第432話 新春かくし芸大会! ~海の向こうからセッスクくんの罠~
「えっ!? 堀さん、かくし芸で瓦蹴り割るの!? 制服のスカートで!?」
「も、もう! 桐島くんったら、声が大きいよ!」
——ゴッ!!!
「散らばった破片を集めるのに時間がかかれそうだねぇー。どうしよっか?」
「あ、それはね、大丈夫! 高橋くんたちが、ブルーシート出してくれるって!」
「キャーッ! 堀先輩、高橋先輩と愛の共同作業ですかぁ!?」
現在、部活動対抗、新春かくし芸大会の直前打ち合わせ中である。
俺が体育館の床に倒れ伏しているのは、別に女子をローアングルで覗いちゃる! と助平心をむき出しにしている訳ではない。
「ゔぁあぁあぁぁっ! 先輩! 桐島ぜんばぁぁぁぁぁぁい!!」
「お、鬼瓦くん……。もし、タイムリープマシンが完成しても、た、試さないでくれ……。この世界線では、どの俺も、多分、こう、なる……」
「ゔぁあぁぁぁぁっ! 助けて下さい! だすげでぐだざい!!」
あ、ゴッド? 瞳をとじてが脳内に流れ始めた頃かな?
関係ないけどさ、長らく俺のベストオブ平井堅は瞳をとじてだったんだけどね。
ここに来て、ノンフィクションがすごい勢いで追い上げて来てんの。
あれ、歌詞が良いよねぇ。なんかね、刺さるってこういうのなんだなぁって。
「すみません。ソフトボール部なんですけど。あの、副会長? 何してるんですか?」
「おう。片岡さん。ちょいと、ガイアと会話をね。かくし芸?」
女子と喋るのにこのアングルはいかんよ。
「鬼瓦くん」と呼ぶと、彼は短く「はい」と答えて俺をお姫様抱っこ。
よし、これで大丈夫だな。
「んで、ソフトボール部は何するんだ?」
「えっと、地味なんですけど。最近、みんなでプロ野球選手のバッティングフォームのモノマネが流行ってて、それをクイズ形式でやろうかなって」
「なにそれ! すっげぇ楽しそう! カブレラやる!? フランコは!? 種田はスカートじゃやらねぇ方が良いと思う! 何にしても、申請書受け取ったよ。頑張って!」
「ありがとうございます! 副会長もクイズ、参加して下さいね!」
それ以降も、結構な数の部活が申請書を出しに来た。
それをお姫様抱っこされながら
女子チームも、反対側でシュババババと音を立てて捌いている。
こうやって分業ができるのも、生徒会としての完成度が極めて高くなった証拠である。
「桐島先輩! お疲れ様です!」
「おう。松井さん。どうした?」
「えっ? あれ? 氷野先輩から、司会を途中で代わるように言われて来たんですけど」
「おう? 聞いてねぇけどなぁ? おーい、毬萌よぉー」
「みゃーっ! なぁに? あ、松井さん!」
「俺が司会進行任されてたけどよ、なんか変更した? ちょっと、行き違いがあるみたいなんだが」
「あーっ! そう言えば、コウちゃんには言ってなかったよぉ!」
「うん。何を?」
「わたしたちもね、かくし芸するんだよ! サプライズで!!」
「あ、そうなの? なるほど、その時に松井さんが変わってくれるのか」
「そうなのだっ!」
「で、何すんの?」
「コウちゃんの空中きりもみ回転だよっ!!」
「うん。なんて?」
「あれぇ? だって、申請書にそう書いてあったんだけどなぁ。ほら、これ!」
「おい! なんだその英語の封書は!? ちょ、ちょっと見せてみろ!!」
そこには、俺でも読み解けるレベルの英文が綴られていた。
と言うか、俺が苦手なのはリスニングである。
英文は人並み程度にゃ読めるのだ。
「えー、なになに。私の名前はセックスです」
ごめん。ちょっと、アレだな。俺の英語の読解能力、落ちたかな?
「先輩、失敬。……この度は、私の来日が遅れたせいで、とっておきのかくし芸が披露できずに残念でありマッスル」
嘘つけ! そんな和訳があるか!!
「つきましては、コウスケに、ハロウィンパーティーで大好評を博した、空中きりもみ回転を、私の代わりに演じて欲しいのデラックス」
鬼瓦くん? 脳を乗っ取られているの?
