第429話 決意の三学期! ~冴木邸で寝起きドッキリ~

 冬休みが終わりおった。


 氷野さんの家でパリピになったり、汚いおっさん助けたり。

 毬萌とアレがナニしたり、花梨のアレがナニでアレがナニしたり。

 みんなで初詣に行ったり、サイクリングに挑戦したり。


 たったこれだけしかしていないのに、冬休みが——結構色々やってた!!


 むしろ、これだけのイベントをよく2週間に凝縮させたなぁまである。

 しかも、何やら俺にしては珍しく、と言うか、生まれて初めてであるが、実に華やかな冬休みだったのではなかろうか。


 高校一年の時の冬休みを思い出してみよう。

 正月は毬萌の家でおせち食ったな。

 ……あと、何してたっけ?


 ああ、そうだ、ペルソナ4やって、そのあとペルソナ5もクリアしたんだ。

 うん。それだけかな。


 ゲームのボリュームを考えると、それはそれで「2週間でよくやったな」と拍手を送りたい俺がいるのは事実。

 それなりに充実していたし、後悔など微塵もない。


 が、今回の冬休みはどうかしている。

 俺の人生でこんなに花がほんわかばっぱと咲き散らかして良いのだろうか。

 30くらいになった時、一気に反動が襲ってくるのではと不安になるレベル。


 え? なに? おせち? 今年の? それ、今じゃないとダメ?


 父さんがチーカマ買ってきたよ。

 あと、俺がカニカマと紅白のカマボコも買った。

 それをおせちと呼んで良いなら食べたけど?


 悲しそうな顔をして黙るのはヤメておくんなまし、へぇ、ゴッドはん。


 話が逸れたが、これだけ充実した冬休みを過ごせたのは何故か。

 決まっている。決まり切っている。

 しかし、今一度、そこのところを明確にしておくべきであろう。



 毬萌と花梨。二人が、俺にはもったいない気持ちを寄せてくれているのだから。



 だから、俺の冬が華やいだ。

 冬なのに様々な色の花をでることが出来た。

 そして、それは俺にとって、とても居心地の良い場所だった。


 ならば、俺だって恩返しをしなければならない。

 彼女たちは言うだろう。


 「好きでやっているのだから、そんなものは不要だ」と


 だからこそ、俺は誠実に、彼女たちの気持ちに応える義務がある。

 是か非か。ラブかライクか。イエスかノーか。

 俺は言わなければならない。


 「好きだからこそ、答えを伝えなければならない」と。


 クリスマスが良いタイミングだと思っていたのだが、運命のいたずらにより、それは延期に。

 だが、いつまでも延期にして良い問題ではない。

 きっと彼女たちもそう思ってくれている事だろうと思う。


 決意をするべき三学期。


 生徒会が解散になる3月の生徒会長選挙。

 それまでに、俺は想いを伝えようと思う。

 誠実に、真っ直ぐに、公平な視野で。


 さあ、新しい朝だ。

 新年の書初めよろしく、ビシッとスタートを決めようじゃないか。



「あら、コウちゃん。毬萌なら花梨ちゃんの家に泊まりに行ってるわよ? ヤダ、あの子ったらコウちゃんに言ってなかったの? もう、うっかり屋さんねぇ」


 俺の書初めの半紙のど真ん中に墨汁が垂れた瞬間であった。


 毬萌が毬萌の家にいねぇ!!


 ゴッド、新しい半紙ちょうだい。え? ないの?

 じゃあ良いよ! このまま書くから!!


 俺は大急ぎで一旦帰宅。

 そののち、自転車にまたがって、いざ冴木邸へ。


「おはようございまーす。桐島です。あのー、毬萌がお邪魔してるって聞いたんですけどー。あれ、これちゃんと聞こえてます? お、おはようございまーす?」


 高そうなインターフォンって、どうしてこんなに緊張するのだろう。

 カメラがどこを映しているのか分からないから、意味もなく左右に動いてみる。


 独りでチューチュートレインしてるみたいだなぁ。


「お待たせいたしました、桐島様。お嬢様と毬萌様、共にまだおやすみになられております」

「ええっ!? あの、もう8時近いんですけど!?」

「はい」


 はい、じゃねぇんだ、守衛の人。

 このままじゃ遅刻だよ。

 始業式があるってのに、生徒会役員が3人遅刻しちゃう。


 鬼瓦くんが何をしたって言うんだ。あまりにも酷な仕打ちじゃないか。


「す、すんません。入れてもらえないですか?」

「はい。お待ちください。確認を取りますので」

「え? あの、急ぎでお願いします! マジで時間が!!」

「まず、執事に連絡を取りまして、そののち、お屋形様、もしくはお嬢様のご許可を頂かなければなりません」


「急いでください!!」


「なに? お屋形様が? 申し訳ございません。お屋形様が現在ロンドンに出張中でございまして、時差の関係でお取次ぎできません」

「あ、そ、そうなんですか!? じゃあ、花梨に!」

「お嬢様の寝室に入るためには、お屋形様か上級職員の許可が必要となります」



 ちくしょう! さすがのセキュリティだよ! すっげぇ迷惑!!



