第413話 クリスマスイヴと急患 ~長い1日の始まり~

「それでねー、みんな知ってるかなぁ? ガールズバーって言うね、お姉さんとお話できる店があるんだけどねー! 最近教頭先生がハマっちゃってさー!」


 まずは学園長のお話から終業式は始まる。

 そしてのっけからのブースト。スピード違反もほどほどにして下さい。


「……桐島くん。この間の剣幕で、学園長の頭を銃弾で撃ち抜いてくれないかねぇ? 若い子はそういうゲームするって言うからねぇ」

「うっす。自分、もう大人しくしてるって決めたんで」


 あと、俺その手のゲームにはうといんです。

 1回だけやったことがあるけど、開始数秒で外国人によく分からない言葉を叫ばれたかと思ったら、眉間撃ち抜かれて死んでた。

 俺、ゲームの世界でまでちょいちょい死ぬのは嫌です。



 さてさて、なにゆえ俺が普通にステージ脇で控えているかと言えば、今回から毬萌が登壇とうだんするタイミングで幕を下ろす事になったからである。


 氷野さんが「どうせ公平、死にそうになってクリスマスがパーになるんでしょ?」と、ものすごくありそうな予言をしたのち、「良いわよ。このくらいなら、協力してあげる。貸しにしとくから年内に返しなさいよ」と姐御パワーを発揮。


 おかげ様で、講壇に潜むのは、毬萌が喋る15分だけ。

 かつてこんなに楽な集会があっただろうか。


 特に、始業式、終業式は拘束時間も長く、毎回実に苦心していた。

 氷野さんのステキなアシストに心温まる思いである。

 いっそセクシー。今度本人に伝えてあげよう。


「で、教頭先生が言うの! ボクはモモカちゃんの気持ちには応えてあげられないよ! 家族がいるからねぇ! だって! 妻子に逃げれてるのに! ぷー!! くすくす!!」


「桐島くん」

「うっす」

「僕はねぇ、君の事があまり好きじゃないんだけどねぇ」

「うっす。存じております」


「学園長の嫌い度合いを数値化して、仮に1とした場合、君の嫌い度合いは消滅するねぇ。つまり、今この瞬間、ボクは君の事が嫌いじゃないんだよねぇ」

「うっす。恐縮です」


「男ってのは、やらなきゃけない時って言うのがあるよねぇ! 今がその時! 桐島くん、止めないで欲しいねぇ!!」


 そしてドスドスと、放送設備を担当している鬼瓦くんのところへ向かう教頭。


「ゔぁあぁぁっ! 教頭先生!? 何をするのですか!?」

「鬼瓦くんと言ったねぇ。ここは見逃してくれないかねぇ。マイクを切るんだよ!」


「き、桐島先輩!! だずげでぐだざいぃぃ!!」

「おう。こいつぁいけねぇ」


 とは言え、俺が狂い猛るババコンガの前に行っても吹っ飛ばされるのがオチ。

 ならばどうする。

 悪の根源に退場して頂くのだ。


「えー。学園長のお話もクライマックスですが、そろそろお時間です。続きを聞きたい方は、学園長室まで。暇なそうなので、多分歓迎されます」


「あららー、残念! ここからが熱い展開だったのにね! 教頭先生の恋の続きが聞きたい人は、僕の部屋にいつでもおいでー! お菓子もあるよー!!」


 そして学園長はニコニコ笑顔で降壇。

 余談だが、この日学園長室を訪ねた生徒は20を超え、彼はその一人一人に教頭の悲哀のストーリーを面白おかしく語ったという。

 おいたわしや、おじき。



 そして幕が下りて来て、俺と毬萌の出番である。


「おっしゃ! 行くぞ、毬萌!!」

「みゃーっ! 頑張るのだっ! ねね、コウちゃん、コウちゃんがわたしの足元に潜ってくれるのも、あとちょっとなんだねーっ」

「そうだなぁ。ああ、俺ぁ頑張ったよ」

「わたしの太もも見たくなったら、いつでも言ってねっ!!」


「見たくなっても言うかい!! 羞恥心は人並みに持ってんだぞ、俺も!!」

「にははーっ。見たいのを否定しないコウちゃん! 健全ですなぁー!」


 朝飯にジャム食わせ過ぎたか。ちくしょう。


 そして登壇。

 俺は入壇にゅうだん。変な造語が生まれたよ。

 久しぶりだから言っておくけど、講壇は人が入るものじゃないからね。


 幕が上がって、毬萌のお喋りタイムがスタート。


「皆さん、おはようございますっ! とっても良いお天気ですね! でもでも、今日は雪だった方がいい人もいるのかなぁ? ホワイトクリスマスってロマンチックですもんねっ! わたしだって、ちょっぴり憧れています!」


