第443話 2月の始まりと豆まきの準備
気が付けば1月が終わっている。
そして2月はイベントが盛りだくさん。
生徒会に視点を移してみても、やる事はとても多い。
なにより、3月の第2週に行われる生徒会長選挙まで、あと1ヶ月と少ししかないので、まさにラストスパートの月とも言える。
ここまで色々と頑張ってきたのだから、画竜点睛を欠くことのないよう、精一杯駆け抜けようと思う。
生徒のみんなが笑って過ごせる時間を少しでも長く、良質なものへ。
そうとも、俺たち当代生徒会の本気ってヤツを見せてやろうじゃないか。
「花梨さんや。あと豆の袋、何個作れば良いの?」
「えーっとですね、あと1000と30個です!」
「……もういいんじゃねぇかな?」
前言の誓いを早々に撤回せねばならない事態と直面していた。
花祭学園は、ちょび
最近で言えば、去年の遠足とか、正月明けの餅つき大会もその一部。
そして、2月最初のイベントと言えば、みんなご存じ、節分である。
節分は、季節を分けるから節分と呼ばれるようになったという説がある、春の訪れを待つまさに節目の日。
また、
そして行われる、『花祭学園
生徒会をはじめ、各委員会の長が鬼に扮して学園内を駆け回り、それを見つけた生徒諸君が全力で豆を投げつけると言うイベントで、毎年行われている。
バカなんじゃないかな。
豆まきってもっと
まあ、全学園生徒で豆まきをする、までは良いだろう。
鬼役を委員会の長と生徒会が担当するのも、まあ良い。
全力で投げる事なくない?
委員会が代替わりするタイミングで、その長たる職責を
嫌われてる上司の送別会だってもう少し手加減するよ。
しかも、そんな事をしたら、学園中が豆だらけになるじゃないか。
そうとも。かつては豆だらけになっていたらしい。
そこで学園長、考えた。
「厚めのビニール袋に豆をいくつか入れたら良いよ! それで、終わった後は拾って食べるの! ああ、大丈夫、経費は僕が持つから!!」
発想は素晴らしいと思う。
ストップ食品ロスが叫ばれる昨今、いかに豆まきとは言え、大事な大豆ちゃんをわざわざ捨てる事もない。
ただ、一言よろしいだろうか。
閃いたアイデアを生徒会に丸投げすんの、ヤメろよチョビ髭。
ここで冒頭の花梨のセリフに戻るのだ。
全生徒が心行くまで豆を投げられるようにと、用意する豆袋の数は2000。
大盤振る舞いである。大変結構。
それを俺たち4人で作れってのには納得がいかない。
実際、もう1週間前から作業しているのに、出来た豆袋は目標の約半分。
節分は3日後。
間に合うかい。こんなもん。
ひたすら豆だけ袋に詰める作業なら、1週間もあれば足りたかもしれない。
が、生徒会の仕事だって普通にあるし、何なら今の時期は引継ぎの書類作成の関係で、1年で最も忙しいまである。
ちくしょう。チョビ髭のバカ野郎。
「毬萌! まだそっち終わんねぇの?」
「みゃーっ……。コウちゃん、わたし全員分のお仕事してるんだよ?」
「おう。ごめんなさい」
先週末、「あれ、これ間に合わなくね?」と悟った俺たち。
最終手段に打って出た。
天才の毬萌に生徒会の仕事を全部任せて、残った3人で豆に集中。
いやさ、全集中・豆の呼吸。
もちろん、毬萌のケアにも万全を尽くす。
オーバーワークにならないように、しっかりと様子を確認。
天才の燃料である甘いものは絶やすことなく、鬼瓦くん
この作戦が見事にハマり、現状、会長以外の役員はせっせと豆の梱包作業に励むことが出来ている。
「花梨。あとどれくらい?」
「えっと、900と52です!」
「終わる気がしねぇ!!」
それでもなお、この惨状。
もう今年の節分は中止にしたら良いんじゃないかなと思うのも、これで50回目。
アニバーサリーである。
「桐島先輩。僕、保健委員に行ってきます」
「おう。頼む。どのくらい出来てるか、進捗確認と、ご迷惑かけてごめんなさいねの差し入れな。とりあえず謝り倒しといて!」
「ゔぁい!」
そして限界を悟った俺たちは、各委員会に救援を求めた。
去年の生徒会は単独でこの任務をこなしたと言うのだから、もう泣きそう。