「なお、ゴールデンセックス棒は、コウスケが封印してしまったので、大魔神との合体技で切り抜けて下さい。あなたの親友、セックスより」
「鬼瓦くん。その汚ねぇ封筒を破り捨てといてくれ」
「えーっ!? ダメだよ、コウちゃん! もう、演目順、紙に書いてステージの端に張り出してあるもん! 生徒会は嘘つかないんだよっ!!」
「何言ってんだ! こんなもん、やる前から事故るのが分かってるだろ! 鬼瓦くんからも言ってやってくれ!!」
「桐島先輩。やりましょう」
「お、鬼瓦きゅん?」
「僕は近頃、思うんです。もしも来年度、僕にまだ生徒会役員としての責務を背負う事が許されるならば、尊敬する先輩の路線を踏襲して行きたい……と!」
「おう。すげぇ嬉しいけど、ちょっと待って。俺、別に空中きりもみ回転を伝統にしたつもりはないよ? 微塵もないよ?」
「しかし、あれは僕などには考えもつかない異次元の御業でした」
俺も思いつかなかったよ。あんなクソみたいな芸。
「僕! 変われたんです! 桐島先輩のおかげで!!」
「違うよ? 鬼瓦くん? それは変わらなくて良いところだよ?」
「ちょっと、あんたたち! そろそろ始まるわよ! 公平は司会するんでしょ! 幕上げてもいいかしら!?」
「あきまへん! ちょっと待って、氷野さん! 開けんとって! 幕は開けんとってぇ!!」
ブーと言う開宴の合図とともに、上がる幕。
そうか、今年もこういうヤツ、まだあるんだね。
「えー。どうも、司会を務めます。生徒会の桐島です。……もう今日はこれでヤメませんか、皆さん!?」
会場から「わはははっ」と笑いが起きる。
氷野さんが「掴みはオッケーね!」とアイコンタクト。
そしてサムズアップ。
退路なんて最初からなかった。
「それじゃあ、女子テニス部のジャグリングです。どうぞー……」
壇上では、鮮やかなユニフォームの女子たちが、見事なボール捌きを見せる。
その中には、昨年俺に想いを伝えてくれた、小深田さんの姿も。
俺に気付いて、にこっとはにかんで見せる。とても可愛い。
そして死にたい。
「ヒュー! オレっちのカノジョ、ジュエリーのハイパーキックだぜぇ! スカートだけど、中はスパッツ履いてるから、下着ならママに見せてもらいな! ヒュー!!」
高橋。マイク、そのまま持って逃げてくれないかな?
ほら、カバディの要領でさ。
俺、怒らないから。むしろ、ビッグマック、5個までなら奢るからさ。
「せぇぇぇいっ! やぁぁぁぁっ!! はぁぁぁぁぁっ!!」
堀さんが、気合と共に、蹴りを三発。
カバディ部男子が持つ瓦が、真っ二つどころか粉々に砕け散った。
俺の心もきっとああなる。
「それでは、ここで一旦、風紀委員の私、松井がマイクを引き取らせて頂きます!」
そしてその時が来た。
「や、やめよ!? ね、花梨さんも何か言ってやって! 俺、死んじゃうから!」
「もぉー! 公平先輩、いつもそうやっておどけて見せるんですから! みんなが緊張しないように、ですよね! 頑張って、せーんぱい!!」
味方はいない。
「ちょ、鬼瓦くん! 鬼瓦きゅん! 引っ張らんといて! お願い、堪忍やで!!」
「えー。生徒会の鬼とエノキの仲良しコンビお二人による、空中きりもみ回転です! 一部では伝説となったらしいこの技! 私も初めて拝見します! どうぞ!!」
「ど、どうぞって、俺はどうしたら!?」
「桐島先輩。全身の力を抜いて下さい。大丈夫、僕は絶対手を離しません」
「ちょっ、待って! せめて良いって言うまで待って! あ、違う、今のは良いって言ってないよ! 違うの待ってぇあぁぁあひゅぅぅぅぅぅんあぁあぇえぇええぇぇい」
「ゔぁあぁぁあぁあぁあああぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁあぁっ!!!」
俺は回った。
力学とかに詳しくないから、なんで俺がほぼ垂直に近い形で回転しつつ、高度と角度を調整されながら超高速で更に回転をし続けたのかは分からない。
ただ、のちに生徒たちは語り継ぐことになる。
「あれほど見事で意味不明な芸は、見た事がない」と。
そして、俺は脳内がシェイクされて、戦線に復帰できず。
松井さんにマイクを渡したまま、会は終わった。
それからしばし。やっとまともに立てるようになった。
地球の重力にこれほど愛を感じている者はニュートンか俺くらいのものである。
「コウちゃーんっ! 教頭せんせーが呼んでるよぉー!!」
「……今、行く」
人生は苦痛ですか? 成功が全てですか?
平井堅のノンフィクションが、俺に今がまさにノンフィクションと教えてくれる。
生徒のみんなが笑顔になった事だけが、せめてもの救いであった。
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