第415話 氷野さんとクリスマス会の誘い
「えっ!? 俺がパリピに!?」
突然の事態だった。
まずは順を追って説明させてほしい。
そして、前回クリスマスはリア充とパリピに任せると言ったが、アレは嘘だ。
正確には、誤りがあった。
俺も今日から、パリピだ。
毬萌に「今年のクリスマスは中止だから、てめぇは部屋の隅っこでいやらしい本でも読んでろ」と
そんな俺のスマホが震えた。
「よもや、花梨の容体が!?」と心臓も震えさせたが、それは杞憂に終わる。
相手は氷野さんだった。
ああ、なるほど。事情の説明をしてなかったわねと納得した俺。
速やかに電話に出る。
5コール以内に出ろといつかお叱りを受けた教訓を、今こそ生かすのだ。
「うっわ! あんた、女子からの電話に出るの早すぎ! ちょっと引くわね」
乙女心が未だに分かりません。これは俺が悪いのですか、ヘイ、サンタ。
「おう。花梨の容体についてだろ? ごめんな、俺も動転してたもんだから、報告が遅れちまった。あのな、花梨は軽い風邪で」
「そんなのとっくに知ってるわよ」
なにゆえ。
「ったく、そんなだからあんたはバカ平なのよ、公平。毬萌がすぐに連絡してくれたわよ。鬼瓦武三にもするって言ってたわ」
「マジか。今日の毬萌はしっかりしてんなぁ」
「公平が呆けてるだけなんじゃない?」
「おう。その点は否定できない。しかし氷野さん、大らかな心を持っているとも言えるのではなかろうか?」
「鈍感で気の利かないって言葉をどうにか置換しようとした努力は認めてあげる」
「うっす。姐さん、恐縮です」
「って、バカ! 公平に電話したのはこんな話するためじゃないのよ! あんたのペースにはいつも巻き込まれるわね。私も毒されて来たのかしら……」
「おう。俺に何か用事でも? お役に立てると良いが」
氷野さんの声が途絶える。
何やら、息を吸ったり吐いたりしている模様。
とってもセクシー。これは伝えた方が良いのでしょうか?
「う、うちで、これからクリスマス会するんだけど、あんたも……公平も、来る!? べ、別に来たくなければ良いんだけど! そんな大したものじゃないし」
「く、くりすます、ぱ、ぱあてい?」
言葉は知っているが、実際に口から出るのは初めての単語。
まさか、この俺が、女子にクリスマスパーティーに誘われる日が来るなんて!
いや、しかし、落ち着きなはれ、桐島公平。
花梨は風邪で苦しんでいるし、毬萌だってクリスマスを楽しみにしていたのだ。
そんな中、俺だけが楽しんでいいはずがないではないか。
いいわけがない。
「あー。何となくあんたの考えてる事が分かったわ。あのね、毬萌と冴木花梨からの伝言があるの」
「おう?」
「わたしたちに気を遣って部屋の隅っこでエッチな本見てると思うから、良かったらあんたを誘ってあげて、ですって」
「なんと。そう言う話だったのか。いやぁ、俺ぁまたてっきり、女子からパーティーに誘われたのかと思って舞い上がるとこだったよ。ははは」
「……ちょっと。言っとくけど、私は例え毬萌の頼みでも、その辺の男を家に招き入れるような女じゃないんだけど? 勘違いしてんじゃないわよ」
「えっ!? 待って! じゃあ、アレかな!? 氷野さんは、俺に好意的な感情を持って、それで俺をわざわざパーティーに誘ってくれていると、そういうアレかな!?」
「ああー! もう!! そういうアレよ!! い、言っとくけど、別に男子として公平がどうこう言うんじゃないからね!? と、友達としてだから!!」
「いゃっほぉぉぉぉぉい!!」
「はしゃぐな! あと、私と二人きりじゃないから! 心菜と美空ちゃんもいるんだから、変な期待とかしないでよ!?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「……あ、今ね、なんでだろ、ものっすごくイラっとしたわ。そのリアクションの違いにかしら? やっぱり、あんた忙しいでしょ? 来なくて良いわよ」
「待ってぇー! 氷野さん、俺もパーティーに入れたってぇー!! 良い子にするからぁ! お手伝いもちゃんとするし、おめかしもして行くからぁ!!」
「はいはい。じゃ、支度したらすぐ来なさいよ。早く来ないと料理なくなるから」
