ってから、今度は毬萌の家に向かう。
放っておいたら夜まで寝ている可愛い生き物。
「コウちゃん、おっはよー!!」
しかし、イベントがある時には早起きなアホの子。
呼び鈴をスマホの先端で恐る恐る押したら、すぐに飛び出してきやがった。
こっちは呼び鈴に警戒しなければならんと言うのに。
次は押した瞬間に異次元へと呑み込まれる『ブラックホールコウちゃん1号』辺りが登場するのではないかと思っている。
「みゃっ! 甘い匂いがするっ!!」
毬萌のアホ毛が、俺の持っているケーキの箱に向かって伸びた。
やっぱりそのアホ毛、完全に意思を持っているよね?
「なんつー嗅覚だ。そうだよ、ケーキ作って来たんだよ」
「みゃーっ、やりますなぁ、コウちゃん! 手作りのお菓子とか、ポイント高い!」
「おう。実は、クリスマスの毬萌がヒントになっていてな」
「ほえ? どーゆうこと?」
「いや、あの時に手作りのマカロンくれたろ? すげぇ嬉しかったから」
「そ、そうなんだ……」
言うんじゃなかった!
毬萌さん、頬を赤らめて照れ笑い。
それはすごく可愛いけども、俺がなんだか気まずいじゃないか。
次の言葉が見つからないらしく「にへへ……」と笑いながらも、アホ毛はぴょこぴょこ動いている。
「と、とにかく、行くぞ! 遅れちまう!」
「うんっ! 行こーっ!!」
「忘れ物はないか? プレゼント持ったか? ティッシュとハンカチは?」
「持ったよぉ! コウちゃん、信用してくれないの?」
「お前と信用の間にはとてもデカくて深い溝がある。そう言えば、プレゼント何にしたんだ?」
「にははっ、それは秘密なのだっ!」
「なんだよ。俺は教えたのに」
「違うもーん! コウちゃんのは、わたしが自分で気づいたんだもーん!!」
そう言えばそうだった。
「桐島先輩! 毬萌先輩!」
しばらく歩くと、鬼瓦くんが横断歩道の向こうで手を振っている場面に遭遇。
肩におばあさんを乗せて。
「いやぁ、奇遇ですね。同じタイミングで家を出たのでしょうか」
「おう。そうだな。ところで、肩に乗ってるのは何かな?」
「道すがら、荷物を抱えておられるおばあさんを見つけたので、運んできました」
「想像と一言一句違わねぇ! すげぇ
その後、しばらく鬼瓦くんと俺と毬萌とおばあさんで談笑すると言うカオスを生み出し、おばあさんは3つ目の曲がり角で去って行った。
「ありがとうねぇ、助かったよ」と頭を下げるおばあさんに「いえ、お気遣いなく」と会釈する鬼瓦くん。
そんな彼の姿に、明るい未来を見た。
鬼神バッチリ。
「わぁ! みなさんご一緒だったんですね! お待ちしてましたー!!」
到着、冴木邸。
そして注目すべきは花梨のお召し物。
純白のドレスである。
背中が結構開いていて、何と言うか、アレがナニして目のやり場に困る。
「あ、この服ですか? パパがどうしても着ろってうるさくって。仕方がないから着てあげました! 公平先輩、似合ってますか?」
「お、おう。よく似合ってます」
「もっとちゃんと見て下さいよー! なんか、目を逸らされている気がします!!」
「ひぃやぁぁぁっ!! ヤメておくんなまし! 俺には社交界は早すぎるんだ!!」
「コウちゃん、むっつりー!! やらしいんだー!!」
「ヤメろ! むしろ、正常な反応だ!! なあ、鬼瓦くん!?」
「冴木さん、とってもドレッシーでステキです」
鬼瓦くん、謎の言葉を発して、俺を裏切る。
「あはは、ありがとうございます。鬼瓦くんでも嬉しいですよ」
「でもと言うのはひどいなぁ。僕は本心を言っているよ」
「じゃあ、真奈ちゃんがあたしと同じ格好でここに居たら、どっちを褒めますか?」
「……ゔぁあぁぁぁぁぁぁっ!! 桐島先輩!! 僕ぁ、僕ぁ!!」
「俺を裏切ったりするからだぞ。さあ、こっちへおいで。こっちは安全だ」
「ゔぁい!」
そして花梨について行くと、いつものバカ広いリビングがパーティー会場になっていた。
ものすごい量の料理が並んでいる。
あ、伊勢海老を発見。
「皆さんをお呼びするって言ったら、なんだかみんなが張り切っちゃいましてー。好きなものを適当に摘まんで下さいね!」
「お、おう。ああ、いや、その前にやっとかねぇといけねぇな」
「へ? 何をですか?」
「毬萌、会長らしく、音頭とってくれ!」
「分かったーっ! せーのっ!」
「「「お誕生日、おめでとうございます!!!」」」