だけども、どの委員会も嫌な顔せずに引き受けてくれたのは、俺たちのやって来た事の集大成のように思えて、ちょっと嬉しい。
「お邪魔するわよー。風紀委員、とりあえず200作ってきたわ。どう、こっちの調子は?」
「みゃーっ、マルちゃん! ありがとーっ!!」
「毬萌のためですもの! 今、委員たちを馬車馬のように働かせているから、もう200は明日までにイケると思うわ!!」
ああ、おいたわしや、風紀委員会。
ごめんよ、俺たちが不甲斐ないばっかりに。
結局この日は、全て合わせて1300と少しまで豆袋を増やしたところで解散。
細かい作業はダラダラとやっていると効率が落ちるのだ。
翌日。
今日もせっせと豆袋。
俺はこの10日くらいで、大豆の事がちょっとだけ嫌いになった。
「花梨さん! あといくつ!?」
「500くらいですー。あと先輩、言いにくい事なんですけど……」
「えっ!? この状況で!? い、嫌だ! 聞きたくない!!」
「明日は学園内の各所に豆を設置しないといけないので、豆袋の締め切りって実質今日なんじゃないかなぁって」
「もうあかん! 間に合うはずかねぇ!!」
絶望に暮れる生徒会。
ここまでやって来て、最後の最後に失態を犯すのか。
そんなのは嫌だと泣きわめいても、妖精さんが豆袋を作ってはくれない。
もう、『豆袋』って単語が出て来る度にイライラするようになってきた。
そしてノックされる生徒会室のドア。
今日は無理だよ。誰が来たって相手できない。
そうだ、居留守を使うってのはどうだろう。
「失礼いたします。皆様、お疲れ様でございます。いかがですか、
ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
土井先輩だったぁぁぁぁぁぁっ!!
「こ、これはすみません! 作業に没頭してまして! とんだ失礼を!!」
嘘です。居留守使おうって指示出しました。俺が。
「いえいえ。この作業は昨年、わたくしたちも骨を折りましたからね。ところで、差し出がましいようですが、私と天海で三年生の有志を募りまして、先日より豆袋を作っていたのですが、よろしければお納めいただけるでしょうか?」
「ええっ!? マジですか!?」
「ええ。マジでございます。ざっと見積もって、500はあると思うのですが」
「ご、500!? それ、皆さんで作られたんですか!?」
すると土井先輩、「ふふっ」と爽やかに笑い、答える。
「有志諸君が思ったよりも多く集まりまして。彼らが皆、同じように言うのですよ。今年の生徒会には楽しませてもらったから、手助けをしたい、と」
ヤダ、先輩方……、あたいたちの事を、そんな風に?
う、嬉しい! あたい、泣いちゃいそう!!
「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
「お礼を申し上げるのは我々なのですよ。実に楽しい1年でしたので、この程度で御恩が返せるとも思いませんが。さて、わたくしも作業に参加しても?」
「えっ!? そんな、そこまでして頂くわけにゃ!!」
「桐島くん。頑張るあなたを見ていると、誰しも力を貸したくなるのですよ。神野さんも、他の皆様もきっとそうだと思います」
「うんっ! コウちゃんが必死になると、わたしも頑張れるのだっ!」
「あたしも、公平先輩に生徒会の役割を教わりました!」
「ゔぁい!!」
「ああ……!! みんな、なんだよ! 俺ぁ、解散まで涙は取っとこうって思ってんのに!!」
更にその後、保健委員会から150。
風紀委員会から200の豆袋が届き、気付けば目標を遥かに超えていた。
「マジでか……。終わったよ」
唖然としている俺に、土井先輩が一言。
「申し上げたでしょう? 力はなくとも、頑張る桐島くんは、とても美しいと」
俺は、尊敬する大先輩のお言葉を胸に、明日の節分祭に挑む。
節分さん、今年もどうにか中止にせず済みました。
明日は精々、邪気を祓い散らかしてください。
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