 オーディエンスが沸く。


「会長は誰と過ごすのー!?」「自分、今日の予定空いてまーす!」「好きだー!!」


「にははっ、ありがとうございます! わたしだって、ステキなクリスマスになると良いなと思っていますよ! ではでは、年明けのスケジュールについて……みゃ?」


 これだけ回数をこなしてもしっかり俺の前ではスキだらけな毬萌。

 いっそ清々しいなぁ。


「始業式の後に、餅つき大会だ。んで、その後は部活の有志による新春かくし芸大会が体育館であるぞ。時間を言い忘れんな!」

「そだそだー。コウちゃん、ありがとっ!」


 そんな感じで、つつがなく始業式は終わった。

 さらに各クラスに分かれて、通知表の配布と言う負けイベントをこなす。


 俺? 当然、オール5だよ。

 体育が1なのと美術が2なのを除けばな!!


 そして、冬休みにはめ外すなよと先生からありがたいお言葉をたまわって、本年度の学園生活は終了。

 お疲れさまでした。



「だぁー。今日も疲れたなぁ」

「お疲れなのだーっ! 一年生はまだ来てないね?」

「みたいだな。しゃーねぇな、俺が飲み物淹れてやるよ」


 結局仕事がなくとも生徒会室に来てしまう、俺と毬萌。

 これはもう習慣だ。どうしようもない。


「いやー。ついに生徒会としての1年も終わっちまうなー。むちゃくちゃ忙しかったが、それなりに充実していた気がする。ほれ。ミロ。熱いぞ」

「みゃーっ! ありがと、コウちゃん! そだねー。最初はコウちゃんと二人だけだったもんねーっ!」

「それだよ。まったく、入学式から始業式のはしごはきつかった」


「わたしの太ももに夢中だったもんねっ!」

「お前! なんで今日はやたらと太もも推しなの!? 俺の1年の総括をお前の太もも色に染めないでくれる!?」


「お邪魔するわよー。毬萌ー、終業式の報告日誌持って来たわ。あら、公平もいたの? ナメック星のカエルかと思ったわ」

「おう。もはやその程度の悪口では怯まなくなった俺がいるぜ。ふふふ、そんな俺を褒め称えてもいいんだよ? 毬萌? 氷野さん?」


「ねえねえ、マルちゃん! ナメック星人ってさ、アジッサの苗があれば平気だよね。じゃあ、あのカエルは何を食べてたのかなぁ?」

「そうねぇ。あ、でも、フリーザってカニ食べてなかったかしら? 多分アニオリだと思うけど。一応動物もそこそこいるんじゃない?」



「ねえ、二人とも? 無視されると俺、結構寂しいよ?」



「ところで鬼瓦武三はまだかしら? ちょっとあの鬼にも用事があったのよ」

「それ、俺に言ってる? 俺の透明人間、解除されてる?」

「あー、もう! ウジウジうるさいわね! あんたに聞いてるに決まってるでしょ!!」


「マルちゃんとコウちゃんも仲良しになったよねぇー! とっても良い事なのだっ!」


「だ、誰がこんなヤツと!」

「おう! すっげぇ仲良し!」


「ここは同じセリフを被せるところでしょうが! 普段から芸人みたいな事してるのに、気の利かない男! このバカ平!! ふんっ!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! ありがとうございます!!」


 それにしても、確かに花梨と鬼瓦くんが遅いな。

 二年生だけでトークに花を咲かせるのも実に楽しいけども。


「今晩ね、心菜と美空ちゃんとで、クリスマス会するのよ。心菜がケーキ作るって張り切ってて。だから、鬼瓦武三にはケーキ作りのコツを聞きたかったんだけど」

「えっ!? 心菜ちゃんと美空ちゃんとパーティ!? それ、俺も行って良いヤツ!?」



「みゃーっ……」

「あんた、ホントにどうしようもないわね」



 良い感じに和んでいた俺たち。

 そんな折、急報を抱えて生徒会室に飛び込んできたのは、うちの鬼神だった。


「ゔぁあぁあぁあっ!! せ、ぜんばいがだ!!」


「おう。鬼瓦くん。今な、ちょうど君の事を」



「冴木さんが倒れました!! 今、保健室に運んできたところです!!」



 おいおい、そんな質の悪い冗談、笑えないぜ。

 眠たい考えは2秒ですっ飛ぶ。


 鬼瓦くんがそんなしょうもない嘘をつくはずがないからである。


「と、とにかく、俺らも行こう!!」

「みゃっ! 武三くん、コウちゃんをお願いっ!」

「ゔぁい! 桐島先輩、さあ僕の背中に!!」



 生徒会が全員揃わないと、今年1年が終わらないじゃないか。

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