「……皆さん! ふふ、とっても嬉しいです!」
そう言って、ちょっと涙ぐむ花梨。
これは大変可愛らしい。
「氷野さんと心菜ちゃんも誘ったんだが、親戚の家に行くとかでな」
「僕も真奈さんに声をかけたのですが、今日は遠慮するとの事でした。僕も遠慮するべきだったかもしれませんね」
「何言ってるんですか! 鬼瓦くんはあたしの同期ですよ! ちゃんと居てくれないと困ります!」
「ゔぁあぁあぁあぁっ!! 冴木さん!!」
「ついでに、このままプレゼント渡しちまうか?」
「そだねーっ! コウちゃんがいつ手を滑らせるんじゃないかと思うと、安心してご飯が食べられないのだっ!」
「言い方!! まるで俺の両手が限界みたいじゃないか!!」
もう15分くらいは持てるわい。
「それでは、僕から。手作りで恐縮ですが、アロマキャンドルを作って来ました。時間が経つにつれて香りが変わるようにしてあります」
「えっ、これ、作ったんですか!? ありがとうございます! ……でも、やっぱりその女子力の高さには若干引きます」
「……誰かと良い雰囲気になりたい時など、持って来いかと」
「もぉー! 鬼瓦くん! こんなにステキな物をありがとうございます!!」
花梨さん、何やら手の平がクルクルした模様。
「俺はな、一応ケーキ作って来たんだがー。いや、まさかこんな豪華な料理があるとは思わなくてだな。持って帰ろうかな?」
「何言ってるんですかぁ! 公平先輩の手作りですか!? 食べます! 今すぐ食べましょう!! すみませーん、磯部さーん!! ケーキ、切り分けて下さーい!!」
「はっ。かしこまりました、お嬢様」
磯部さん、突然背後に現れる。
おかしいぞ、このスキルは秘書の田中さんのものだったじゃないか。
「どうぞ。ご用意できました」
そして、俺が
冴木邸にて、完全に忍びの者が増えている。
「先輩、先輩! 食べても良いですか!? 良いですか!?」
「おう。つっても、マジで素人の作ったもんだからな? あんまり期待しねぇでくれよ」
「はむっ! んー! 美味しいです!! イチゴと、んー? この、シャリシャリしているのは何ですか?」
「おう。カリンだよ。カリンを砂糖に漬けて、ちょいと乾燥させたヤツ。それをクリームと一緒に混ぜてみた。スターフルーツがあれば良かったんだがな」
「公平先輩! 植物園の時のお話、覚えててくれたんですか!?」
「おう。スーパー5軒ハシゴしたんだが、スターフルーツは見つからんかった」
「えへへ、嬉しいです! あたしの名前と同じ果物のケーキ! きっと一生忘れません!!」
「そりゃあ良かった」
そして最後は毬萌の出番。
一体何を用意したのやら。
「おい。毬萌。ケーキ食ってねぇで、プレゼントは?」
「みゃっ! コウちゃんがこんなの作るからいけないんだよっ!」
いわれなきイチャモン。
「はい、花梨ちゃん! わたしからは、約束してた、これだよ!!」
「わぁー! 嬉しいです! 早速明日から着ますね!」
「なんだ? お揃いの服でも買ったのか?」
2人は顔を見合わせて、にひひと笑う。
「勝負下着だよ!」
「毬萌先輩のおススメのヤツです!!」
反応に困るったらないね!!
その後、伊勢海老を心ゆくまで堪能したり、パパ上に挨拶したり、花梨のアルバムを勝手に持って来たパパ上が花梨に嫌われたり。
そんな事をしていると、楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました!!」
「おう。こっちこそ、ご馳走になって悪ぃな」
「ぷはーっ! お腹いっぱいになったよぉー!」
「あの、次の皆さんのお誕生日は、絶対にあたし、お祝いしますからね! だから、えっと、その……」
この日一番のとびきりスマイルで、はにかみながら花梨は言った。
「ずっと、ずーっと、あたしと仲良くしてくださいね?」
こんな可愛いお願いをされて、イエス以外の返事は存在するのだろうか。
少なくとも俺には見つけられなかったし、毬萌も鬼瓦くんも同じ様子。
代表して、俺が簡潔に答える。
「おう! 年取って、じいさんとばあさんになっても、俺らはずっと仲良しだ!」
こういう割と恥ずかしいセリフも場の空気で吐ける辺り、誕生日会と言うヤツもなかなかどうして、便利なものである。
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