こうして俺はパリピの仲間入りを果たしたのだ。
世のキノコ系男子諸君よ、さらば。
また会う時まで壮健なれ。俺は一足先に行く。
この、天空に続く
途中、ファミリーマートに寄ってファミチキを買うのも忘れない。
クリスマスイヴのこんな時間にまさか揚げたてのファミチキと遭遇できるとは、さては天も俺がパリピになる事を望んでいると見た。
そして到着。氷野さんのマンション。
玄関で部屋番号をピポパとやると、自動ドアが「おっす! おめぇよく来たなぁ!」とお出迎え。
氷野さんのマンションに入るのは、彼女が風邪を引いて寝込んでいた時以来である。
あの時に比べたら、緊張もしていない。
エントランスを抜けて、エレベーターを待っていると、見知った顔のおば様方が。
「あら! 細いお兄さん! この間ぶりねぇ!」
「今日はどうしたの? オシャレしちゃって! 細い体もなんだか輝いて見えるわね! ご飯食べてるの!? カロリー摂取してないのにそんな発光しても平気!?」
確か、あっくんとよしくんのお母様である。
俺は爽やかに、パリピらしくパッションを込めてご挨拶する。
「いやぁ、ちょいと氷野さんの家でパーティを、パーティをですね。ええ、お呼ばれしてしまいまして!」
「あらあらあら! まあ! 丸子ちゃんに誘われたの!? やるわねぇ、細いのに!」
「細いお兄さん、よっぽど気に入られているのね!」
「はっはっは! いやぁ、参りましたなぁ! はっはっは!!」
「あの厳格なお父様が男子を家に入れるなんて、すごい事よ!」
「ホントにねぇ。お姉さんが一人暮らしする時だって、ものすごく揉めたものねぇ」
「厳格な……お父さん……?」
俺のパリピ脳が一瞬にして現実に引き戻される。
そりゃそうだ。こんな時間なんだから、家の人もご在宅だよ。
そして氷野さんの性格を考えたら、ご両親が厳しい方なのも容易に想像がつく。
記憶の糸を辿ると、氷野さんが言っていたような気がする。
ご両親は、大学教授と教師をされている、と。
確実に厳格じゃないか。
急に不安になってきた。
ファミチキ片手に「うぇーい」って乗り込んで、挙句
厳格な父親には耐性があるだろうって?
もしかして、花梨のパパ上の事を言っているのかい? ヘイ、ゴッド。
あれは、ただのツンデレメロンおじさんだよ。厳格なのは見た目だけ。
おば様たちが玄関から去って行った後も、俺はその場で考える。
せめて、服を着替えてこようか。
このはしゃいだ十字架のネックレスだけでも置いてこようか。
クロムハーツなら平気? バカだなぁ、ゴッドとサンタは。
これ、俺が中学の修学旅行で買った、よく分からん十字架のネックレスだよ。
800円だった。
「ちょっと! 公平! あんた、なんで上がって来ないのよ!? 玄関からうちまでの間で行き倒れたのかと思って心配するじゃない!!」
「ひぃやぁぁぁぁぁっ!? ひ、氷野しゃん! 違うの、氷野しゃん!!」
とりあえず十字架のネックレスを引きちぎってポケットへ。
俺の腕力で引きちぎられるって、お前も相当だな。
俺は、事情を全て正直に話した。
浮ついた気持ちでホイホイやって来てごめんなさいと。
「ぷっ、ふふふっ! バカね、公平! 今日はうち、両親は姉のところに行ってるのよ。一人暮らしで男と過ごしていないかーとか言って。だから、帰って来ないわよ」
「ま、マジで!? いやー、安心したよ! つまり、今日は氷野さんの家、俺たちだけなのか!!」
「そうだって言ってんでしょ! 安心したならとっとと来る! 公平待ちなんだからね! 心菜も美空ちゃんも待ちくたびれてるわよ!!」
「おっしゃ! エレベーターのボタン連打しよう!!」
再びパリピ脳が起動。
しかし、通常の思考回路が、スリープモードに入る前に警告を残していた。
年頃の女子だけのお宅に野郎が1人で入り込むのって、ヤバくね?
すぐに考え直す。
そんなの毬萌んちでも冴木邸でも山ほど体験して来たじゃん。
平気よ、平気!!
ともあれ、パーティーだ!
もうそんなの後で考えりゃいいよ! うふふふふ!!
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