「あ、あの! そうだ、磯部さんいませんか!? 料理長の!!」

「磯部は本日、午後からの出勤となっております」

「あああああ!! じゃ、じゃあ田中さん! あ、ダメか、ロンドンですもんね」


「桐島様。田中、こちらに。何か御用でしょうか」


 背後に急に現れる黒服の人。

 振りむいたら、もう片膝ついて最初からそこに居たみたいな空気。つまり——



 忍者がいたー!!!



 聞けば田中さん、今回の出張には帯同していなかったとのこと。

 事情を説明すると「はっ」と短く返事をして、視界から消える。

 その5秒後に冴木邸の門が開いた。


 どうやって5秒で何重にもなっていたセキュリティを解除させたのかは謎。

 多分、永遠に分からない。


「桐島様。お嬢様の寝室までご案内いたします」


 そして再び、今度は眼前に現れた田中さん。

 眼前にも関わらず、最初からそこに居たみたいな空気。

 俺、視力だけは良いのに。


「お、お願いします! マジで遅刻しちまうんで! ガチでヤバいっす!!」

「かしこまりました。つまり、ウェルカムドリンクは不要、と?」


「心情的には飲みたいんですけど、飲んでる暇がないっす!!」


「はっ。桐島様。お伝えしなくてはならない事が」

「はひ、ひぃぃ、へぇ? な、なんすか?」

「そちらの扉がお嬢様の寝室にございます」


「急! 田中さん、無駄がないのは凄いですけど、俺はもっとゆとりが欲しいです!!」


「なるほど。これはお屋形様にはない発想。ふふ、さすがは次期当主様。あなた様につかえられる日を心待ちにしておりますぞ。では、ご免!」

 シュタッて音を残して、田中さんが存在ごと消えた。


 つまり、入って良いって事ですね!? そうですね!?


 俺は、自分の尻尾が気になって仕方がない柴犬のように、部屋の前で3回グルグル回ったのち、乙女の寝室へと突入を試みた。


「おい! 花梨! 起きてくれ! あと、毬萌! どっかその辺にいる!?」


 俺の家の一階くらいの広さのある花梨さんの寝室。

 とりあえず、あのクララの実家にあるみたいなベッドを目指せばいいんだな!?



 そこには、スヤスヤと高そうなパジャマを着て、気持ちよさそうに寝息を立てる花梨さん。



 どうしたものかと逡巡しゅんじゅんするも、時間はもう8時過ぎ。

 逡巡する時間も惜しい。鬼瓦くんの死のカウントダウンを止めなければ。


「花梨! おはよう! 起きてくれるか!? 花梨さん!!」


「んー。なんですかぁー、せんぱーい? もっとロマンチックに起こしてくださいよぉー。……ひゃっ!? えっ、先輩!? 公平先輩!? な、なんでですか!?」

「俺が無理言って忍び込んだからだよ! 花梨は起き抜けも可愛いなぁ!!」


「えへへ、そうですかぁ? ……って、そうじゃないですよぉ! ちょっと、パジャマなんですから、胸ばかり見ないでください!! 先輩のエッチ!!」


 これは失礼を。

 でも、ほら、相手の胸を見て話しなさいってさ、うちの父さんが。

 え? それは目じゃないかって? うん、俺も薄々気付いてた!


「花梨さん! とりあえず時計見て! ヤバいの時間が!!」

「もぉー! ちゃんと目覚まし時計セットしてますよぉー。……あれ? えっ!? な、なんでですかぁ!?」


「毬萌な、あいつ無意識に目覚まし時計のスイッチ切るんだよ。やられたな」


「へぁっ!? た、大変じゃないですかぁ! 着替えなくちゃ! あ、でもその前に髪! わぁー、ダメダメ、顔も!!」


 慌てふためく花梨は結構レアで、ずっと眺めていたいくらい可愛い。

 でも、それをやると、鬼瓦くんの死期が早まる。


「毬萌!? おい、毬萌! どこだ!?」

「毬萌先輩なら、一緒のベッドで寝ましたけど……いませんー!!」


 俺は、ベッドの端で不自然に膨らんだ毛布の塊を発見。

 勢いよくそれをはぐると、下からは新鮮な採れたてアホの子がこんにちは。



「起きろ! 毬萌!! 起きろぉぉぉ!!!」

「みゃーっ……。コウちゃん、あと6時間だけぇ……。にへへっ……」



 すまん。鬼瓦くん。

 俺は君を助けられないかもしれない。

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